とある星の力を使いし者
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第16話
麻生恭介は今まで普通の生活をしていた。
能力はとてつもない能力で過去に凄まじい物を見せられたこと以外は至って普通の学生である。
高校に入学する前は面倒事など一度も出会わなかったのだが・・・・
「・・・・・・」
麻生の目の前に人が倒れている。
正確には散歩をしていた時、相手の方からぶつかりその衝撃が原因なのかふらふらと崩れ落ちてしまった。
これが普通の人なら麻生も手を差し伸べたかもしれないが、倒れている人の服装が巫女服なのだ。
性別は女性で髪は腰のあたりまで伸びていてサラサラとした黒色だ。
麻生はこの女性からとてつもなく面倒な匂いを感じ取ったので、一秒でも早く此処から逃げ出したかったが周りの視線がそれを許さなかった。
傍から見たら麻生がぶつかったせいで、女性は倒れたと勘違いされているようだ。
本当は全く逆なのだが。
とりあえず、麻生は女性に意識があるか聞いてみる。
「おい、大丈夫か?」
声をかけるとうう、と返事ではないが声は聞こえたのでとりあえず生きてはいるようだ。
すると、顔を麻生の方に向けて一言発した。
「お腹減った。」
「・・・・・・・」
麻生は逃げ出したいと心の底から思うのだった。
何でもこの女性は腹が減っていてその時、運悪く麻生とぶつかりそれが駄目だしになり動けなくなったらしい。
麻生はこの女性を置いてどこかへ行きたかったが、そうすることも出来ず結局近くの近くのファーストフード店に入る事にした。
麻生は無能力者なので学園都市からは最低限生活するくらいのお金しか振り込まれないが、麻生の親から仕送りが贈られてくるので普通の学生よりお金は持っている。
それに麻生はそのお金はほとんど使わないのでお金が有り余っている。
「何でも。頼んでいい?」
「一応、奢られる立場だって事を考えろよ。」
麻生がそう注意したのに一番高いセットを頼む。
麻生は以前の自分なら周りの視線とか全く気にしなかったのにと、自分でもよく分からない変化に少し戸惑っている。
この暑さなのか店内は客がとても多く見た限り席は空いてなさそうに見えたが、一つだけ空いていたので麻生と女性が向かい合わせになるように座る。
女性はいただきます、と言ってトレイにあるバーガーを食べ麻生は窓の外を眺めている。
「貴方も食べないの?」
「そんな見るからに栄養が偏っている食べ物は食わない。」
「その栄養が偏っている食べ物を私は食べている。
食欲が無くなったから別の物頼む。」
どうやらこの女性はまだ食い足りないのか女性は右手を差し出しお金を要求してくる。
麻生は財布からお金を渡すとそのまま女性はレジに向かって歩いていく。
麻生は今の内にどこかに逃げようかと考えた時だった。
「あれ、恭介じゃねぇか。」
後ろから声がしたので振り返ると上条とインデックスと青髪ピアスの三人が立っていた。
インデックスが持っているトレイの上にシェイクを三つ乗せているのを見て、席が空いてないので座れないのだろうと麻生は考える。
「相席空いているみたいだし、座ってもいいか?」
上条がインデックスの顔色を窺いながら聞いてきて目で座らせてくれと訴えてくる。
麻生は上条達が座ればあの女性が座れなくなると考えたが、ある一つの名案が浮かぶ。
「ちょうどよかった、俺はこれから此処を出ようとしてたから席を譲ってやるよ。」
それを聞くと本当に心から安堵した上条の表情を見て、記憶を失ってもインデックスに振り回されるのは変わらないんだなと思い、席を立ち去り際に上条にしか聞こえない声で言った。
「後は頼んだぞ。」
上条はへ?と聞き返したがその質問に答える前に麻生は素早く店を出て行った。
麻生の言葉の意味がよく分からずそのまま席に座ると三人が座っていた席に一人の巫女服の女性が近づいてきた。
麻生は店を出てからすぐに学生寮に戻った。
これ以上散歩をしていたらまた面倒な事に巻き込まれると直感したからだ。
麻生は今度は近場ではなくもっと遠い所を散歩しようと考えていた時、部屋のインターホンが鳴り響く。
不幸はどこにいてもやってくるのか、と半分諦めつつドアに近づき開ける。
ドアを開けると長い髪をポニーテールに括り、Tシャツに片方の裾を根元までぶった切ったジーンズ、腰のウエスタンベルトには七天七刀という格好をしているよく見覚えのある人物が立っていた。
「貴方に頼み事があって参りました。」
神裂火織は一言そう告げた。
神裂を部屋に入れる。
麻生はベットに腰掛け、神裂は床に正座して座る。
「それで前までは敵として戦っていた俺にどんな頼み事を?」
「貴方はもう敵ではありません。
貴方は彼女、インデックスを救ってくれた恩人です。」
「救ったのは俺じゃなくて当麻だけどな。」
もちろん少年にも感謝しています、と付け加えて言う。
話が進まないので一気に本題を聞く。
「それで俺にどんな頼み事を?」
「貴方は三沢塾と言う名に聞き覚えはありませんか?」
「確かシェア一位を誇る進学予備校だったな。
それがどうかしたのか?」
学園都市で言う「進学予備校」の定義というのはそれに一工夫加えたもので、本当は大学に受かるだけの実力があるのに、さらに上の大学へ進むためにわざと浪人して一年間受験勉強しよう、という人間の為に作られた予備校だったりする。
さらにこの三沢塾は普通の高校生も通う「現役予備校」の二つの顔を持つらしい。
神裂は封筒を取り出し中身を見せてくる。
その中に写真と三沢塾について書かれた資料が入っていた。
その写真に写っていたのはあの巫女服を着た女性だった。
「その三沢塾に写真の女性が監禁されています。
貴方への頼み事はその女性を助け出す事をお願いに参りました。」
資料を見ると三沢塾の見取り図や電気料金表や出入りする人間のチェックリストなど様々だった。
しかし、どれもおかしな点が多々あり何かあると言わんばかりの資料だった。
「三沢塾は科学崇拝を軸にした新興宗教と化しています。
教えについては何も分かりませんがそもそも三沢塾は潰れています。
需要なのはそこではありません。
端的に言うと三沢塾は本物の魔術師に・・・正確に言うとチューリッヒ派の錬金術師に乗っ取られているという事です。」
「どうして錬金術師は三沢塾を乗っ取ったんだ?」
「錬金術師のそもそもの目的は「三沢塾」に捕えられていた吸血殺しです。」
麻生は神裂の口から吸血殺しと言う言葉を聞いて眉をひそめる。
吸血殺しはその名の通りある生物を殺す能力である。
麻生はその能力とその生物について星から知識を供給する。
「吸血殺し、吸血鬼を殺すための能力。」
神裂は麻生の言葉に少し驚いているようだがそのまま話を続ける。
「元々その錬金術師は吸血殺しを狙っていたようなのですが、一歩先に「三沢塾」が吸血殺しを捕えたようです。
錬金術師も騒ぎを起こさないようにしたかったようなのですが、「三沢塾」が先に捕えていたのでそうもいかない事になりました。」
そして神裂はその言葉を最後に口を閉ざす。
麻生はいきなり説明が終わったのでどうしたのか聞いてみる。
「貴方は吸血鬼を信じますか?」
どうやら吸血鬼について考えていたようだ。
麻生は率直な意見を言う。
「吸血殺しって能力がある以上、存在はしているだろうな。
俺も見た事はないが。」
この星には吸血鬼が確かに存在している。
吸血殺しと言う能力も理由にあるが、何より星がいると麻生に教えたからだ。
「そんな事はまぁどうでもいい。
それで火織、お前は俺にこの女性を助け出せばいいのか?」
「はい、吸血殺しを利用して吸血鬼を捕まえれば、それをどんな事に使われるか分かりません。
彼女を保護する必要があります。」
「それにしてもどうして俺なんだ?
お前が行って片をつければいい話だろ。」
神裂は聖人と言って世界に二十人といないと言われる。
生まれた時から神の子に似た身体的特徴・魔術的記号を持つ人間だ。
『神の力の一端』をその身に宿すことができる。
具体的には、聖人の証『聖痕』を開放した場合に限り、一時的に人間を超えた力を使うことができその戦闘能力は精鋭集団である『騎士団』の一部隊すら単機で容易に壊滅させることが可能。
そんな力を持っているのなら神裂一人で行けば、すぐに終わると麻生は考えていたのだが。
「私は任務ですぐに日本を離れないといけません。
ですので、私ではなくステイルとそして上条当麻がこの救出に手伝う予定です。」
あいつまで巻き込まれているのか、とつくづく不幸だなと思ったがある疑問が浮かんだ。
「どうして俺や当麻を選んだ?
俺や当麻は魔術師でも何でもないぞ。」
「教会は麻生恭介と上条当麻をインデックスの裏切りを防ぐ足枷を命じました。」
それを聞いた麻生は神裂を睨みつける。
それでも神裂は表情変えず続ける。
「「首輪」が外れた禁止目録の裏切りを防ぐためです。
もしどちらかが教会の意に従わなかったら即刻インデックスを回収する事になりました。」
ちっ、と麻生は舌打ちをする。
普通に頼まれたのなら断るつもりだったが、インデックスと上条が関わっているのなら話は違ってくる。
此処で麻生が断ればインデックスは確実に回収されるだろう。
そして上条はそれに全力で抗うはずだ。
記憶が消えてもあいつは上条当麻だ。
彼女を守る為に拳を振うだろう。
以前の麻生ならこんな状況でも断っていたが、今の麻生は断るに断れなかった。
(ほんとどうなったんだろうな、俺。)
そう思いながら麻生は答えた。
「分かった、手伝おう。」
「ありがとうございます。」
神裂はあくまで魔術師の顔で答える。
「捕らわれている女性の名前は姫神秋沙、写真はもう見ましたね。
それではよろしくお願いします。」
そう言って神裂は立ち上がり部屋を出ていこうとするがピタッ、と突然動きを止める。
そして深呼吸をしているのか肩が上下に動いている。
そしてバッと麻生の方に振り向いた。
「申し訳ありません!!」
下げた頭が地面にぶつかりそうなくらい腰を曲げて謝る。
麻生はいきなり謝られたので呆然とする。
「前の戦いの時、私は貴方に一瞬とはいえ本気で斬りかかってしまいました。
最悪の場合、貴方を殺していたかもしれないのに。」
頭を下げながら謝る。
「お前、もしかして俺に謝る為にわざわざ此処に来たのか?」
それを指摘されると突然顔をあげてうろたえる。
照れているのか顔がとても赤くなっていた。
「わ、私は、別に・・・その・・・・」
「いいよ、俺は気にしていない。」
「え・・・」
「確かにあの一撃はまともにくらえば死んでいたが俺は生きている。
これで充分だろ、だから火織がそう悩む必要はない。」
彼らしからぬ優しい言葉をかけると神裂はさっきより顔を赤くして失礼します!!、と叫んで勢いよく部屋を出て行った。
「からかったらなかなか面白いな、あいつ。」
「星、ですか。」
窓もドアも階段もなくエレベーターも通路もない、建物として全く機能する筈もないビルは大能力者の空間移動がなければ出入する事も出来ない、最高の要塞の中で魔術師ステイル=マグヌスは目の前の人間の言葉を聞いて眉をひそめる。
目の前に直径四メートル、全長一〇メートルを超す強化ガラスでできた円筒の器に赤い液体で満たされた中で逆さまになって浮かんでいる。
男にも女にも見えて大人にも子供にも見えて、聖人にも囚人にも見える人間。
学園都市の最大権力者であり、学園都市総括理事長、アレイスター・クロウリーはステイルに言った。
「そうだ、麻生恭介が所有している能力の名前だ。
これほど彼の能力にあった名前はない。」
ステイルはあの麻生の能力について考える。
確かに自分の「魔女狩りの王」の弱点を一瞬で見極め、さらに封じ込めるという事までしでかした。
あの時、インデックスが自動書記モードになった時も麻生一人で解決した。
「君は星に意思があると思うか?」
突然のアレイスターの問いかけにステイルは答える。
「ない、と私は思います。
この星、地球はただ回り土地としての機能など有しているだけで意思などないと考えます。」
「それは間違いだ。
私達人間に感情などがあるように星に限らず植物と言った物、全てに意思はある。」
ステイルはその話はどちらかと言えば魔術側の話になるのにこの人間は淡々と語る。
「彼はその星と繋がっている。
単に繋がっているのではなく星の力を操る事が出来るのだよ。」
「ッ!?・・・それでは彼は・・・・」
「そう、彼がその気になればあらゆる秩序や法則など改変することができ、この世界を創り直す事も可能だ。」
そんなことは人間の領域を超えている。
それはもう神の位と同じだとステイルは考える。
もしあの時、麻生がその気だったらステイルなど簡単に殺せたのでは?と思ったがアレイスターの説明はまだ続いていた。
「だが、それは本来の力を操る事が出来たらの話だ。」
「どういう事です?」
「簡単な話だ、彼はまだ自分の能力を完全に制御できていない。
せいぜい、二〇~三〇%辺りの力しか使えていない。」
なぜそんな事をこの人間は知っているのか聞きたかったが聞けば自分の命はないとステイルは思う。
「だが、それでも彼の力は強大である事に変わりない。
吸血殺し(ディープブラッド)の件は君一人ではなく星と幻想殺しを使えばいい。」
「魔術師を倒すのに能力者を使うのはまずいのでは?」
「問題ない、あの二人は無能力者だ。
価値のある情報は何も持っていない。
魔術師と行動を共にしたところで魔術側に科学側の情報が洩れる恐れはない。」
ステイルは無能力者(レベル0)の意味がいまいち分からないが言葉の意味を考えればあの二人は力が無いという結果が出ているだろう。
しかし、ステイルの心情をアレイスターは答える。
「幻想殺しのように正体不明の能力者はいくらでもいるぞ。
星のように「強大な力を持ち主ゆえに、誰も本気を出している姿を見た事のない能力者」などいう種類も存在する。」
ステイルはあれで本気ではないのか、と麻生の底知れぬ力について考える。
そして「人間」は言った。
男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見えるその者は等しく「笑み」を思わせる表情を作り言った。
「さて、吸血殺しが吸血鬼の存在を証明したと言うのならば、あの幻想殺しや星は一体何を証明してくれるのだが、ね。」
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
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