戦国異伝
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第九話 浮野の戦いその十二
「それに兵糧もあるからのう」
「だからですか」
「今のうちに、ですか」
「そうじゃ。勢いのあるうちに攻める」
信長の考えはこれに尽きた。今は特にそうであった。
「だからじゃ。明日にもう行くのじゃ」
「これで犬山を陥とせば」
「尾張は統一ですな」
山内と堀尾以外の家臣達がそれぞれ述べた。
「いよいよですな」
「いや、これはほんの小手調べなのですかな」
「尾張の統一なぞはじまりに過ぎぬ」
信長の言葉は素っ気無いものだった。
「むしろそれからぞ」
「そうですな。それでは」
「一日休みそのうえで」
「犬山よ」
信長はその場所をまた話した。
「そしてじゃ。尾張を一つにするぞ」
「はっ」
「では」
「さて、今日はこれで終わりじゃ」
信長はここまで話したところで軍議を終わりとした。
「では皆の者それぞれ休め」
「そして明日ですな」
平手が信長に問うた。
「明朝早くに」
「うむ、行くぞ」
「それでは」
「ではな。わしも休む」
信長自身もそうするというのだった。
「酒はいらぬぞ」
「殿は相変わらず酒は駄目なのですな」
柴田が今の主の言葉に対して言った。
「それだけはですな」
「酒はのう」
信長も柴田のその言葉に応えて難しい顔を見せた。
「あれを飲むと頭が痛くなるわ」
「では今宵はです」
「どうされますか」
「宴はまだじゃ」
信長はそれは止めた。
「軽くするだけにしておけ」
「犬山を陥としたその時にですね」
「いよいよ」
「そうじゃ。それまでは軽くにしておけ」
少なくとも今ではないというのである。
「よいな」
「はっ、それでは」
「今宵は」
「わしは一杯でよい」
信長はそれだけだというのだ。
「いつも通りな」
「では殿」
今度は平手であった。
「犬山を陥とせばですな」
「宴を好きなだけ派手にやってよい」
それを許すというのである。
「しかし今は程々にしておけ」
「ではそうしましょうぞ」
佐久間盛重が応えてだった。彼等は宴をはじめた。そして信長の言葉通りそれはすぐに終わらせて。明朝早くに犬山に向けて出陣した。
そしてその頃。清洲の信行はだ。戦勝報告を受けていた。
「そうか、もうか」
「はい、岩倉を陥とされました」
「流石兄上だ」
信行はその報告を聞いて微笑んでみせた。
「やはりな」
「はい、そしてです」
「うむ、今度は何だ」
「信行様に御会いしたい者がいますが」
「私にか」
「はい」
そうだとだ。居残りの家臣のうちの一人が答えた。
「そう仰っていますが」
「さて、面妖な」
その言葉を聞いてだった。信行はまずは首を捻るのだった。
「兄上ではなく私にとは」
「確かに」
「仕官されるなら殿にですが」
「何故勘十郎様なのでしょうか」
「わかりませぬ」
「私は人を用いる用事はしておらぬ」
実際にそうしたことは信長のすることだった。信行は信長の名代として彼の下におり助言はするがだった。直接用いることはしていなかった。
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