戦国異伝
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第百五話 岐阜に戻りその三
「他は何も」
「何と、またか」
そう聞いて義昭は驚きを隠せない。それでこう言うのだった。
「御主は無欲じゃのう」
「そう思って頂ければ幸いです」
「茶器等はいらぬか」
義昭は信長が茶器が好きなことから今度はこれを出した。
「何でも欲しいものを言ってみよ」
「公方様がお持ちのものをですか」
「刀でも具足でも書でもな」
義昭もあえて太っ腹に見せる。彼にしても将軍としての誇りがありここでこうしたものを見せない訳にはいかないのだ。
それで言ったがそれでもだった。信長はこう義昭に返した。
「いえ、家紋だけで充分です」
「そうなのか」
「そうです。お気遣いは無用です」
「何じゃ。本当に何もいらぬのか」
「はい」
その通りだと答えてだった。信長は実際に家紋以外は何も求めなかった。それで二条に城を築くことと都の信長の屋敷を完成させることは決まった。城は暫くしたら築かれることになった。
信長はこうしたことを全て決めて岐阜に戻った。するとすぐに帰蝶が彼を出迎えてきた。信長はその帰蝶にこう言った。
「久しいのう」
「そうですね。ですが」
「無事で戻ってきたことがか」
「はい、有り難いです」
このことを素直に喜ぶ帰蝶だった。彼女は戻ってきた夫にこんなことを言ってきた。
「あの、それでなのですが」
「うむ、何じゃ」
「これで二十国ですね」
信長が手に入れた国の数だ。
「そして石高は七百六十万石になりましたね」
「そうじゃ。そこまでなった」
「そうですね。ではこのことを」
「義父殿に話しに行くか」
「はい、そうしましょう」
これが帰蝶の夫への提案だった。
「是非共」
「そうじゃな。折角じゃからな」
信長も帰蝶のその言葉に頷く。そうしてだった。
二人で道三の墓、そこに向かい手を合わせた。信長はその道三の墓の前で手を合わせてからこう帰蝶に言ったのである。
「まずは二十国、手中に収めましたぞ」
「そうですね。美濃だけでなく」
「美濃を手に入れてすぐじゃったな」
もっと言えば尾張を統一し桶狭間に勝ちそれからはだった。織田家は瞬く間に美濃を手中に収めそして今に至る。ここでこう言ったのである。
「瞬きする間にじゃったな」
「そうですね、瞬く間でしたね」
「この岐阜に入ってからは特にでしたね」
「実は尾張や美濃、伊勢をじっくりと治めてからにするつもりじゃった」
当初信長はそう考えていたのだ。進出より政だったのだ。
「しかし今こうなってはじゃ」
「それではですね」
「この二十国を治める」
そうするというのだ。
「七百六十万石、じっくりとな」
「そうされますか」
「攻めてばかりでどうにもなるものではない」
「まずは政ですね」
「そうじゃ。それ故にじゃ」
「今度は政の時ですか」
「そう考えておる」
信長はまず政を観る者だ。それ故にだった。
「暫くの間じっくりと治めるか」
「この岐阜を軸にして」
「この岐阜に暫くおる」
また暫くという言葉が出される。
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