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戦国異伝

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第百四話 鬼若子への文その八


「降した家はどれもじゃ」
「色はそのままですか」
「そうする。武田の赤も上杉の黒もな」
「そのままですか」
「天下を一つにしても色が一つだけでなくともいいであろう」
「言われてみれば。それは」
「そういうことじゃ。天下を多くの色で飾るとしようぞ」
 信長は楽しげにこう話す。
「そうするつもりじゃ」
「色は多くあっていいのですか」
「では御主は色のない世界は好きか」
「いえ、それは」
 そう言われるとだ。返事は一つだった。
「寂しいものがあります」
「そうであろう。だからじゃ」
「色はいいのですか」
「うむ、これでよい」
 信長はあらためて断を述べた。
「多くの色で天下を飾ろうぞ。それにじゃ」
「それにとは」
「どうも思うのじゃ」
 不意に怪訝な声になった。信長の声がそう変わったのだ。
「天下を何やらな」
「?何やらとは?」
「色をなくそうとする者がいる様な気がするのじゃ」
「天下から色をですか」
「うむ、全て消そうとな」
 そう考えている者がいるというのだ。
「わしの気のせいであろうか」
「それはどういった考えでなのでしょうか」
「わからん。しかしじゃ」
「いますか。そうした者が」
「そんな気がする。わしの思い過ごしであればよいが」
「いえ、兄上の勘が外れたことはありませぬし」
「おるか」
「そうかと」
「では誰じゃ」
 いるとすればそれは何者なのか。信長が次に思うのはこのことだった。
「そ奴は」
「朝廷にはそうした方はおられませぬな」
「うむ。近衛殿にしてもわしに対してはな」
 山科もだった。信長は朝廷には進んで金を多く出すので評判がいいのだ。朝廷を養うことで御輿にしている政の面もあるが。
「あの方々ではない」
「では寺社でしょうか」
「そこまでする者がおるか」
 この世から色をなくそうという者がいるかどうかというのだ。
「それはどう思う」
「御仏を忘れ酒色や財に溺れる者はいますが」
 そこまではだとだ。信行も言う。
「いないのでは」
「御主もそう思うか」
「おるとすれば左道ですが」
 信行は言いながらかつて自分を惑わした津々木のことを思い出す。
「しかしです」
「左道は所詮邪道じゃ」
「多くの者が持っている訳ではないかと」
「陰陽道や仙術とはまた違うからのう」
「妖術、しかもです」
 妖術といっても色々だった。左道と呼ばれる妖術とはどういったものかというと。
「極めて性質の悪い」
「そうしたものじゃな」
「そういった術になるでしょうが」
「今言ったが左道は左道じゃ」
 信長はまたこの言葉を言ってみせた。
「そう多くの者が使うものではない」
「邪法であるが故にですね」
「だから常に一人か二人なのじゃ」
 世で左道を使う者はだというのだ。信長は左道についてはかなり突き放しそのうえで否定して見て考えていた。
「それなら。色を消そうともな」
「一人や二人ならば」
「恐れるに足らずじゃ」
 こう信行に返す。
「例え役小角や安部清明の様な者であってもな」
「恐れる必要はありませぬか」
「一人や二人ならな」
 あくまでそれならばだった。しかし信長はそういった術に入っているやからは少ないと見ているので同じことだった。
「怖くとも何ともないわ」
「ではこのことは」
「やはり気にすることはないか」
 こう言ったのだった。自身で。 
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