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戦国異伝

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第百四話 鬼若子への文その九


「では色で天下を飾る為にも」
「天下統一を目指されますか」
「都に戻り政もしてな」
 そうしてだった。信長は手中に収めた国をそのままにしておく男ではなかった。治めることの方を重く見ているのだ。
 それ故に今は都に戻る。そのうえでまずは義昭の前に赴くのだった。
 その彼を見てだ。松永は密かに己の家臣達に囁いた。
「ふと気付かれたかのう」
「我等のことを」
「若しや」
「ただ。いるということだけの様じゃが」
 それでも気付いたのではないかというのだ。
「微かにのう」
「ううむ、まさかと思いますが」
「そうなのでしょうか」
「殿は勘の鋭い方じゃ」
 何時の間にか松永も信長をこう呼んでいた。彼の主だと。
「それ故にじゃ」
「我等のことに気付いた」
「そうだというのですか」
「若しやな」 
 こう言うのだった。
「まあ。我等の影をちらりと見た程度の様じゃが」
「影をですか」
「それをですか」
「御覧になられたこともじゃ」
 それもだというのだ。
「まあ見間違いではと思っておられる様じゃが」
「では安心ですか」
「今のところは」
「そうじゃろうな。ましてわしがじゃ」
 他ならぬ松永自身もだった。このことのついては。
「十二家の一人ということも」
「はい、それもですか」
「流石になのですな」
「気付いておられぬな」
 それもだというのだ。
「そもそも魔界衆、十二家の存在もな」
「我等に気付いたのはこれまでも僅かでした」
「滅多におりませぬ」
「うむ。行基僧正に」
 奈良時代の高僧だ。大仏を築くのに多大な貢献をしたことでも知られている。最初は朝廷に弾圧されていたが後にその見識と人望を認められ僧正になっている。
「道鏡、坂上田村麻呂に安部清明、八幡太郎義家に平清盛」
「執権北条時宗もでしたな」
「足利尊氏に楠正成にじゃ」
「まさに僅かでした」
「気付いた者達とは争ってきましたが」
「頼朝には気付かれなかったのう」
「その代わり後白河院には気付かれましたな」
 天下の大天狗と呼ばれた法皇にはだというのだ。ここに挙げられた者達はどれも本朝の歴史に名を残す傑物達だった。
「そして争いになりました」
「その都度激しく争いましたが」
「我等は何とか生き延びておりますな」
「この様に」
「千利休殿もそうじゃったが」 
 信長とのはじめての会見の時に自分のことを見たことは忘れていなかった。
「どうもな」
「殿はそうした者達と同じですか」
「傑物ですか」
「道鏡殿は妖僧侶と思ったがのう」
 俗にそう言われてきた。それはこの戦国の世でも同じだ。
「その実はな」
「女帝に献身的に仕える者でしたな」
「野心はありましたが貪欲ではなかった」
「確かな学問も身に着けておりました」 
 それが道鏡だったというのだ。
「そうした御仁でしたから」
「我等に対してもでした」
「向かってきました」
「その後の空海なり最澄もな」
 今度はこの二人の高僧達だった。 
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