| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百九話 尾張者達その七


「風呂もまめに入るのじゃ」
「ううむ、風呂もですか」
「まめにですか」
「まずは身奇麗にしてから全てがはじまる」
 清潔、それが大事だというのだ。
「そうせよ、よいな」
「それではですが」
 ここで平手に言ってきたのは加藤だ。一同の中で藤堂よりさらに大きい、柴田や慶次に匹敵する大きさだ。
 その彼がのそっと、虎が穴から出てきた感じで言ってきたのだ。
「虎の様に常にですな」
「虎か」
「虎は常に己の身体を舐めて奇麗にしますから」
「そうらしいがそこで虎か」
「わしは虎が好きなので」
 それで話に出したというのだ。
「ですから虎の様に強くもなりたいです」
「だからその名前なのか」
 平手は加藤の虎之助という幼名に突っ込みを入れた。
「虎の様になりたいと」
「いえ、これは親がつけた名前でして」
「また違うのじゃな」
「しかしここからもはじまっております」
 名前からもだというのだ。
「この幼名がとにかく好きでして」
「とにかく虎なのじゃな」
「はい、わしは虎です」
「なら明に行き虎を相手にせよ」
 福島が横から加藤に笑って言う。
「思う存分な」
「そうじゃな。それもよいか」
「ほほう、まことに虎を相手にするか」
「それもまた一興じゃ」
 笑ってこう言うのだった。福島に対しても。
「そして毛皮を殿に献上しようぞ」
「言うのう。ではわしは龍じゃ」
 福島も負けじとこう言う。
「龍を倒しその肝を殿に献上するぞ」
「出来るのか、御主に」
「わしならば造作もないことよ」
 二人は張り合っていた。平手はその彼等を見て頼もしく思った。
 その彼等に暫く兵の鍛錬や用兵の練習、実際の政に携わらせてみた。そのうえで信長にこう言うのだった。
「どの者も武だけではありませぬ」
「政もできるか」
「はい、どの者もです」
「それはいいことじゃ。やはり政じゃ」
 信長も平手のその話を聞いて笑顔で述べる。
「政が出来てこそじゃ」
「そうですな。特に」
「誰がよいのじゃ」
「武では虎之助、政では孫十郎です」
 この二人がいいというのだ。
「しかし虎之助は政もできまして」
「ほう、意外じゃな」
「特に築城の才がある様です」
「城をか」
「これは与右衛門もですが」 
 藤堂も築城に秀でているというのだ。
「二人の築城の才はかなりのものです」
「ではあの二人には城も築かせるか」
「入れるべきかと」
「わかった。ではそうしよう」
「これから城を多く築かれますな」
「播磨や丹後の西の端、それに近江じゃな」
 信長は城を築きたい場所を述べた。
「いざという時に守れる様にな」
「攻める時には足掛かりにする為に」
「うむ、築きたい」
 まさにその為だった。
「是非共な」
「そうされるべきですな」
「じきに毛利と接することになる」
 その彼等への備えだった。信長は既に西国に大きな力を持つこの家のことを視野にいれているのである。
 だからここでこう言うのである。
「何かあればじゃ」
「そこで食い止めますな」
「そうする。後石山じゃが」
 信長は鋭い顔になり言うのだった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧