戦国異伝
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第百三話 鬼若子その十一
「そうせよ。道を開けよ」
「ですがそれでは」
「すぐにでもここまで」
「本陣の前には馬を集めよ」
不意にこんなことも言う信長だった。
「指揮するのは勝三じゃ」
「勝三ですか」
「あの者に任せますか」
「うむ、あ奴に任せる」
森の嫡男であり槍の名手でもある彼にだというのだ。
「ここはな」
「勝三に任せてですか」
「騎馬隊を」
「鬼若子の突進にはあ奴じゃ」
それでやるというのだ。
「鬼には鬼じゃ」
「鬼をぶつけてですか」
「そのうえで」
「うむ、止める」
こう言うのだった。
「鬼でのう」
「足軽に馬ですか」
これまで沈黙を守っていた者が言ってきた。小寺である。
「そういえばこれまで我等はこれといって馬を使ったことはありませんでしたな」
「伊賀では使ったがな」
柴田と佐久間達が六角を破った野洲川の戦のことだ。その戦では確かに馬は使った。しかし他の戦ではだというと。
「しかし他の戦ではな」
「鉄砲や長槍は多いですが」
それでもだったのだ。
「しかしですな」
「うむ。確かに馬は少なかった」
他には桶狭間でも使ったがそれでもだった。
「しかし今ここでじゃ」
「馬を使われますか」
「そうする。それではじゃ」
こうしてだった。本陣の前に騎馬隊が集められる。それからだ。
道が開けられる。織田の兵達が左右に退く。それは先程までよりも派手に動いたものだった。
それを見てだ。元親は足軽達に対して言った。
「ふむ。これまでは先に進んでおったが」
「それを止められるのですか」
「そうされるのですか」
「うむ、止める」
まさにそうだというのだ。
「ここはな」
「しかしそれではです」
「敵に攻められますが」
「いや、かえって危うい」
そうなるというのだ。
「だからじゃ」
「ここはですか」
「攻めるのを止められますか」
「槍を前に構えよ」
これは変わらなかった。
「そしてそのうえでじゃ」
「そのうえで?」
「そのうえでといいますと」
「まずは防ぐ」
そうするというのだ。
「敵の馬をな」
「そういえば前に」
「馬が集まっております」
見ればそうなっていた。前から馬が来ていた。
元親もその馬達を見ていた。そうして言うのだった。
「我等は馬がない」
「はい、残念ですが」
「馬はありませぬ」
これが長曾我部軍の弱点だった。それでだった。
彼等は槍を前に構える。そのうえでだ。
あらためて前に進む。そこにだった。
長可率いる騎馬隊が来た。長可は己が率いる騎馬隊に対してこう言うのだった。
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