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戦国異伝

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第百十話 切支丹その六


 だがそれでもその兵の強さはというと。
「武田、上杉の兵は織田の兵に十倍します」
「武田、上杉の兵一人で当家の兵十人に値するか」
「それだけの強さがあります」
「織田の兵が弱いのか向こうが強いのか」
 信長は竹中の話を聞いてやれやれと笑う。
「どちらであろうのう」
「それは一概には言えませぬが」
「少なくとも正面から兵の強さでぶつかっても勝てぬ」
 これは絶対に無理だった。織田の兵の強さでは。
「十九万の兵も弱兵が殆どではものの役にも立たぬ」
「武田や上杉の前には」
「誰もが言っておるわ。甲斐の虎か越後の龍が動けば」
 信玄、そして謙信のことに他ならない。
「織田家の天下なぞ瞬く間に消えるとな」
「俗にそう言われていることは事実です」
「言ってくれるわ。しかしじゃ」
「しかしですか」
「その通りじゃ。じゃが」
「それでもですか」
「弱い兵でも戦い方はある」
 信長は己の話を本題に進めた。
「だからこそ長槍に鉄砲を揃えておるのじゃ」
「そして弓もですか」
「うむ」 
 織田家は弓の数も多い。大弓をとにかく数多く放ってそのうえで相手を撃っているのだ。
「そのままぶつかっては勝てぬ故にな」
「特に鉄砲と長槍ですか」
「その二つに加え具足もじゃ」
 信長はこのことも念頭に置いていた。
「それもよくしておる」
「普通の足軽の具足とは違ってきていますね」
「足軽の具足なぞ本来はみすぼらしいものじゃ」 
 袴もはかず褌の上からそのまま着ている者も多いしそもそも陣笠を被っている者もわりかし少ない。胸と腰を覆うだけの具足にしても粗末なものだ。
 だが信長はその足軽達の具足を大幅に変えた、具体的にはどうかというと。
「袴も上着も足袋も草履も絶対にしておる」
「それだけでも違います」
「裸足だとどうしても怪我をする」
 そもそもそれで駄目だった。
「だからじゃ」
「そうしたことも守りですな」
「そうじゃ。そして具足も陣笠を必ず着けさせ」
 頭からだった。
「小手や脛も守らせておる」
「そして胴も」
「みすぼらしいものは着けさせぬ」
 つまり足軽の具足も総合的によくしているというのだ。
「死ぬだけだからのう」
「足軽が死ぬこともまた」
「人が死ぬのは出来るだけ少ない方がよい」
 信長はいざとなれば躊躇はしない、しかしそうでない時は決して人の命を無駄に流させはしないのである。
 それ故に今もこう言うのである。
「足軽達の具足もよいものにする」
「そうすれば死ぬ者も少なくなりますし」
「これまでもそうしてきたがな」
 実際尾張の頃から信長は足軽達によい具足を着けさせてきている。信秀の頃までは足軽達の具足は粗末なものであり本当にその下は素足なり褌なりだったがそれを大きく変えさせたのだ。
 だから今もこう言うのである。
「それは兵が多くなっても変わらぬ」
「十九万の兵全てに」
「うむ、青い色にすると共にじゃ」
 ただ具足の色を青くさせるだけではなかった、信長はその質も一新させていたのだ。
「小手も膝も守り」
「腰に陣笠も」
「そして袴も草履もはかせる」
 道の石や転がっている欠片への備えも忘れてはいない。
「十九万の兵全てにな」
「銭はかかりますな」
「こういう時にそ使うものじゃ」
 信長はそれも構わないと返す。 
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