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戦国異伝

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第九十五話 大と小その十一


 深刻な顔になりだ。こう言ったのだった。
「我等も考えなくてはいけないでしょう」
「確かに。その時はですな」
「幕府に留まるかどうか」
「考えるべきでしょう」
 細川に和田もこれからのことについてだ危惧を覚えていた。全ては義昭の危うさ故にだ。
「その時が来ないことを祈りますが」
「それでもですな」
 こう話す彼等だった。心ある者達は既に織田家と幕府、信長と義昭の衝突を危惧していた。そしてこれは織田家においても同じだった。
 安藤がだ。難しい顔で氏家に言うのだった。彼等は今岐阜城にいる。そこでの話だった。
「公方様についてどう思うか」
「あの公方様か」
「そうじゃ。どう思うか」
「どうもじゃ」
 こう前置きしてからだ。氏家も難しい顔で言う。
「あの方は大人しい方ではなく」
「しかもじゃな」
「うむ、下手に言うと値に持つ方じゃな」
 氏家も見抜いていた。義昭のその気質を。 
 この部屋に稲葉と不破も来て話に入る。二人もこう言うのだった。
「あの公方様はやけに誇り高いぞ」
「押さえつけるとなにをされるかわからんぞ」
「どうも企む方じゃ」
「そして何でもするだろうな」
「そうじゃな。あの方はな」
 まさにそうだとだ。また言う安藤だった。
「だからといってもな」
「そうじゃ、幕府は最早飾りじゃからのう」
「公方様にはそのことをわかってくれねばな」
「どうにもならんのだが」
 氏家、稲葉、不破もだった。このことはだった。
 難しい顔であった。それで言うのだった。
「殿としても公方様が無体をすれば注意せざるを得ぬが」
「しかしそれをされるとな」
「あの公方様は根に持たれる」
「それで厄介なことにならねばよいが」
 美濃の四人衆も危惧を覚えていた。そしてだった。
 その中で安藤はまた言った。今度の言葉は。
「何かあった時じゃが」
「うむ、幕府に対してじゃな」
「話をしておいた方がよいな」
「幕臣にな」
 ここでだ。一人の名前が出た。ここでも安藤が言う。
「では十兵衛じゃな」
「おお、あの者か」
「あの者に声をかけるか」
「そうじゃ。元々美濃の者じゃ」
 つまり縁があった。四人衆と明智は。
「古くから付き合いもあるしのう」
「では十兵衛じゃな」
「あの者に織田家への誘いをかけるか」
「それがよいか」
「あ奴は切れる」
 明智がかなりの切れ者だということは美濃ではよく知られていた。そしてだ。
 先の丹波平定での見事な手腕で織田家全体でも彼のことはよく知られるようになっていた。その頭の切れで丹波を手に入れたからだ。
 だからだ。彼等も話すのだった。
「では。よいな」
「果たして幕府にこだわるかじゃな」
「まさかとは思うがな」
「そうなれば厄介じゃぞ」
 明智が織田家に入らずに幕府に留まればどうかというのだ。
「その場合はな」
「どうにか織田家に来て欲しいが」
「さて、どうなるか」
「それがわからんな」
「ふむ。ではじゃ」
 ここで言ったのはまた安藤だった。やはり彼は四人衆のまとめ役だけはあった。
「殿に少し申し上げてみるか」
「というと何じゃ?」
「よい考えがあるのか」
「禄じゃ」
 彼が言うのはこれだった。
「禄を出せばどうじゃ」
「?では禄を出してつるのか」
「そうするというのか」
「いや、つるのではない」
 安藤はこのことは否定した。 
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