魔法少女リリカルなのは 平凡な日常を望む転生者
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第87話 零治の過去 3月10日
新暦65年10月下旬………
「でやぁ!!」
「おっと」
抜刀で先輩に斬りかかるが、いとも簡単に避けられる。
「相変わらず速いな零治」
「簡単に避けてよく言いますよ………魔神剣!!」
魔力の衝撃波を先輩目掛けて放つ。
「おっとっと………」
先輩は横転で衝撃波も難なく躱した。
「全く、剣を使った事が無いにしては中々さまになってきたじゃないか。結構素質あるんじゃないか?」
「いえ、まだまだですよ」
しかし、先輩の言うとおり最初の頃よりは幾分マシになったと思う。
技は全てデータには入っているので出せることは出せる。
だけどそれをどのように使えば良いのかが自分で全然分かっていないので、使えない。
ゲームのアスベルのイメージで使ってみるが、それでうまくいく技とうまくいかない技がそれぞれある。
魔神剣などの衝撃波は単純に魔力を込めて刀を振るったら衝撃波が出たが、魔王炎撃波みたいな奥義技だとただ単に薙ぎ払うだけになってしまった。
なので未だに使えない技が多くあるのだが………
「よし、そろそろ終わりにするか」
「は、はい………」
何とか返事をして俺はその場に倒れ付した。
今回は刀だけで戦っていたが、ブラックサレナと比べて防御が固いわけでもないので、後半になると先輩の攻撃を避けることに精一杯になってしまい、全然攻撃出来なかった………
転移をしても複数展開したスフィアに360度攻撃され、転移で現れた瞬間攻撃を受けるという隙のない攻撃。まるで複数の敵に囲まれて戦ってるようだった………
「零治はその姿でもブラックサレナみたいなバリアーを張れるようにならないと、こういうオールレンジ攻撃に対応出来なくなるぞ」
『ですけど私の中は既にかなりパンパンで新たにデータを入れるスペースなんてありませんよ?』
俺の前にラグナルが答えたが実際その通りだった。
アスベルの剣技、ブラックサレナのアーマーと技、アーベントもブラックサレナと同じで既に容量をかなり食っている状態である。
それに高速移動のソニックムーブを入れる容量を使うともう新しいデータを入れる余裕なんて無いのだ。
「だったらちょうどいい技を教えてやる。ガキの頃まだ魔力ランクが高くなかった腐れ縁に教えた魔法だ」
そう言って先輩のデバイスからラグナルにデータを転送した。
『気休めヒーリングになんちゃってプロテクション?』
「限界まで魔力を押さえた、かろうじてプロテクションになるかなって技と気休めだけどあった方がましなヒーリングだ」
「何ですかその微妙な技は………」
『ですけど容量は少ないので大丈夫です。これなら高速移動のソニックムーブ分の容量もあります』
「………ならいいけど」
「そうそう、備えあれば懐厚しって言うだろ?」
「先輩、物凄くおしいのですが備えあれば憂いなしです」
「細かけえ事は気にするな!!」
大声で笑う先輩だけど使う本人からしてみればかなり不安なんだけど………
「そう言えば腐れ縁って人は?」
「ん?ああ、今は管理局で下っ端として働いてると思うぞ」
先輩、管理局に知り合い居たのか………?
「確かティーダ・ランスター二等空士だっけ?」
「ああ、来てたのかシャイデ」
「!?」
後ろから声が聞こえたので振り返ってみると金髪の女性、シャイデ・ミナートがいた。
先輩がひょうひょうと呼び捨てで呼んだけど、俺は結構焦ってたりする。
管理局とは直接関わりたく無いと思って本名も顔も隠していたのに、まさかのバレるなんて………
そう思って先輩を睨むと………
「そう睨むなって。それに俺達の直接のクライアントになるんだ、教えたっていいだろ?」
「ですけど!!」
「大丈夫よ、貴方が表にしたくないって言うのなら私は言わないわ、それは約束する」
真剣な顔でそう言うシャイデさん。
………まあもう知られてしまった以上、仕方がないか………
「分かりました、だけど約束は守ってくださいね、シャイデさん」
「シャイデで良いわよ、零治」
名前言ったっけ俺?
………まさか!!
「先輩、貴方バラしたでしょ?」
「ひゅーひゅー」
「口笛吹けてませんから………」
本当にこの人は………
新暦65年、11月………
「何でアンタたちがここに居るんだよ………」
「何でってこのプリント見たから」
「私はこっちに住んでいる友達に会いにと零治の小学校を観察しに」
明日は三者面談って時に、家に帰るとテーブルに座ってくつろいでる先輩とシャイデ。
先輩が俺に見せたプリントは以前、俺が捨てた筈のプリント用紙だった。
先輩は俺が独り身だってバレたときから俺の知らないうちに勝手に保護責任者になって、事実上俺の保護者に当たるのだが、何で捨てたはずのプリントが………
「まあ良いじゃない。零治がどんな態度で授業を聞いているのかも気になるし」
「シャイデは関係ないだろうが!!」
「良いじゃないの、何で私だけ………」
わざとらしい泣き前をするシャイデ。
「泣ーかせた、泣かせーた!」
「ガキか」
アホな先輩にツッコミつつ、俺は頭を抱えた………
で、結局保護者としてやって来た先輩は俺の学校生活と成績を聞いてからかう所が無かったのが残念だったのか、帰ってシャイデに絡み酒を飲んでボコボコにされたのを見て多少はすっきりしたから良かったけど………
新暦65年、12月24日………
「「メリークリスマス!!」」
「メ、メリークリスマス………」
クラッカーで盛大?なお祝いを受けた俺。
さて、クリスマスの日。
地球では今日の夜、海鳴市の上空で最終決戦をする筈だろうその日に先輩に呼び出され、昼頃に指定された場所にやって来た。
普通の高級マンションなので入りづらかったが、シャイデの名前を出すと普通に通れた。
そんでもって普通に部屋に向かったのだが………
「何よ、もっとテンション上げなさいよ………」
「本当だぜ、せっかく前々から準備していたのによ………」
何だか色々驚きの方が大きいんだけど。
まあそれはともかく………
「何で先輩が当たり前の様にくつろいでる事に驚いてるんですけど………」
おいおい、何赤くなってるんだ、中学生かあんたら………
「色々と大人にはあるのさ………」
結局出た答えがありきたりな答えだった………
まあ先輩が望んだ通り、仲良くなれて良かったって事かな………
「ほら、写真撮るぞ!」
「零治もこっちに来なさい」
だけど、ちょっとうっとおしいんだよな………
新暦66年1月中旬………
「2人共、お疲れ様」
「はぁ………疲れた………」
「流石に今日の仕事はキツかった………」
結構汚れた格好で俺と先輩はテロリストのアジトから出てきた。
最近、俺と先輩はあの事件の事以外にもシャイデから直接依頼を貰っており、今はそれ以外の仕事はしなくなっていた。
………ていうか報酬がいいので他の仕事する必要が無いのだけなのだが。
「ありがと、おかげでまた一つの組織を検挙出来たわ」
「それは良いんだけどまた陸のおっさんに睨まれたんだけど………」
「ああ、首都防衛隊隊長のゼスト・グランガイツね。あの人ってS+の魔導師だから怒らせない方が良いわよ」
「「いや、今更だよね!?」」
先輩と被ったけど悪くないと思う………
「………っとそれじゃあ俺はこれで」
「おっ、例のあの子達の面倒を見に行くのか?」
「見に行くって………まあ今だけですけど………」
「あの子達って?」
「何かコイツの家に居候している女の子達だよ。何だかボロボロだったのを助けたらしいんだ」
「へえ〜もしかしてそのまま手懐けてあんな事やこんな事を………」
「しないからな」
全くシャイデは………
「それに落ち着いたらアイツらも何処かに行くだろうさ………」
俺はそう呟いて話を変えたのだった………
「ボス、また俺らの下の組織が管理局の奴らによって検挙されやしたぜ………」
「ああ?そんなのどうでもいいだろ?それにもし奴らがやってきたらまた俺が皆殺しにしてやるさ」
「でも管理局の奴らが此処に気づいてアルカンシェルでも撃ってきたら………」
「それはねえよ、ここはミッドの50Km近くにあるし、撃てば確実にミッドの町も巻き込むからな」
「もうさっさとあの計画を実行した方が………」
「クライアントは後2ヶ月後だって言ってたんだ。早とちりはいけねえぜ」
そう言って男は話しかけた男にデバイスを突きつける。
「わ、分かってますからデバイスを下ろして下さい………」
「ふふ、悪ぃ悪ぃ、今からでも高ぶってきてな………あの綺麗なキノコ雲が今度は管理局の本局で見れるんだぜ………ふふ………」
そんな不気味な笑いがとある一室に響いたのだった………
新暦66年2月下旬………
「特定出来たのか!?」
「ええ、まだ少しだけどね。今まで片っ端から色んなテロリストのアジトや組織を潰してきた甲斐があったわ………」
「やってきたのは俺達だけどね………」
「細かい事は気にしない方が良いわよ」
2月の下旬。
シャイデに呼ばれた俺と先輩はいつもの酒場にやって来た。
呼ばれた内容はやっとあの斧のデバイス使い、バルトマン・ゲーハルトの情報を掴んだらしい。
「今まで検挙して貰った中に、あの男のデータがほんの少しだけど残っていたのよ………そして何かやろうとしている事も………それだけしか分からなかったんだけど、ある日付は特定出来たわ」
「日付?」
「ええ、3月14日。この日に何かが起こる、それだけは確かって事よ」
「そうか………3月14日か………」
先輩は自分のカード型デバイスを手に取り、見つめた。
「デバイスがどうかしたの?」
「いや、前の訓練中にガタがきちまって………」
「私が見ましょうか?これでもデバイスマイスターの資格を持ってるし、結構腕利きなのよ」
「いや、このデバイスはもう諦めてるよ。それに新しいのはアイツに任せてるんだ」
「もしかしてティーダ二等空士?」
「えっ!?」
「あれ?俺、零治に一回話したよな?確かシャイデが初めて見に来た時に」
あれ?そうだっけ?
あの時は自分の顔と名前が管理局にバレたって事に焦ってたから耳に入ってなかったな………
しかしマジかよ………まさかティアナの兄と知り合いなのか………
「でも彼下っ端でしょ?準備出来るの?」
「下っ端を舐めない方がいいぜ。というかアイツの知り合いの研究者に特注のデバイスを頼んでいたんだ。………っと取り敢えずどれくらいの出来上がってるか連絡を………」
そう言って自分の端末を出し、ティーダさんに連絡し始めた。
『…………………もしもし?』
「あれ?ティアナちゃん?駄目兄貴はどうした?」
こりゃあもう決定だな………
『いきなりお仕事が入ったって急いで出て行っちゃった………』
「マジかよ………なあティアナちゃん、俺のデバイスの事でティーダの奴、何か言ってなかったか?」
『う〜ん………あっ!?そう言えばお兄ちゃん昨日、デバイスの完成が4月頃になるって唸ってたよ。またアイツに利子を付けられるって事も言ってたと思う』
「アイツ………まあそれだけ聞ければいいや、ありがとうティアナちゃん」
『うん、ばいば〜い』
端末を切って、しまう先輩。
真顔でこちらを向いて、
「俺のデバイス間に合いそうに無い………」
淡々と言ったのだった。
「………はぁ。まあ良いわ、そのデバイス貸して。私が修理しておくわ」
「お願いします………」
あれだけ言ったのに結局頼る始末。
先輩かっこ悪………
新暦66年3月10日………
「やっと終わったわ。だけど完全には修復出来なかったわ。どんだけ古いデバイスなのよこれ………」
「オヤジの形見でな、結構いいデバイスだったからずっと使ってたから仕方ないさ」
「そんなに古いデバイスだったんですか!?」
今思うと半年以上の付き合いになるのに先輩の過去とか知らないな俺………
オヤジの形見と言ってる事からも結構複雑な過去を持ってそうだけど。
「まあな、まあ使えるだけ助かるよ、ありがとうシャイデ」
そう言ってシャイデからカード型デバイスを受け取る先輩。
そして直ぐ様セットアップした。
今まで使っていた双銃が一回り大きくなっている。
特に銃身が長くなっていて。そのまま打撃武器で使えそうだった。
「ちょっと改造したわよ。銃身を少し長くして、その分、魔力弾の速度と近戦での相手の攻撃に対応できるようにしたわ」
「おお、そりゃあ助かるわ」
嬉しそうに展開した双銃をクルクル回す先輩。
その後も確認するように色んな動きをする。
「うし、違和感も無し!それじゃあ行きますか?」
「そうね、案内するわ。そして私も今回は同行するからね」
「シャイデも!?戦えるのか?」
「バカにしないで零治、私だって執務官なのよ?ランクだってAA+あるし」
そうこの人一応執行官だった。
「ん?だったら何で今まで戦わなかったんだ?」
「えっ?だってお金を払ってるし、2人は強いから問題無いかと………」
「そう言うのは建て前で………?」
「戦うのが面倒だった!」
そう言って先輩とハイタッチする2人。
もうノリなのか訳分からん………
「さて、冗談はこれくらいにしてそろそろ行こうか」
「ええ案内するわ、付いてきて」
そう思うといきなり真面目になるし………
「はぁ………」
そんな2人に振り回されつつ、俺達は目的地へと向かった………
「ここよ」
シャイデに案内され、着いた場所はミッドから50Km程離れた場所になる古びた教会だった。
聖王教会とは別物みたく、見たことの無いマークが彫られている。
「ここは冥王崇拝者が建てた教会。昔に邪教として聖王教会と管理局に弾圧された宗教で、この教会はその時に忘れ去られた場所って所かしら?」
「確か20年前以上の事だっけか?マリアージュと呼ばれる屍兵器を自分達で作るために人体実験をしていたのが発覚したのがきっかけとか………」
「その事は私も詳しくは知らないわ。だけどここはその時の場所って所かしら」
冥王って確かイクスヴェリアだっけ?
詳しくは知らないけど、何かで名前を聞いた事がある………
「2人共こっちよ」
シャイデが先頭で俺達は中へと入っていった………
「ここらへんに………」
空になった大きな本棚の脇に腕を入れ、何かを探すシャイデ。
「おい、秘密の扉とかって魔法とかで開けるんじゃないのか?」
「いえ、この組織の人達は結構古風な物が好きなのか、こういうのに魔法は一切使わないみたいなのよ。だから………あ、あった」
そう言ってシャイデが離れると、本棚のちょうど真ん中から左右にスライドしていく。
そしてそこに地下へ続く階段が現れた………
「後は管理局に連絡を入れて………よし、行きましょ2人共」
シャイデに従い俺達は中へと入っていった。
「分かれ道ですね」
「そうね」
奥へ進んでいくと古びた教会とは全然違う光景が広がっていた。
どこぞの研究所みたく、白く綺麗な通路。
殺風景な場所ではあるが、そんな場所ほど怪しく感じた。
そして一本道を進んでいくと、2つ通路が分かれた。
「よし、なら俺が左に行くから、2人は右に行ってくれ」
「先輩が一人ですか………?」
「何でそんな不安そうな顔すんだよ………」
「私もちょっと不安ね………」
「俺ってそんなに信用無いの!?」
「私が1人でいいわよ。いきなりコンビを組めって言われても困るし………」
確かにシャイデとは一緒に戦ったことが無いので逆に邪魔しあう事にもなりかねないか………
「先輩、どうします?」
「………分かった、俺と零治で進む。だけど何かあった念話でも何でもいいから連絡してくれよ?」
「ええ、分かってるわ。そっちも気を付けてね」
そう言ってシャイデは左の道に進んでいった。
それを見送って、俺と先輩も右の道へ進んだ……
「なあ零治?」
「何ですか?」
「お前さ、いやお前らか。この事件が解決したら一緒に生活しないか?」
本当に唐突だった。
いつもいきなりが多い先輩だが、こればっかりは予想できなかった。
「何を言っているんですか?」
「いやな、この事件が終わったらさ、俺プロポーズしようと思ってさ………」
まあこの2人の仲は結構深そうだったからそれくらいは予想出来たけど、取り敢えず今言って欲しくないんだけど………
「先輩、それ死亡フラグですよ………」
「いいんだよ、そっちの方が頑張れるじゃん」
考え方が先輩らしいけど………
「俺はおめでとうと言っておけばいいんですか?」
「まあ話は最後まで聞け。それでお前達………確か零治含めて4人だっけ?俺とシャイデ含めて6人で暮らさないかって言いたかったんだよ」
………6人で?
「俺とシャイデってさ、小さいときに親を両方共無くしてるんだよ。だからこそシャイデとは共通点が多かったし、結構分かり合えたんだよ。それにシャイデは俺と違って今まで一人で生きてきたみたいだからな。俺にはランスター兄妹がいたけどシャイデには誰もいなかったみたいなんだ………だからこそ俺はアイツを心から支えてやりたいと思ったし、似たような境遇の零治達には俺やシャイデとは違い、楽しく暮らしてほしいと俺は思ってるんだ。シャイデだって絶対にOKしてくれると思うし」
本当にこの人は………だけど、
「その話は先輩がうまくいった事が前提になりますよね?」
「大丈夫、俺絶対に諦めないから」
「そういう問題じゃないし………」
全く、ポジティブ過ぎるだろ先輩………
だけど先輩らしいや。
「だけど俺含めてみんな一癖ありますよ?」
「むしろ無いとつまらん!!」
サムズアップしながら言う先輩。
そんな先輩を見て自然に笑みがこぼれた。
「もっと笑っていこうぜ零治。いつもぶっきらぼうで冷静でガキっぽく無いとずっと思ってたんだよ。だけど家族を持てば自然と笑えるようになる。俺は実際にそんな経験は無いけど、絶対そうだって断言出来る!!だからその手伝いを俺がしてやるよ」
………いつからだろうか、俺がこんな感じになったのは?
こっちに転生してきて、誰も頼る相手がいなくて、それでも生きなくちゃいけなくて、俺は毎日が必死だった。
学校に行っても基本1人だし、先輩達と出会ってなかったらもっと悲惨な事になっていたかもしれない。
「………ありがとうございます先輩」
「ちゃんとお父さんと呼ぶ練習しとけよ?」
「それは遠慮しときます」
そんな事を話ながら俺達はさらに奥へと進んでいった………
「おかしいですね………」
「ああ、そうだな」
潜入してから約5分程度。
未だに誰とも遭遇してなかった。
普通なら迎撃するのに魔導師なり用意するはずなのだが、一向に現れず、難無く進んでいった。
「誘われてるみたいですね」
「と考えると奴がこの先に居るってことかもな」
そう言われ、前に出会ったときの事を思い出す。
圧倒的威圧感と感じた事の無い殺気。
あの時はその場で固まってしまったが、今の自分はあの時とは違う。
そう思っているのだが、実際に会ってみないとかなり不安になる。
「………大丈夫だ、零治も成長してる。頼りにしてるぞ相棒」
先輩には本当に何でもお見通しだな………
「言われなくても分かってます。今度こそ2人で頑張りましょう!」
「それだけ言えれば大丈夫さ」
そして俺達は最新部の部屋に着いたのだった………
「ようこそ、双銃使いと黒の亡霊。来るのを待ってたぜ」
扉の中へ入ると大きな斧を持ち玉座にあるような大きな椅子に座ってるバルトマンがいた。
「バルトマン・ゲーハルト………」
「会いたかったぜウォーレン。お前を殺したくて殺したくて仕方がなかったぞ!!」
心から嬉しそうに大声でそう言うバルトマン。
既に圧倒的な威圧感がこの時から俺を襲っていた。
「………零治?」
「………大丈夫です」
前みたいに体が動かなくなるような事もない。
これなら充分戦える。
「ほう?そっちのガキの亡霊という異名もあながち間違いではないか………面白い」
そう言って立ち上がるバルトマン。
「さあ、2人まとめてでも構わねえ、殺り合おうぜ」
そう不適に笑いながらそう言ったのだった………
「ウガアアア!!!」
まるで獣の如く勢いで襲いかかってくるバルトマン。
俺達を分断するように間目掛けて斧を降り下ろした。
「くっ!?」
「零治、前!!」
飛び散った破片でつい目をつぶってしまった俺は、目の前に向かってきている魔力弾に反応出来なかった。
『フィールド展開!』
しかしラグナルが展開してくれたフィールドのお陰で俺に直撃することはなく、フィールドの前に消え去った。
「なるほど、噂に偽りなしか………面白い!!」
嬉しそうな顔で言うバルトマン。
斧を構え直し、俺に向かって攻撃しようとした時、
「スティンガーブラスト、クロスシフト!!」
ナイフの様な魔力弾が3つ並んでバツの字を描くように直撃し、爆発した。
「………全く、油断ならねえなおい!!」
その攻撃をもろともせずに爆煙からウォーレンに向かっていくバルトマン。
上から降り下ろした斧を双銃で受け止めた。
「ああ?なんか武器変わったか?」
「愛する人の愛のプレゼントでね」
「はっ!そりゃあいいねぇ!!」
そう言うと何やらバチバチとバルトマンの体から電気が迸る。
「まさかお前………!?」
「スパークブラストォ!!」
その電気が斧から双銃へと伝わり、ウォーレンに伝わった。
「ぐあああああ!!!」
「俺は電気変換気質でね!!それも変わった奴で、電気を放出するよりも蓄電することが得意で、筋肉に電気信号を送り、魔力以上に身体能力を上げることが出来るんだよ!」
「先輩!!!」
ビームソードを展開した零治は後ろを向いているバルトマンにそのまま斬りかかった。
「無駄ァ!!」
その攻撃を素手で受け止めるバルトマン。
「そんなのありか!?」
「……でもナイスだ」
その隙に先輩がスフィアを展開し、砲撃。
前に俺を袋叩きにした時のように相手にオールレンジ攻撃をした。
「ぬぅ!?」
流石に想定外だったのかその場から離れるバルトマン。
先輩から離れ、斧を振るって展開しているスフィアを次々と消していった。
「全く、魔導師じゃないなあいつ………」
「あんなに大きい斧を自在に操るなんて………」
俺はバルトマンが先輩のスフィアを消している内に合流した。
「どうします先輩?」
「アイツがなぜあれほど攻撃を食らって平気なのかが気になる。少しバリエーションを変えて攻撃するぞ」
「分かりました」
「前線は俺が行く。零治はグラビティブラストチャージしとけ」
「えっ!?ですがその間先輩が一人で………」
「信用しろよ零治」
そう言って先輩はバルトマンに向かっていった。
『どうします?』
「チャージするぞラグナル。だけどいつでも発射できるようにしとけ」
『イエスマスター』
こうして俺はチャージを始めた。
「高魔力反応?あのガキか………」
「悪いが時間稼ぎに付き合ってもらうぞ」
「ふふ、構わねえよ。俺の狙いは元からお前だけだよ」
(コイツ、なぜ高魔力反応があるって分かったのに平然としてるんだ………?)
ウォーレンはそんなことを思いながら、幻影を作りだし、相手を翻弄していた。
「ボルティックシューター!!」
雷の槍が高速でウォーレンに襲いかかる。
「クイックバレット!!」
ウォーレンは得意の高速の魔力弾で相殺しようとするが………
「無駄だ!!」
雷の槍は直撃する瞬間に角度を変え、ウォーレンの魔力弾を躱して、ウォーレンに向かっていった。
「ぐっ!?」
咄嗟に体を捻り、大事には至って無いが、それでも足に肩に突き刺さった。
「甘いなウォーレン」
「お前こそ………」
「何………!?」
バルトマンが気がついた時にはさっき飛ばした魔力弾が円で囲むように展開していた。
「サークルブラスター、行け!!」
円を囲んでいた魔力弾からレーザーの様な砲撃魔法が飛び、一斉に襲った。
「これで………!!」
多少の手応えを掴んだのか声に出すウォーレン。
だかそんな願いも虚しく、ダメージを感じさせない動きで爆煙を斧でなぎ払った。
「何であれだけの攻撃でダメージが無いんだって顔してるな………まあ教えてやろう。聖王の鎧って知ってるか?」
「聖王オリヴィエが持っていた固有技能か?」
「少し違うな。元々古代ベルカの王族が持っていたという防衛能力ってのが一番可能性が高いっていう話だが………まあそんな事はどうでもいい。俺はその聖王の鎧を持っているのさ」
「!?まさかお前は………!!」
「残念ながら子孫じゃねえぞ。ただ単にある科学者からこのバルバドスを貰ってな、このバルバドスには聖王の鎧の効果を纏わせる事が出来るんだよ」
「何だって!?」
「まあそうは言ってもかなりの劣化番ではあるがな。それでもある程度のダメージは無くなるし、俺自身も元々打たれ強いんでな。今まで随分と役に立ってきたのさ」
「だから俺の攻撃も………」
「いや、通ってるぜ。………ただし痛くも痒くも無いがな!!!」
再び、斧を振るい、ウォーレンに迫るバルトマン。
「………だったら先ずはその鎧を破壊しないことにはどうしようも無いな」
「一体どうやってだ、ウォーレン?」
そう問いかけながらも斧を振るうのを止めない。
ウォーレンは双銃で上手く受け流しながらチャンスを探ってた。
(鎧通しなら………ある!!)
タイミングを図って懐に潜り込むウォーレン。
「無駄だ!!お前の魔力では俺にダメージなど………」
「スパイラルバレット!!」
バルトマンの腰に双銃を当て、零距離から魔力弾を発射した。
その反動でウォーレンは後ろに吹っ飛ぶが、バルトマンも魔力弾に押され始めた。
「何だこれは!?」
「鎧通しの魔力弾。銃弾のライフルの様に回転する魔力弾はドリルの様にお前の鎧を削っていく」
「くっ、こんなもの!!!」
自信に電気を蓄電し、一気に放出。
その電気によって魔力弾は相殺された。
「これで………」
「いや、チェックメイトだ」
『マスター、かましちゃって下さい!!』
「グラビティブラスト、フルバースト!!」
声と共に腰に集束した魔力をウォーレンが魔力弾をぶつけた箇所に発射したのだった………
爆煙が部屋を覆い、奴の姿が見えなくなったが、いくら聖王の鎧でもあの攻撃を受けちゃあ無事ではないだろう………
「これで奴も流石に無傷とまではいかないだろう………」
「先輩、シャイデは大丈夫ですかね?」
「分からない、一応念話で問いかけてはいるんだけど………」
「ほう?あの女はやっぱりお前の仲間だったか………」
声をかけてきたのは煙の中から出てきたバルトマンだ。
しかし、姿はボロボロでダメージが通っていたのが見て分かる。
「もしかしてお前が愛してる女ってのもこの女か?」
そう言って俺達の目の前に大きなディスプレイを展開するバルトマン。
そこに写っているのはバインドで縛られ気絶したシャイデが男に担がれ、旅客機みたいな乗り物に乗せられていた。
「ったく、捕まえに来た執務官を違うアジトに連れていくかね普通?確かに美人だが殺すべきだと思うんだがな………」
「シャイデ!!」
「先輩、落ち着いて!これは罠かも知れないし………」
「そう思うなら無視していいんじゃねえか?だけどあれにはあの時の爆弾も積んであるぜ」
「「!?」」
「お前達は確かに優秀だったが、俺との戦いに気を取られすぎたな。あれを行かせちまえばミッドの街に綺麗なキノコ雲が出きるぜ!!」
「くっ、今からじゃ間に合わない………」
『マスター、ジャンプすれば!!』
「駄目だ、どこにいるか分からない。それに………」
鎧を破壊したとしてもアイツは全然ピンピンしている。
俺がこの場から離れたら………
「………行け、零治」
「先輩!?」
「ここは俺に任せてアレを止めに行け」
「ですけど先輩が………それにシャイデがどこにいるのかも………」
そう言うと先輩はラグナルに何かのデータを送信してきた。
『これはシャイデさんのデバイス信号?』
「違う。前にアイツに信号が映るブレスレットをプレゼントしたんだ」
「それってストーカーするためですか………?」
「違うわ!!アイツの心配してだよ!!」
「じゃあこの信号の座標にジャンプすれば………」
「アイツの所、そして今回の元凶にご対面だ」
だけどコイツとの戦いが先輩だけになってしまう………
「俺は大丈夫だ、ダメージさえ通ればどうにでもなる。それは分かるだろ?」
「………はい」
「シャイデを頼むぜ相棒?」
そう言われて俺の覚悟も決まった。
「頼みます、全て解決したら帰ってきますから」
「その時はもう戦いは終わってるぜ」
そんな先輩の軽口を聞いてから俺は転移した………
「まさか貴方が黒幕だったなんて叔父様………」
「優秀すぎるのも問題だなシャイデよ………」
白い顎髭をさすりながら目の前で縛られているシャイデを見下ろしながら言う。
「ディラク様、準備が整いました」
「よし、なら発進しろ」
先頭に居るパイロットにそう言って再びシャイデを見つめる。
「一体何のつもりなんですか!?ベヒモスの様な爆弾を持っていって………3月14日に何をするつもりなんですか?」
「………3月14日にベヒモスを管理局本局に落とし、全てを消し去る。そして我等『冥王教団』が混乱した世界を正しい方向へと修正する!」
「冥王教団って………」
「ああ、前に聖王教会と管理局に弾圧された宗教で、我等はその生き残りだ」
それを聞いて驚くシャイデ。
この男、ディラク・レオルスは管理局の中将であり、シャイデ・ミナートの叔父にあたる。
「何で………何でそんな人体実験をするような宗教に!!」
「マリアージュの様な屍兵器の開発の為だ。多少の犠牲は仕方がない」
「そんな事が許される訳が無いじゃない!!」
「だがそれが完成すれば不死身の兵士が造れる。死んでも再び蘇るような無限の兵士を!!」
「そんなもの造って何になるのよ!!」
「完成されれば魔導師の犠牲は無くなる!!テロリストなどの戦いで殉死するような魔導師も居なくなる!!お前の両親の様にな」
「!?それは………」
「実際に悲しい経験をしているお前なら分かるだろ!!その悲しみが無くなるんだぞ!?」
「だけど………だったら何で両親の仇のバルトマンを雇ってるのよ!!」
「全てを成就させるためだ!!多少の事は目を瞑る!!」
「多少の事!?」
大声でそう言ってシャイデは相手を睨む。
「さっきから多少の犠牲とか言ってるけど、それって結局バルトマンと変わらないじゃない!!自分達も研究の為に犠牲を出してるのに、それは目を瞑れですって?笑わせないで!!あなた逹も結局人殺しと何にも変わらないわ!!あなたはただ単に世界を思い通りにしたいだけでしょ!!」
「このアマ!!」
「あぐっ!?」
黙って聞いていた近くの男がシャイデを蹴り上げた。
それによって座っていた椅子からも滑り落ち、受身も取れず、床に倒れた。
「止めろ。まあ素直に話を素直に聞いてもらえるとは思っていない。しかしコイツはこれでも使い道がある。洗脳でも何でもすれば使い道もあるだろう。それでもダメだったら好きにするがいい………」
「叔父様………」
「こいつも所詮あの2人と同じって事だな………全く、親も親なら子も子って事か………」
「!?それって………」
「せっかく役に立つと思い、今まで育てて来たが、全ては無駄になったか………」
「ディラク!!」
倒れながら叫ぶが、ディラクはそのままコックピットに向かった。
「ううっ………ウォーレン………」
シャイデはそのまますすり泣く事しか出来なかった………
「ディラク様、この機内に転移反応が!!」
「何だと!?」
既に飛行している機内のコックピットで騒ぐ男達。
「まあいい、取り敢えず私達が様子を見てくる。お前は一刻も早く、アジトに迎え」
そう言ってディラクと男1人が転移反応があった場所へと向かった。
「………何泣いてるんだシャイデ?」
転移し終わり、着いた場所は大きな機内の中だった。
旅客機のようだが、席は前の方にしかなく、後ろの広いスペースには何も無かった。
そして、席の後ろの方に、シャイデが転がって啜り泣いていた。
「零治………?ウォーレンは………?」
「先輩は一人で戦っている」
そう言いながらシャイデを拘束していたバインドをビームソードで斬る。
シャイデはフラフラと立ち上がり、コックピットの方を向いた。
「許さない………絶対に許さない………」
着ている管理局の服がボロボロの事から壮絶な激戦だったのだろう。
俺達は何の障害も無かったが、シャイデも方が凄かったのが見て分かる。
「シャイデ、デバイスは?」
「戦闘中に壊れたわ。………だけど」
そう言って取り出したのは白い玉。
「バルディス、セットアップ」
バルディスとはマイスターとしてメンテするのに使うデバイスで俺も何度か見たことがある。
「だけどそれは戦闘には………」
「元々これも戦闘用なのよ。だけどマイスターの仕事をするうちにちょっと弄ったのよ。………零治、私はコックピットの方に行って過去を清算してくるわ。あなたは………」
「俺はベヒモスをどうにかしろ………だろ?」
「うん………」
シャイデはどうも俺に過去の事を知られたくないみたいだ。
………いや、自分一人で解決したいって感じだな。
心配ではあるが、ベヒモスをどうにかしなくちゃいけないのも事実。
俺は俺の戦いを、シャイデはシャイデの戦いをって事だな。
「ありがとう零治………それとなるべく早くあの人を助けに行ってね」
そのシャイデの願いを叶える為にも、俺はシャイデとは真逆の格納庫へ急いで向かった………
「ここか!?」
格納庫に着くと明らかに怪しい大きなコンテナが1つ中心に置いてある。
「あれか?」
『しかしどうします?』
「転移で違う場所に持っていく」
『無理ですね、あんなに大きい物だと絶対に無理です』
「となると………上空で爆発させるか………」
『それしかなさそうですね………』
となるとシャイデをどうにかするか、爆弾を外に落とした瞬間爆発させるか………
「ラグナル、ここは今どの辺だ?」
『海の上空ですね。今の内なら被害無く出来ると思います』
「なら決まりだな。グラビティブラストチャージ」
『イエスマスター』
俺は魔力を再び集束する。
どれくらいの耐久性があるか分からない以上、フルパワーでやるしかない。
「タイミングを間違えるなよ、俺………」
俺は自分に言い聞かせるように呟く。
そしてボタンを押して、後ろの扉を開けた。
「後はアームでコンテナを外に落として………」
機械を操作しコンテナを外に運び、そして………
「後はタイミング………」
『約2.7秒。この時間が恐らくベストになると思います。早すぎるとこの旅客機が爆風で飛行不能の可能性が、遅すぎると今度は海の生体系に影響が出るかもしれません………』
「タイミングは任せるぞラグナル」
『………分かりました、私を信じてください』
「ああ、頼むぞ」
そう言った後、アームでコンテナを外に持っていき………
「行くぞ!」
外に放り出した。
『…………………マスター!!』
「発射!!」
ラグナルのタイミングと同時にチャージしたグラビティブラストを発射。
それはコンテナを貫き、貫通した。
それと同時に大きな爆発が巻き起こる。
『フィールド展開』
俺はフィールドを展開しながら旅客機から脱出。
『!?すいません、早すぎました!!旅客機は恐らく………』
ラグナルの言うとおり、旅客機が爆風で大きく揺れ、どんどん高度が落ちて行ってる。
「大丈夫だ、シャイデは空戦も出来る………筈」
『でもあの爆風ですよ!?』
「大丈夫だ、そう信じよう!」
そう言って旅客機を見る俺。
徐々に落ちていく旅客機の中から人影が出てきた。そしてこっちに向かってくる。
「………全く、本当に無茶するわね」
そう声をかけてきたのはシャイデだ。
しかし、片手で頭を抑えてるけど………
「おかげで機内で頭をぶつけたわ。たんこぶが出来てたら………分かってるわよね?」
そう言うシャイデの顔は笑っているが目が笑っていない。
「………で、黒幕は?」
「ここに」
そう言って左手を見せる。
何やらバインドを紐のようにして持っていた。その紐と辿っていくと下の方で男3人が縛られてぶらぶらしていた。
「………重くないのか?」
「このバインドが縛った物の重さを消す効果があるから問題無いわ。後はこの3人を管理局に突き出せばこの事件も終わり。後はウォーレンね」
そうだ、先輩は今でもあの男と戦ってるんだ………
「じゃあ俺は行きます」
「ええ、終わったら何処かに食べに行きましょう」
「はい、そうしましょう」
俺はシャイデの提案を了承してから再び、先輩の所へジャンプした………
「どうなってんだよこれ………」
再びやって来たのだが、その場所はかなり崩壊していて、天井も崩れ落ちている所が所々あった。
「先輩!!」
声に出して呼ぶが、反応が無い………
「零……治………」
「先輩!?」
声が聞こえたので、声を頼りに探してみると、積み重なってる瓦礫の先から声が聞こえる。
「先輩!!」
急いでそっちに向かうと………
「よう………その様子だと上手くいったみたいだな………」
仰向けになって寝ている先輩がいた。
腹から血を流して………
「先輩!?一体誰に………」
「零治………悪い、最後の最後にドジったわ………………なあ零治、シャイデは………?」
「犯人を自分の手で捕まえて、今管理局に突き出してる所だ」
「そうか………なら取り敢えず最悪な事態は避けられたゲホッ!!ゲホッ!!」
「先輩!!」
咳と共に大量の血を吐き出す先輩。
「今直ぐに病院に………」
「零治、ただ守って上げるだけじゃ駄目なんだぞ………一方通行の思い込みは逆に相手の負担になるぞ………」
「何言ってるんですか!!そんなのいつも聞いてます!!」
そう言いながら先輩を持ち上げる。
ここの次第に揺れてきた。どうやら崩壊するみたいだ。
「お前は自分で何でも解決しようと思うから………それが一番の心配だよ………」
「黙ってて下さい、今転移しますから」
そう言って俺は直ぐにその場を離れた………
俺達がちょうど外に出ると教会は完全に崩壊した。地面に沈む姿はまるで時代から消え去っているようだ………
まあそんな事はどうでも良い。先ずは先輩の傷をどうにかしないといけない。
「すいません、医者はいませんか!!」
シャイデが呼んだ管理局の人に聞いてみるが、首を横に振られた。
話によると管理局の部隊で出た重傷者の回復で手が離せないらしい………
「くそっ!!」
自分で回復魔法が使えないのが悔しい………
「零治………」
「もう喋らないで!!今から転移で先輩を病院に運びますから!!」
魔力ももうあと僅か………
後何回出来るか分からないけど、やるしかない。
「ジャンプ!!」
病院に向けて再びジャンプした………
『マスター、魔力が!!ブラックサレナも………』
「ラグナル、ま!?」
その先を言う前に、ブラックサレナが解け、先輩の重みに耐えられなかった俺は先輩を持ったまま俺は倒れてしまった。
「せ、先輩………」
既に先輩の顔を青い。
「れ、零治………」
弱々しい声で俺の名前を呼ぶ先輩。
俺はもう一度先輩を持ち上げようとするけど、子供が大人を持ち上げられる訳が無い………
だけど諦めずに持ち上げようとする。
「シャ、シャイデをよろしく………頼む………」
「自分で守れ!!帰ったら告白するんだろ!!」
「そう………だな………お前とシャイデと、あの女の子3人と………6人で暮らすんだもんな………」
「そうだよ!!これからは明るい未来しか待ってないんだ!!シャイデも先輩も俺も!!」
「零治………家族って良いよな……………零治、家族を大事に………」
言っている途中で先輩の体から力が抜けていくのが分かる。
「先輩………?先輩!!」
その呼び掛けに二度と反応する事は無かった………
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