戦国異伝
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第九十九話 都での戦いその八
「ですから」
「そうじゃな。それではな」
「飯は店で買いながら」
そうしてだというのだ。
「一気に進みましょう」
「ここはな。しかしじゃ」
「しかしとは」
「これからいざという時は手配できるようにしておくか」
ふとだ。信長はこう考えたのである。
「飯をすぐに食える様にな」
「進む道にですか」
「そうしておくとすぐに進める」
飯を食うにも時間がかかるのだ。しかも飯は炊かなければならない。その時間も馬鹿にならないからだ。信長は言うのである。
「今は飯ではなく干飯だの干物で我慢するしかないがのう」
「やはり一番よいのは米ですな」
「うむ、それも握り飯じゃ」
これを嫌う者はいない。ましてや白い米だとなると余計にだ。
「それがあればな」
「よいですな」
「うむ。よい」
信長は確かな顔になり羽柴に答える。
「だからこそじゃ」
「考えられるのですか」
「そうしようぞ」
「そうですな。ではそれがしもまた」
馬に乗りながら考える顔出だ。羽柴も言う。
「及ばずながら」
「御主も考えてみるか」
「それがし、刀も槍も上手ではありませぬ」
体格が貧弱だ。それ故にだ。
「ですから。頼るのは」
「頭か」
「とはいっても字もあまり読めませぬ」
羽柴は学もない。つまり織田家の他の家臣達よりも劣っている部分が多いのだ。しかしそれ故になのである。
「だからこそです」
「そうじゃな。頭も武器の一つじゃ」
「そう思っています故」
「では考えよ。御主の頭の回転の早さは頼りにしておる」
「はっ、それでは」
羽柴は慎んだ態度で主に応える。そのやり取りの後でだ。
柴田が彼のところに来てだ。こんなことを言ってきた。
「猿、御主は槍も刀も使えぬというがな」
「弓も鉄砲も実は」
「それに学もないというが」
「字もあまり読めませぬ」
「しかしそれでも御主は実際に頭がいい」
柴田もだ。羽柴のその点を指摘したのである。織田家の中で随一の戦の強さを誇る彼もこう言ったのである。
「それ故にじゃ」
「頭を使えというのですな」
「そうじゃ。今度の戦はまず進むことじゃが」
都にだとだ。彼等は実際に馬を走らせている。
進む先は決まっていた。そこに向かいながらだった。
「知恵よりも今は」
「前に進むことですな」
「今は知恵は関係ないか」
「そうかと。急ぎましょう」
「急ぎそしてじゃな」
柴田もだ。雪が降るその中を進みながら言うのだった。
「都に辿り着こう」
「そうしましょうぞ。帝の御為にも」
「?待て、猿」
「そうですな。権六殿も気付かれましたか」
柴田が怪訝な顔をするとだ。羽柴の隣にいた蜂須賀も言う。
「こ奴、今確かに」
「そうです。帝と言いました」
「そこは公方様ではないのか」
「そうではないのか」
「おっと、それは」
つい言ってしまってだ。羽柴は笑って誤魔化そうとした。だが、だった。
ここでだ。彼はまた言ってしまったのだった。
「しかし。御所のことが気になります、民のことも」
「だから公方様はどうなのじゃ」
「心配でないのか」
「心配は心配じゃが」
蜂須賀に返しはする。一応は。
「しかしのう。今の公方様はどうも」
「それ以上は聞かぬ方がよいな」
柴田はすぐに判断した。こうした判断をすぐに下せる辺りに彼が織田家において宿老の一人となっているところがある。
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