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戦国異伝

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第百四話 鬼若子への文その六


「話はわかった。それでじゃ」
「それでとは」
「信長殿はわしの先の戦での戦いぶりを褒め称えておられる」
 文にはそのことが書かれていたのだ。
「見事じゃとな。しかしじゃ」
「しかしとは」
「わしは敗れた」
 元親が今言うのはこのことだった。
「その敗れたわしにこう言うのか」
「殿は仰いました」
 今度は秀長が元親に応える。三人共毅然として顔を上げ元親に応えている。
「敗れはしましたが十倍以上の相手と正面から戦いそのうえで生き残ったということは」
「そのことがか」
「見事であったと」
 実際に信長が言っていることだ。このことは。
「是非共家中に加えたいと」
「織田家の家臣になるか。わしが」
「その通りです」
「ではこれから家臣達の立場はどうなる」
「どなたもです」
 秀長から荒木が交代して言ってきた。
「織田家に入られて」
「そのうえでか」
「織田家の家臣として仕えて頂きます」
「わかった。そうなるのじゃな」
「左様でございます」
「わしも思った」
 元親は確かな笑みにもなり述べた。
「織田家ならばじゃ」
「当家では」
 林は強い声で元親に問い返す。
「どうなのでしょうか」
「わしの力を思う存分発揮できる。わしは所詮四国までの者」 
 器を見極めている言葉だった。他ならぬ自分自身の。
「それでは天下なぞとても。ましてや」
「ましてやとは」
「唐や天竺なぞな」
 三人が話していたことをそのまま言う元親だった。
「とても考えられぬわ」
「しかしです」
「信長殿はじゃな」
「殿は先の先を御覧になられています」
「外に出るか」
「この国から外に」
「ではわしはじゃ」
 ここでどうするかとも言う元親だった。
「その信長公と共に」
「加わって頂けますか」
「いや」
「いやとは」
「こうしたことは儲けが問題ではない」 
 そうだというのだ。
「心じゃ」
「心ですか」
「それをしようとする心が大事なのじゃ」
 元親はこう考えていた。そのうえでこうも言った。
「わしは自分で天下は無理だと思うておる。そうした者はじゃ」
「天下はですか」
「得られぬ」
「そうだというのだ。
「欲しくないものは往々してに手に入らぬし手に入れても有り難いとも面白いとも思わぬ」
 人間の心理としてそうなることだ。
「だからじゃ。欲しいと思えばじゃ」
「そうすればですな」
「得られる。得る為に必死に務めることによって」
「確かに。その通りですな」
 林も元親のその言葉に頷いて答える。
「さすれば」
「わしは精々四国までじゃ」
 よくて都までだった。天下を見てはいないのだ。
「そして今で実はな」
「満足しておられますか」
「土佐一国を手に入れるまでが大変じゃった」
 父国親の頃からだ。とかく苦心して土佐一国を手に入れるまでに至った。しかし彼は自分でそこまでだと言ったのである。 
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