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戦国異伝

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第百十話 切支丹その五


「それで」
「ふむ。あそこにか」
「それではすぐにでも」
「この岐阜に呼ぶのじゃ」
「そうさせて頂きます」
「そしてじゃ」
 信長は高山達を見ながらさらに言う。
「この訓練が終わり次第二人をここに呼ぶぞ」
「そのうえで」
「まだあの者達の詳しい名前を聞いておらぬ」
 それで傍に呼ぶというのだ。
「聞いておくとしよう」
「ではそのこともまた」 
 竹中は信長のその言葉にも頷いた。
「この訓練が終わり次第」
「呼んで確かめる」
「さすれば」
「うむ、しかしのう」
 ここで信長は不意に苦笑いも見せてこうも述べた。
「やはりうちの兵はのう」
「弱いですか」
「訓練を見てもわかるからな」
 それで今言うのだった。
「それで見ていつも思うわ」
「確かに。当家の兵は」
「弱いな」
「そうでないと言えません」
 つまり信長もそう見ているのだ。
「やはり」
「うむ、十九万の兵がおってもな」
「尾張や近畿の兵ばかりです」
 ここに織田家の兵の弱さの理由があった。
「ですから」
「そうじゃな。尾張の兵は元々弱いわ」
 信長自身が最もよく知っている。尾張の兵の弱さは天下に鳴り響いているのだ。
「今川や北条、毛利の兵も大したことはないそうですが」
「それに三好もじゃな」
 その三好の兵達はあらかた織田の兵に入っている。近畿の兵達だ。
「その強さはのう」
「どうにもなりませぬ」
 そこまで弱いというのだ。
「とにかく東海や近畿、四国の兵は弱いです」
「土佐は違う様じゃがな」
「美濃も強かったのは道三様が鍛えておられたからです」
 強い将が強い兵を作る、狼に率いられた犬は狼となるということだ。
「それ故にです」
「だから美濃の兵は強かったがのう」
「しかしそれでもです」
 道三がいない今はというと。
「元の美濃の兵に戻っております」
「やはり強くないのう」
「東海で兵が強いのは三河だけです」
「竹千代のところだけじゃな」
「他は大したことはありませぬ」
 竹中はこう見ておりまさにその通りだ。
「土佐者位です、当家で強いのは」
「まさに天下の弱兵じゃな」
 信長も言う。
「そうでしかないな」
「お言葉ですが」
「わかっておる、その通りじゃ」
 信長も笑って返す。
「弱い兵を弱いと言わずして何と言う」
「それを知ってこそですか」
「敵を知り己を知らばじゃ」
 信長はこの言葉も出した。孫子にある言葉だ。
「織田の兵は弱いわ」
「まことに」
「まともに戦っては幾らいても武田や上杉の兵には勝てぬ」
「武田や上杉はまた別格ではありますが」
「しかし勝てぬのはその通りじゃな」
「はい」
 竹中もこのことはその通りだと答える。
「あの強さは無類です」
「全く以てのう」
 将帥の質では織田家も両家に全く引けを取らない。それどころか数では圧倒している位である。そして大将も負けてはいない。 
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