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戦国異伝

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第九十五話 大と小その十


 だがそれでもだとだ。こう言うのだった。
「ですからその誇り故に」
「やがては織田殿とも」
「悶着があるかもですか」
「そうならなければよいのですが」
 明智はこのことを真剣に憂いていた。それは何故か。
 義昭は誰が見ても信長の傀儡だ。今の幕府自体がそれに他ならない。
 しかし義昭がその傀儡の座を嫌がればだ。どうなるかというのだ。
「若し義昭様が織田殿に反感を覚えられれば」
「その時は」
「まさに」
「幕府は消えてなくなります」
 担いでいるのは他ならぬ信長だ。ならばだった。
「幕府を残したいならばどうしても」
「織田殿しかおられぬ」
「あの方しか」
「織田殿の天下布武は天下を泰平にし」
 そしてだった。
「その繁栄を築くというものです」
「ですからここは」
「どうしても」
「あの方には静かにして欲しいです」 
 これが明智の願いだった。心からの。
「絶対に。ただ」
「義昭様がそれを認められるとは」
「思えませんな」
「幕臣達にしても」
 その義昭に仕えるだ。彼等もだというのだ。
「織田殿に魅かれていますから」
「それがしも」
「それがしもです」
 細川と和田もだった。そして。
 明智もだ。こう言ったのである。
「あの方ならば必ずです」
「天下に泰平をもたらされる」
「そうですな」
「織田殿ならばです」
 また言う明智だった。
「それができます。ですから」
「それ故にこれからは」
「何とか」
「はい、あの織田殿は天下に欠かせぬ方です」 
 信長を見ていた。今この場にいない彼を、
 そのうえでだ。細川と和田にこうも言ったのである。
「しかし我等は仮にも幕臣ですから」
「公方様に従わぬ訳にはいきませぬな」
「ここは」
「その通りです。難しいことです」
 明智は言う。このことも。
「織田殿に魅かれますが」
「織田家の方々が羨ましいですな」
 細川は明智が煎れた茶を受け取った。そのうえでだった。
 その茶を飲みながらだ。こう言ったのである。
「あの方々は純粋の織田信長殿に魅かれています」
「そうですな。素直にそれができます」
 和田も言う。そうだと。
「しかし我等はそれは」
「できませぬ」
 細川は和田に述べた。
「決してです」
「幕臣であるが故に」
「義輝様ならば」
 明智は懐かしんでいた。今は。
「こうしたことは考えなかったでしょうな」
「ですな。あの方の下ならば」
「決してその様なことは」
「織田殿も」
 信長もだというのだ。
「あの方となら何も問題はないでしょうか」
「しかし義昭様になると」
「このままでは」
「その時はです」
 明智も茶を飲む。その中でだった。 
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