戦国異伝
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第十七話 美濃の異変その十二
「それに対して父上の兵は」
「二千足らず」
「勝負は見えていますな」
「最早」
「そうじゃな。しかしだ」
義龍はだ。既に勝利を確信している家臣達にだ。咎める声で話してきた。
「父上が相手ぞ」
「美濃の蝮と言われた方」
「その方が相手ならばですな」
「決して油断してはならない」
「そういうことですな」
「その通りよ」
まさにそうだとだ。義龍は言うのだった。
「よいな、最後の最後まで気を抜くな」
「大殿の首を見るまでは」
「決して」
「父上の首を取った者には思うがままの褒美をやる」
それを言うのも忘れてはいなかった。
「だからだ。よいな」
「はい、それでは」
「今より兵を集め」
「そして鷺山を」
「三人衆や不破はどうか」
彼等が道三に近い立場にいることは既に美濃の誰もが知っている。だからこそ義龍は彼等のことを聞いたのである。今後の戦略の為にだ。
「あの者達はどうか」
「動かぬようです」
「どうやら」
こう答える家臣達だった。
「そしてあの竹中もです」
「自身の城に入ったまま動きません」
「決して」
「左様か。ではあの者達はよいな」
「その兵も」
「案ずることはないと」
「見張ってはおけ」
このことを言うのも忘れない。義龍は何処までも慎重である。
「よいな」
「目を離さずですか」
「常に」
「そうだ、油断ならぬ」
しかしなのだった。ここでこうも言う義龍だった。
「しかしだ。あの者達はだ」
「三人衆と不破殿、そして」
「竹中もですか」
「その五人は」
「美濃にとって必要な者達だ」
その才をわかっているからこそだった。義龍は言うのであった。
「だからだ。ここでわしにつかずとも動かなければだ」
「用いられますか」
「そうされるというのですね」
「うむ、そうする」
まさにその通りだというのであった。
「わしが主となった後の美濃を治める為に必要な者達だ」
「だからこそ動きさえしなければ」
「用いられますね」
「そうされると」
「その通りよ。さて」
ここまで話してだった。また言う義龍だった。
「これからにかかっておるぞ」
「美濃は」
「どうなるかがですね」
「そういうことよ。では兵を起こす」
こうしてだった。義龍は挙兵した。その鬨の声は稲葉山城とは長良川を挟んで向こう側にある鷺山城にも届いたのだった。
それを聞いてだ。道三の周りの者達が彼に告げてきた。
「では殿」
「我等も今より」
「兵を」
「よいか」
道三は己の座に座ったまま述べるのだった。
「親や妻子のある者はだ」
「はい」
「どうされよと」
「無理にでも去らせよ」
こう周りに告げるのだった。
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