戦国異伝
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第百六話 二条城の普請その五
「わしもな」
「ですな、関所をなくし楽市楽座と共に」
「あと橋もかけてな」
川に橋をかけることも大事な政として信長は進めているのだ。そうしてとかく人の行き来を活発にする様に進めているのだ。
それでだ。信長はまた言うのだった。
「それだけにじゃ」
「不埒者が入ることには気をつけねばなりませんな」
「既におる場合もな」
信長はこの場合も考えていた。
「その場合もじゃ」
「領内に巣食っている者達ですか」
「やはり多いじゃろうな」
「中々姿を現さぬだけで」
「山賊なり海賊なりは飲み込んでゆく」
そうして軍勢に加えていくというのだ。
「ああした連中も禄をやると悪さをせんようになる」
「山賊、海賊は大抵はその場所の豪族なり国人なりですからな」
それがそうなっている場合が多かった。九鬼にしても元はそうした国人と言うべきか海賊と言うべきかわらかぬ者達だった。
信長はそうした者達も引き込んでいっている。それで言うのだ。
「あの者達もな」
「引き込んでいきですな」
「軍勢に組み入れる。無論性質の悪い者達は許さぬがな」
悪辣な者達は入れずに征伐していっているのだ。こうして織田家の領内は山も海も治められていっているのだ。
「狒々なり何なりが出てもな」
「成敗しますか」
「あやかしがおっても同じじゃ」
山賊や海賊と同じくだというのだ。
「成敗していく。まあ大和と紀伊の境の山は」
「あの山ですか」
「妙な噂があるがのう」
こう言うのだった。
「どうにもな」
「確かに。妖しい噂がありますな」
「うむ、尋常ではなくな」
こう平手に話していく。
「師走の二十日か」
「その日以外は何とか封じておるそうですが」
「その日だけは出て来るらしいのう」
「はい、あやかしが」
「一度見てみたいと思うがな」
信長の好奇心の強さが出た。こうしたことが強いのが彼だ。
「しかしそれはじゃ」
「お止めになられますか」
「見たいとは思う」
好奇心は見せる。
「しかしな。どうもな」
「お一人で入られるには」
「危ういか」
「殿もこれまでの傾奇者ではありませぬぞ」
平手も信長の奇矯な振る舞いが何なのかわかってきた。信長は傾いていたのである。そうしていたのだ。
「ですから」
「一人であやかしを成敗するのはか」
「それならそれがしが行きます」
「いや、爺は幾ら何でも」
「殿が行かれる位ならそれがしが行きますぞ」
「本当に年寄りの冷や水になるのう」
「またその様なことを」
二人のこうしたやり取りも久方ぶりのことだった。柴田達他の家臣達はそんな二人のやり取りを見て笑みになる。その中で柴田が笑ってこう言う。
「これでよいのじゃ」
「そう言うか」
「これでこそ織田家じゃ」
こう傍らにいる佐久間に言うのである。
「殿と平手殿がこうしたやり取りをするのがな」
「確かにな。昔からな」
「平手殿が何も言わぬ織田家なぞな」
「織田家ではないな」
「平手殿はああでなくてはな」
織田家の御意見番、それでなくてはだというのだ。
「元気がないとかえって怖いわ」
「しかしですぞ」
ここで前野が出て来て言う。
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