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戦国異伝

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第百九話 尾張者達その八


「付城を築いておくか」
「付城をですか」
「石山とは敵同士ではないがな」
 今のところはだ。しかし信長も、また本願寺の方も何時緊張関係に入るかわからないとは考えている、だからこそなのだ。
「常に見ておきたい」
「その為にもですか」
「うむ、付城を築いておくとしよう」
「本願寺が警戒しませぬか」
「これ位なら騒ぐまい。とにかく何時でもじゃ」
 例え何があってもだというのだ。
「すぐに動ける様にしておこう」
「さすれば」
「石山だけではなく他の寺にもじゃ」
「本願寺の他の主な寺の傍にもですか」
「やはり付城を築いておくか」
「今のうちにそうされますか」
 平手は信長の前にいながら応えた。
「ここは」
「近江は浅井がおるがそれでもじゃ」
「朝倉ですな」
「あの家は織田と仲が悪いからのう」
「全く。何時まで名門でいるつもりやら」
 信長もそうだが平手もその顔に嫌なものを見せる。やはり織田家にとって朝倉家はあまり心持ちのよくない相手なのだ。
 それで彼もこう言うのだ。
「当家にはあくまで従いませぬな」
「そうであろうな。暫く政にかかるが」
 それに専念してだというのだ。
「それが整ってからじゃ」
「朝倉に対して動きますか」
「それに備えて近江の南にも城を築きたい」
 北は浅井の領地だ。だが南は織田の領地になっているからこその言葉だった。
「特に安土にはな」
「あの場所にですか」
「一つ大きな城を築きたい」
 平手にこのことを話す。
「是非共な」
「ではその安土に拠点を」
「織田家の本城を築く」
 そうするというのだ。
「この岐阜では武田にすぐに戴せるが東に寄り過ぎている」
 だから天下を治めるには今一つだというのだ。
「しかも都からも離れておるしな」
「それが厄介でしたな」
 あの三好との最後の戦のことだ。
「危ういところでした」
「それもある。やはり都が肝心じゃ」
「はい、だからこそ」
「うむ、築いておきたい」 
 安土にだというのだ。
「落ち着いてからのう」
「あの地ですか」
「うむ、摂津も考えておるが」
 信長はこの国の名も出した。
「あそこと安土じゃな」
「果たしてどちらを真の拠点にされますか」
「最初は安土じゃが泰平になれば摂津か」
 時を考えての言葉だった。
「そう考えておる」
「まずは安土ですか」
「うむ、そう考えておる」
「確かに。安土は都に近く」
 平手は安土のよさをここから話した。
「武田にも上杉にも対することができますな」
「岐阜は武田に対することができるがその領土に近過ぎる」
 だから何かあれば攻め取られる恐れがあるというのだ。
 確かに岐阜城は堅固だ、だが信長はその堅固さを絶対のものとは考えていないのだ。
「どの様な城でも陥ちる時は陥ちるからのう」
「この岐阜城であっても」
「ましてや武田じゃ」
 信長は武田の凄さもわかっていた。 
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