戦国異伝
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第十七話 美濃の異変その十一
「別に何処も攻めて来ることもないしのう」
「確かに。今川も今は備えているようですし」
「伊勢は国人同士でいがみ合っております」
「さすれば」
「五千もあれば充分よ。むしろ多い位じゃな」
「しかし五千ですか」
「それだけの兵を置いておくと」
「うむ、置いておく」
こう家臣達の言葉に述べる。またしてもであった。
「流石に一人もおらんのでは今川もすぐに攻めて来るからのう」
「それに勘十郎様もですな」
「動かれる恐れがある」
「そういったことを考えての五千じゃ」
そうだというのであった。信長はそこまで考えているのであった。今の尾張は決して安寧たる状況にはなかったのである。むしろその逆だった。
そうしたことを踏まえて彼は兵を置きそのうえで一万の兵で美濃に向かった。そしてその頃にはであった。
美濃では戦がはじまろうとしていた。稲葉山の義龍が動いたのである。
「弟達は尾張に逃げたか」
「逃がされたと言うべきでしょうか」
「大殿が」
周りの者達が彼にこう話してきた。
「どうやら察されたようです」
「殿が弟君達を誘い出し暗殺されようとしていたことを」
「どうやら」
「そうであろうな」
それは義龍もわかった。それも実によくだ。
「そうでなければよりによって尾張に行かせはさせぬ」
「それで弟君達はあのうつけ殿のところに身を寄せておられるようです」
「それで殿」
「どうされますか」
家臣達は義龍に尋ねた。
「ここは」
「刺客を放たれますか」
「いや、それはよい」
いいというのであった。
「今更あの者達を殺めたとしてもだ。何にもならぬ」
「左様ですか」
「それで」
「それに尾張にいてはだ」
ここで義龍の顔に忌々しげなものが宿った。
「手だしできぬ。尾張に放った密偵は近頃ことごとく姿を消しておるしな」
「どうやら織田の家臣に忍に強い者がいるようですな」
「どうやら」
「忌々しい話だ」
こう言う義龍だった。まさにその忌々しげな口調でだ。
「全く以ってな」
「織田は家臣はいいようですな」
「主はうつけ殿でも」
「それでも」
「そうだな。しかしだ」
それでもなのだった。義龍は信長についてはこの認識を変えなかった。ここでもだった。
「主があれだけのうつけ殿ではな」
「どうしようもありませんな」
「全く」
「そうよ。そしてじゃ」
義龍は話を元に戻してきた。
「弟達はもうよい」
「はっ、それでは」
「どうされますか、これから」
「最早こうなっては隠す道理もない」
信長や道三の読み通りだった。義龍は気付いてはいないがだ。
「兵を起こす。そしてよ」
「鷺山の大殿を攻め」
「そのうえで」
「滅ぼす。よいな」
「はっ、では今すぐに」
「兵を集めてですな」
「一万二千は集まるな」
兵の数もであった。道三の読み通りであった。
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