戦国異伝
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第百二話 三人衆降るその四
だからこそだ。信長は言うのだった。
「どれだけ頑張ろうともじゃ」
「美濃は戻らず」
「あ奴は徒労を続ける」
そうなるというのだ。
「そうなるわ」
「では」
「いや、捕まえはせぬ」
それはしないというのだ。
「あ奴はあのままじゃ」
「放っておかれますか」
「そうする。来るなら倒す」
信長の今の言葉は簡潔ですらあった。
「あ奴は都合よく織田家の敵についてそのうえで向かってきてくれるところもあるからのう」
「敵についてですか」
「ならばそれに乗ってじゃ」
そうしてだというのだ。
「その敵を倒す。そうする」
「それが殿のお考えですか」
「うむ。敵もまとまっておるとやりやすい」
一網打尽にできるというのだ。
「だからじゃ。あのままにしておけ」
「わかりました」
龍興は泳がせるというのだ。その話をしてだ。
信長は三人衆の開城を受け十河城に入った。三人衆は程なく出家して後は許された。三好の家臣達も讃岐の国人達も次々と降り続けていた。
そしてそれは阿波の国人達もだった。信長の下に次々と馳せ参じてきていた。
森は信長の命通り一万の兵を率いて阿波を進んでいた。その途中にだ。
阿波の国人達が次々と集まってきていた。織田の兵はさらに増えていた。だがその国人達がだ。
次々にだ。森に対してこう言ってきていたのだ。その言ってきていることとは。
「土佐から来ております」
「兵が土佐から阿波に入ろうとしております」
「その数一万を超えます」
「尋常な相手ではありませぬ」
長曾我部が来るというのだ。
「あの家の兵はかなりの強さです」
「そうおいそれとは勝てぬかと」
「ですからここはご用心下さい」
「例え何があろうとも」
「わかり申した」
森は彼等の言葉に確かな声で頷いた。そのうえでだ。
彼は阿波の国人達にあることを言った。その言葉はというと。
「この阿波を何としてもです」
「守って頂けますか」
「長曾我部から」
「無論じゃ。しかし」
彼等の切実な言葉からだ。森はこのことを悟ったのだった。
「もうか」
「はい、来ております」
「どうやら既に土佐からこの阿波に向かっております」
「ううむ。速いのう」
彼等の言葉を受けて森は今度は苦々しい顔になった。
それからだ。こう言ったのだった。
「では織田家に任せてくれ」
「お願いします。我等も共に戦いますので」
「それでは」
阿波の者達にとっては織田家は新しい主であると共に頼りになる存在になっていた。だからこそ今彼等は森に話しているのだ。
それで酒等が振舞われようとする。しかし森はそれは断ってこう言った。
「いや、お気遣いは無用」
「これは宜しいのですか」
「そう仰るのですか」
「うむ、それがし達は酒を飲みに阿波に来た訳ではござらぬ」
だからだというのだ。
「酒は後で結構」
「後で?」
「後でといいますと」
「この戦の後で」
つまりだ。勝ってからだというのだ。
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