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戦国異伝

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第百話 浅井の活躍その四


 幕臣達は焦ってだ。こう言うのだった。
「公方様、それ程前に出られてはなりませぬ」
「さもなければ死にまするぞ」
「三好の兵は多いです」
「ですから」
「余は武門の棟梁ぞ」
 だが、だった。義昭は前を見て弓を放ちながら応えるのだった。
「その余が戦わずしてどうする」
「しかしです。数はあまりに多いです」
「矢だけでなく鉄砲もあります」
 言った傍から銃弾が来た。それが義昭の頬をかすめる。しかしそれでも義昭は毅然として言うのだった。
「これのことか」
「本当に危ないですぞ」
「公方様を狙っておりますぞ」
「だからよいと言っておるわ」
 言いながらだ。また矢をつがえるのだった。
 それから放ちだ。そうしてつがえていく。
「戦で死ねばじゃ」
「それまでだというのですか」
「それで戦われるのですか」
「うむ。そうする」
 少なくとも勇敢ではあった。義昭は一歩も引かない。
 そのうえで三好の大軍を見据えていた。その彼を見てだった。
 幕臣達も幕府の兵達もだった。毅然として戦う。彼等は本国寺に立て篭もりそのうえで迫る三好の大軍を迎えていた。
 義昭達は屋根に上っていて下にいる三好の大軍を狙っていた。しかしそれでもだった。
 三人衆も先陣の龍興も攻めていた。彼等とて退けない事情があった。
 それでだ。こう言っていた。
「何とかこの寺を陥とすぞ」
「そして再び都を掌握するのじゃ」
「よいな、この戦いに我等の全てがかかっておるぞ」
 三人衆も陣頭で采配を執り兵達を鼓舞していた。
「ここで負ければ終わりじゃ」
「勝ちしかないぞ」
「よいな、絶対に勝つぞ」
 こう言ってだ。自ら弓矢を放ちもする。彼等はとにかく数で攻めていた。
 義昭達も奮戦するが数が少な過ぎた。しかも頼みの織田の軍勢は謎の僧兵達に足止めを受けている。この状況を見てだ。
 細川は弓矢を持ったうえでだ。明智に囁いた。
「このままでは」
「そうですな。多勢に無勢です」
「都は陥ちます」
「それだけではありません」
 別に考えられる危惧もだ。明智は述べた。
「公方様の御命が」
「確かに。それは」
「公方様は退こうとしません」
 それ故にだというのだ。
「ですから」
「何とか。公方様は御護りしなければなりません」
 明智は厳しい顔で述べる。
「何としても」
「しかし。公方様も意地があります故」
「ですな。これは中々」
「難しいですな」
 彼等はこのまま囲まれ全員、義昭も含めて討ち死にすることを覚悟しだしていた。そうしてその中でだった。
 三好の大軍に十重二十重に囲まれてだ。今まさに押し潰されようとしていた。その時にだった。
 和田がだ。都の北を指し示して叫んだ。
「紺です!」
「紺!?」
「紺というと」
「紺色の軍勢が来ております!」
 こう叫んだのだった。他の幕臣達に。
「その軍勢が」
「紺色!?浅井殿ですか」
 明智は紺色の軍勢と聞いてすぐに浅井の名前を出した。
「あの家が」
「はい、御覧下さい」
 見れば都の中を整然とであるが凄まじい勢いでその紺色の軍勢が突き進んでいた。その目指している先は。
「こちらに来ております」
「確かに」
「浅井殿は織田殿の盟友です」
 徳川家と並ぶだとだ。和田はこのことも言った。
「その方が来られました」
「そうですな。これは救時雨です」
 それだとだ。明智は言った。 
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