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戦国異伝

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第百四話 鬼若子への文その五


「いや、殿はやはり」
「大きな方ですな」
「寺社だけでなくじゃ」
「全ての国をつなげて治められるということですな」
「ああしたことまで考えておられるとは」 
 林は内心舌を巻きながら言った。
「違うわ」
「そうですな。大きいです」
「まるで天に昇った龍じゃ」 
 林は信長の大きさをこう評した。
「全く違うわ」
「確かに。あそこまでとは」
「大きい。このまま昇られると」
「どうなると思われますか」
「本朝だけでなくじゃ」
 この天下、日の本だけでなくだというのだ。
「遠く明や天竺、南蛮までもな」
「明や天竺、そしてですか」
「今この国にも来ておる南蛮までもじゃ」
 あの青や緑の目の赤い顔の者達だ。まだ彼等を鬼だと思う者達もいる。
「出られるやも知れんな」
「そこまで大きくなられると、殿が」
「そうやも知れぬ」
「ううむ。天下だけでなく」
「どういった形で出られるかまではわからぬがな」 
 だがそれでもだというのだ。
「出られるやもな」
「確かに。殿はそうですな」
 ここで荒木も口を開いてきた。
「非常に大きな方です」
「わしはその器を何処まで見られておるのか」
 林はいささか不安な顔も見せた。
「心配になってくるわ」
「いえ、そうしたご心配はです」
「いらぬか」
「殿は日輪ですから」
 だからだと言う荒木だった。
「日輪を見るのにその大きさを心配にはなりませぬな」
「それはない」
「そして空も」
「空は何処までも続いておるものじゃ」
 林は空についてはこう述べた。
「広さなぞ計るものではない・・・・・・そういうことじゃな」
「殿は日輪や空の様な方、それならば」
「我等はその殿の下においてか」
「果たすことをすればよいだけかと」
「そうじゃな。確かにな」
 林は落ち着いた顔になり微笑みに戻った。
「我等はそうすればよいな」
「そういうことかと。それでは」
「うむ、まずは長曾我部のところに赴き」
「文を渡しそのうえでじゃな」
「話にかかりましょう」
「土佐は四十万石です」
 秀長は長曾我部が治める土佐の石高を言った。これが大きくない筈がない。
「およそ一万の兵を養えます」
「確かに大きいのう」
「その四十万石と長曾我部の者達を加えれば」
「織田はさらに強くなる」
「是非共織田家に迎え入れましょう」
「うむ、それではな」
 林は秀長、そして荒木と共に長曾我部の軍勢が篭る城に入った。そして主の間でその文を渡したのだった。
 元親は文を見てまずはこう言った。
「織田家に降れというか」
「そうなります」 
 林が答える。三人で左右に紫の服の者達が控える場にいる。その前には元親が堂々と座っている。その元親への返答だった。
「是非共織田家に」
「加わるべきか」
「それが殿の願いです」
「ふむ」
 元親は一呼吸置いてから林に答えた。 
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