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戦国異伝

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第百二話 三人衆降るその三


「長曾我部じゃな」
「今三好家はあってないようなもの」
 今まさに滅ぶか降るかという状況だ。それではだった。
「それではです」
「我等に三好が降る前にじゃな」
「阿波に入り少しでも多く土地を手に入れようとするかと」
「長曾我部にも都合があるからのう」
 少しでも土地を手に入れたい。そうした考えがあるというのだ。
「それではな」
「ですから阿波もまた」
「よい。では阿波だけではなくじゃ」
「土佐もですか」
「あの国も手に入れてやろう」 
 長曾我部と戦になるならばだ。そうするというのだ。
「是非共な」
「土佐もですか」
「そうしてやろうぞ」
「しかし殿、その阿波ですが」
 森も言ってきた。
「今のうちに多少でもです」
「兵を送りべきだというのじゃな」
「そう思いますが」
「では御主が行け」
 その森に対しての言葉だった。
「今すぐにじゃ。忠三郎に倅を連れて行って来るのじゃ」
「それがしが一軍をですか」
 これは森が驚くことだった。彼が一軍を率いたことはこれまでないからだ。驚くのも無理のないことなのだ。
「何と、まことですか」
「兵は一万じゃ」
 信長は兵の数も言う。
「よいな。その一万の兵と共にじゃ」
「阿波に入りですか」
「出来るだけ多くの国人や三好の家臣達を引き込め」
 これが森に告げる命だった。
「わかったな」
「はい、それでは」
「さて、それではじゃ」
 また言う信長だった。
「讃岐をしっかりと抑える」
「讃岐を四国の拠点とされますか」
「讃岐から入るかのう」
 信長は再び明智に答えた。
「それならばじゃ」
「やはり讃岐ですか」
「あと淡路はじゃ」
 近畿と四国の間にあり東瀬戸内に浮かぶこの島はどうするかというのだ。
「洲本じゃな」
「洲本城をですか」
「大きくして堅固にする」
 そしてだというのだ。
「近畿と四国の守りとしよう」
「例え四国に何があろうとも」
「洲本、淡路から兵を送り対する」
 例え何があってもそうするというのだ。
「それでよいな」
「では」
「まあ。とにかく讃岐と阿波じゃ」 
 何につけてもこの二国だった。
「十河城開城となれば三人衆の命なぞどうでもよい」
「では、ですな」
 信長の傍に控える信行が問うてきた。
「三人衆もまた」
「出家して寺に入ればそれ以上のことはせぬ」
 ここでもこう言う信長だった。
「ではじゃ」
「わかりました。それでは」
「三好との戦も終わった」
 これでだった。上洛からはじまった三好との戦が完全に終わったというのだ。だが今度は竹中がこんなことを言ってきた。
「しかし殿、言いにくいのですが」
「龍興か」
「あの方はやはり」
「もう美濃はあ奴には戻らんがのう」 
 信長にはよくわかっていた。このことが。
「しかしそれでもか」
「諦められぬ様です」
「諦めが悪いとは思っておった」
 それは信長も見ていることだった。
「あれはな。しかしじゃ」
「そうです。最早です」
「どうにもならん。美濃はあ奴が自ら失ったところがある」
 信長が攻め取ったにしてもだ。彼がその油断から失ったのも確かなのだ。 
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