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戦国異伝

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第百二話 三人衆降るその十


「いや、今ここにはおられませぬが」
「平手殿のお話はそれがしも聞いていますが」
「あれだけおっかない方はいませぬ」
 羽柴は冗談含みに顔を強張らせて明智に話す。
「その拳を受ければ只で済みませぬ」
「そこまでなのですか」
「権六殿の拳よりさらに痛いです」
 羽柴はここは真顔だった。完全に。
「鉄より硬く炎より熱いです」
「そこにはお心があると」
「ありますな」
 平手の心がある、それ故にだというのだ。
「平手殿はただ殴り飛ばす方ではありませぬ」
「ですか。では一度平手殿にもお会いしたいですな」
「落ち着いた時に美濃に行けばお会いできます」
「岐阜城にですか」
「はい、そこにです」
 織田家の今の拠点であるその城に行けば何時でもだというのだ。平手に会えるのは。
「おられますので」
「では楽しみにしています」
「是非共」
「さて。それでは」
 明智は話が一段落したところで前を見た。そのうえで羽柴にあらためて言った。
「阿波に入れば」
「また戦ですな」
「長曾我部は一万です」
「対する我等は十二万」
 降った三好の兵も入れてそこまでなる。
「まず勝てますな」
「はい、しかしです」
 ここで明智は羽柴に言う。このことを。
「油断はなりませぬ」
「例えどれだけこちらが優勢であっても」
「織田家は桶狭間で勝ち今に至りますが」
「それは相手にも言えますな」
「戦には絶対のものはありませぬ」
 それ故だというのだ。
「織田家にとってもそうですから」
「例えどれだけこちらの兵が多くともですな
「油断ははらぬかと」
「それは殿もおわかりだと思いますが」
「はい」
 それはわかっていた。明智もまた。
「今こうして進んでいる間もかなりの物見を出していますな」
「それが我等の常です」
「そして休む間も」
 その時もだったのだ。
「見張りが多いですな」
「交代してそうしております」
「桶狭間は自分達にも起こり得る」
 また言う明智だった。
「そういうことですな」
「そうですな。いや、あの時それがしは桶狭間にはいませんでしたが」
 砦において今川の先陣、家康が率いる彼等と戦をしていたのだ。それでは桶狭間にいないのも当然のことだ。
「しかしそれでもです」
「自分達が仕掛けたことは自分達もと」
「因果ですな」
 羽柴はこの言葉も口に出した。
「ですから」
「その通りかと。とにかく」
 明智は言っていく。
「例え兵の数が違っても慢心はなりませぬ」
「決して」
「そういうことです」
「ですな。このことはこの戦だけでなく」
 他の戦についてもそうだという話が為された。そうしてだった。 
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