戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百二話 三人衆降るその十一
羽柴は明智のその知的な横顔を見つつこうも言った。
「明智殿は織田家に入られることは考えておられますか」
「織田家にですか」
「はい、そのことについてはどう思われるでしょうか」
「そうですな」
羽柴のその問いに明智は即答しなかった。暫し考えた。
それからだ。こう答えたのだった。
「織田殿さえよければ」
「そう仰いますか」
「他の幕臣の方もそうでしょうが」
こう前置きしてからの言葉だった。
「幕府にはいたままですが功が認められるならば」
「それならば」
「織田家に入りたいと思います」
こう言うのだった。
「是非共」
「左様ですか。殿は手柄を立てれば必ず報いられる方ですから」
「そう聞いております。それに」
「それに?」
「織田殿のご気質を見ていると」
信長の性格、それはどうかというのだ。
「何かそれだけで前に出たくなりますな」
「そうでござろう、それがしもです」
「羽柴殿も織田殿を御覧になられると」
「前に出たくなります」
そうなるというのだ。羽柴もまた。
「戦においても政においても」
「どちらでもですか」
「はい、そうなります」
こう明智に言う。
「そうなるところに殿のよさがあるのでしょうか」
「織田殿はただ優れたご気質があるだけではありませんな」
明智は信長についてこうも述べた。
「人を惹きつけて離さないものがありますな」
「どうも見ているだけで惚れ惚れします」
「日輪」
明智は世を照らすそれも話に出した。
「織田殿はまさにそれですな」
「ですか。殿は日輪ですか」
「そうしたものかと。闇を照らして消し去る」
「闇!?」
「はい、戦国という闇を」
明智はここでは闇は戦国、即ち乱世だと考えていた。彼も裏のことには気付いていなかった。その教養と鋭利を以ても。
ページ上へ戻る