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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第15話

上条を肩で担ぎながら小萌先生の家に目指すがある事に気づく。

(そういえば、先生の家ってどこだ?)

歩いていた足が止まり考える。
此処は第七学区でも結構な広さがあるので、その中で小萌先生の家を特定するなど非常に時間がかかる。
上条の記憶を覗こうにも幻想殺し(イマジンブレイカー)が邪魔をして記憶を覗けない。
麻生は携帯を開け電話帳を見るとそこにある人物の名前が載っていた。
黄泉川愛穂。
彼女は小萌先生と同じ学校の教師なので、もしかしたら住所を知っているかもしれないと麻生は考え電話をかける。

「お前から電話をかけてくるなんて珍しいじゃん。」

ワンコールで出たので暇を持て余しているのだな、と麻生は思う。
しかも心なしか楽しそうな声で出たので何かいい事があったのか、と考えるが今はその事を聞いている場合ではないと思い用件だけ話す。

「愛穂、小萌先生の家の住所を知っているか?」

「・・・知っているけど知ってどうするの?」

さっきまで楽しそうな声だったのに、一気に不機嫌そうな声で答えるので麻生は本当に何があったんだ、と真剣に考える。

「いや、少しあの先生に届け物があってな。」

「それって授業の提出物とか何か?」

全然違うが事情を説明してもややこしくなりそうなので適当に答える。

「そうだ、いざ渡そうとしても住所が知らなくて困っているんだ。」

「なら、全然オッケーじゃん。」

さっきまでの不機嫌な雰囲気はどこにいったのか、住所を教えて貰い麻生は通話をきる。
きり際に愛穂は何か言っていたが、今は長話している暇はないのですぐにきる。
愛穂に教えて貰った住所を携帯のGPSを使い場所を特定してそこに向かう。
そこには超ボロい木造二階建てのアパートで通路に洗濯機に置いてあり、見た限り風呂場はないようだ。
本当に此処に住んでいるのか、と麻生は疑ったが二階の一室のドアが開くとそこから小萌先生がちょうど出てきた。

「あれ、麻生ちゃん?
 どうして先生の所にって、上条ちゃんどうしたんですか!?」

肩に担いでいた上条を見て慌ててこちらに走ってくる。
麻生は詳しい事は話さなかったが、傷の具合を説明すると小萌先生に預けてこの場から去ろうとする。

「麻生ちゃんはどこに行くのですか?」

「用が済んだから寮に帰るんですよ。
 此処まで運んできたのはアフターサービスだが。」

そう言って麻生は去っていき、ある程度歩いて周りに誰も居ない事を確認すると自分の右腕を確認する。
麻生の右手は青く腫れ上がっていた。
あの時、神裂の唯閃を受け止めた時その衝撃を直に伝わったからである。

(さすがに身体強化なしで厳しかったな。)

そう思いながら能力を発動して全身の怪我や痛みを治していく。
麻生の能力である「星」(テラ)は一日三〇分しか発動できない。
麻生は能力がきれたり使えなくなったりした時の事を考え、戦闘経験や武術経験など戦闘に役立ちそうな経験を身体に刻み込む事で身体能力を上げている。
しかし、身体強化や自身の眼を変換させるといった能力の使用は身体に刻み込んで、常時発動する訳ではなく一時的に発動しているだけに過ぎない。
これが発動している間は能力使用時間は無くなっていく。
なら常時発動するようにして時間を節約すればいいと思うがそういう訳にはいかないのだ。
まず、麻生の身体能力はこれ以上上げることが出来ない。
上げるとなると星のバックアップがどうしても必要なのだが、もし身体強化を常時発動状態にすれば麻生の身体はその強化の負担に耐えられなくなり、動くおろか死んでしまう事もあるのだ。
ゆえに星のバックアップなしでは発動することが出来ない。
能力使用時間がきれればその瞬間、麻生は死んでしまうと同じ事なのだ。
魔眼などは日常生活に支障が出る可能性があるので常時発動型にしていない。
あの時の神裂は怒りで刀の軌道など先読みすることができ、唯閃に至っては本来の力は出ていなかったので身体強化なしで何とか迎撃することが出来た。
もし、神裂が冷静な状態なら強化なしで勝つ事など不可能なのだ。
なぜ、不可能なのか。
理由は簡単だ。
麻生が人間だからである。
この世界には強さの基準ができている。
天使は神に勝てない、人間は天使に勝てない、などといった強さの順列がこの世界にあるのだ。
聖人は人間より一段階上の存在なので、それらを勝つにはそれ相応の準備や能力などが必要になるのだ。
麻生が星のバックアップなしで身体強化できない理由もこれに該当する。
これ以上強化すれば、それは人間としての領域を超えてしまう事になる。
そうなれば、麻生恭介という人間は人間ではなくなり死を迎えるのだ。
これらを行うには麻生自身が人間をやめ、それ以上の存在になる他ない。
それらは存在改竄というもの。
改竄をすれば、この世界での麻生恭介は消滅し、誰の記憶にも残る事はない。
もっとも、麻生はそんな事をするつもりは毛頭ないのだが。






それから三日後。
三日経っても上条から何も連絡はなく自分の力で解決したのか、と思ったが自分でその考えを否定する。

(あの神裂の話を上条はほとんど信じているようだった。
 だったら、あの疑問点(・・・)に気づいていないだろう。)

神裂は三日後にインデックスの記憶を消すと言った。
もし、上条がそれを否定しても神裂とステイルと協力して、力ずくでもインデックスを回収して記憶を消すだろう。
あの時、神裂は麻生に答えを聞いたが麻生は答えなかった。
なら、今の神裂に残されている道はインデックスの敵になり続けること。
麻生は三日前から散歩に出る事はなく、ただ時計をずっと見ていた。
もうすぐ夜の十二時になる。
まるで上条からの連絡を待っているかのようだった。





上条は朝に一度目が覚めてその時、ステイルと神裂は小萌先生の家にやってきた。
その時は襲撃に来たのではなく様子を見に来たらしいがすぐに立ち去って行った。
そして、再び眠ってしまい気づけば夜になっていた。
神裂から電話がかかり最後の警告を言いにきたが、上条は最後まで足掻いてみせるとお前達を潰してみせると言った。
そして、何か方法はないか考えていて小萌先生に電話して脳について聞こうとした時、小萌先生の言葉を聞いて上条は凍りつく。

「だって、もう夜の十二時ですよ?」

えっ?、と上条が聞き返してギチギチとインデックスの方に向く。
インデックスは投げ出された手足はピクリとも動かないでいた。
そのまま受話器を取り落としてしまいカンカン、とアパートの通路を歩く足音が聞こえた。
最後に神裂が電話で言った言葉を思い出す。

「それでは魔術師(われわれ)は今晩零時に舞い降ります。
 残り時間はわずかですが、最後に素敵な悪あがきを。」

上条がその言葉を思い出した瞬間、アパートのドアが勢い良く外から蹴破られた。
そこには二人の魔術師が立っていた。
土足のままステイルは部屋に入ると呆然と立ち尽くしている上条を片手で突き飛ばし、ぐったりと手足を投げ出したまま動かないインデックスの側にしゃがみ込んで、何かを口の中で呟いている。

「神裂、手伝え。
 この子の記憶を殺し尽くすぞ。」

その言葉に上条の胸の一番脆い部分に刺さったような気がした。
あの時上条は神裂にこう言った。
本当にインデックスの為だけを想って行動するなら、記憶を殺す事をためらうな、と。
何度記憶を失おうが、そのたびにもっと幸せな、もっと面白い思い出を与えてあげれば、彼女だって記憶をなくし「次の一年」を迎える事を楽しみにする事だって出来る筈だ、と。
だけど、それはもう他に方法がないと諦めきった後の妥協案のはずじゃなかったのか?
上条は知らず知らずの内に爪が砕けるほど拳を強く握り締めていた。
そして顔を上げて魔術師たちに言った。

「待てよ、待ってくれ!
 もう少しなんだ、あと少しで分かるんだ!
 この学園都市には二三〇万もの能力者がいる、それらを統べる研究機関だって一〇〇〇以上ある。
 読心能力(サイコメトリー)洗脳能力(マリオネッテ)念話能力(テレキネシス)思念使い(マテリアライズ)
「心を操る能力者」も「心の開発をする研究所」もゴロゴロ転がっているんだ!
 そういう所に頼っていけば、もう最悪の魔術(こんなほうほう)なんかに頼らなくっても済むかもしれねーんだよ!」

「・・・・・」

「お前達だってこんな方法取りたかねーんだろ?
心の底の底じゃ他の方法はありませんかってお祈りしてんだろ!
だったら少し待ってくれ!
 俺が必ず誰もが笑って誰もが幸福な結末を探し出してみせるから!
 だから・・・!?」

「・・・・・」

ステイル=マズヌスは一言も告げない。
上条もどうして自分がそこまでするか分からないがあの笑顔が、あの仕草が、もう二度と自分に向けられる事がないと、この一週間の思い出が他人の手によってリセットボタンを押すように軽々と真っ白に消されてしまうといちばん優しい部分が、痛みを発した。
そして沈黙が支配する。
上条は恐る恐る魔術師の顔を見る。

「言いたい事はそれだけか。出来損ないの独善者が。」

そうして、ルーンの魔術師、ステイル=マグヌスが放った言葉はそれだけだった。

「見ろ。」

ステイルは何かを指さしたが上条がそちらへ視線を移す前に、ステイルは勢い良く上条の髪の毛を掴んだ。

「見ろ!!君はこの子前で同じ台詞が言えるのか?
 こんな死人の一秒前みたいな人間に!
 激痛でもう目が開ける事もできない病人に!
 ちょっと試したい事があるからそのまま待ってろなんて言えるのか!!」

インデックスの指がもぞもぞと動いていた。
動かない手を必死に動かし上条の顔に触れようとしている。
まるで魔術師に髪を掴まれた上条の事を、必死に守ろうとしている。

「だったら君はもう人間じゃない!
 今のこの子を前に、試した事もない薬を打って顔も名前も分からない医者どもにこの子の身体を好き勝手にいじらせ、薬漬けにする事を良しとするなんて、そんなものは人間の考えじゃない!!
 答えろ、能力者。
 君はまだ人間か、それとも人間を捨てたバケモノなのか!?」

上条は答えられない。
ステイルはポケットの中からほんの小さな十字架のついたネックレスを取り出した。

「これはあの子の記憶を殺すのに必要な道具だ。
 推察通り、「魔術」の一品だよ。
 君の右手で触れれば、僕の「魔女狩りの王」(イノケンティウス)と同様、触れるだけで力を失うはずだ。
 だが、消せるか、能力者?
 この子の前で、これだけ苦しんでいる女の子の前で、取り上げることが出来るのか!
 そんなに自分の力を信じているのなら消してみろ、能力者(ヒーロー)気取りの異常者(ミュータント)が!」

上条は、見る。
インデックスの言う通り、これさえ奪ってしまえばインデックスの記憶の消去を止められる。
上条は震える右手を岩のように硬く握りしめて、けれど、できなかった。
この魔術は「とりあえず」安全かつ確実にインデックスを救う事ができる唯一の方法だ。
これだけ苦しんでいて、これだけ我慢を続けてきた女の子の前で、それを取り上げるだなんて、できるはずがなかった。
上条は本棚に背中を預けて呆然という。

「これだけの右手を持っていて、神様の奇跡(システム)でも殺せるくせに。
 どうして、たった一人の・・・・苦しんでいる女の子を助ける事もできねーのかな。」

笑っていた、ただ己の無力さを噛み締めて。

「儀式を行うのに午前零時十五分まで、一〇分ほど時間が余っていますね。」

突然、神裂が言い出すとステイルは信じられないものでも見るかのように、ステイルは神裂を睨みつける。

「私達が初めてあの子の記憶を消すと誓った夜は、一晩中あの子の側で泣きじゃくっていました。
 そうでしょう、ステイル?」

「だ、だが、今のコイツは何をするか分からないんだ。
 僕達が目を離した隙に心中でも図られたらどうする?」

「それならさっさと十字架を触れていると思いませんか?
 彼がまだ「人間」だと確信していたからこそ、貴方も偽物(フェイク)ではなく本物の十字架を使って試したのでしょう?」

「しかし・・・・」

「どの道、時が満ちるまで儀式は行えません。
 ここで彼の未練を残しておけば、儀式の途中で妨害に入る危険性が残りますよ、ステイル。」

ステイルは奥歯を噛みしめて獣のように上条の喉を食い破ろうとする己を抑えつけて。

「一〇分間だ、良いな!?」

きびすを返してアパートを出て、神裂も何も言わずにステイルに続いて部屋を出たがその目はとても辛そうに笑っていた。
インデックスが命を削って作った一〇分間を、一体どうすればいいか上条は全く分からなかった。

「けどさ、こんな最悪な終わり方って、ないよな。」

上条は何もできない自分がひどく悔しかった。
インデックスの脳の八五%を占める一〇万三〇〇〇冊の知識をどうにかする事も。
残る十五%の「思い出」も守り抜く事だって。

「・・・・あれ?」

そこまで絶望的な考えを巡らされていた上条はある違和感を感じ取った。
その違和感は疑問に変わると上条は部屋の隅にある黒電話に飛びつくとある電話番号にかける。
小萌先生の携帯ではなく麻生の携帯電話に。







十二時五分になった。
本人は気づいていないようだが麻生は少し残念そうな顔をしていた。
上条があんな幻想に負けた事が残念だと思っているのかどうかはそれは本人でも分からない。

(何を俺は期待していたんだ。
 元々、これは全くの他人が引き起こした騒動だ。
 俺がわざわざ関わる必要もない。)

そう思いひと眠りでもしようとした時、麻生の携帯が部屋中に鳴り響く。
画面には知らない電話番号が表示されていたが麻生は通話ボタンを押す。

「麻生!!」

「誰かと思えばお前か。」

「麻生、インデックスの完全記憶能力の事について聞きたい事がある。」

麻生は上条がインデックスの記憶の矛盾点に気づいたのだと考える。

「どうやらお前も気づいたみたいだな。」

「お前もって、麻生はもう気づいていたのか!?」

「ああ、きっちり八五%って数字が出るのは少しおかしいと思った。
 あいつらは科学の力を使ってその数字を出しわけでもない筈だ。
 何より、一〇万三〇〇〇冊の魔道書が脳の85%を使われていたらインデックスは既に死んでいる。」

「何でそんな大事な事をあの時に話さなかったんだよ!!」

上条の問いかけに少しの間沈黙するが麻生は答える。

「彼女はお前が救わないといけない人間だ。」

「え・・・」

「確かにあの時に記憶の事を話せば今頃全て丸く治まっていただろう。
 けどな、それは俺の力で解決しただけであってお前の力じゃない。
 お前はインデックスを守ると決めたんだろう?
 なら、お前が救え。」

麻生の言葉に上条は一瞬、言葉を失ったがその言葉を噛み締めるように言う。

「ああ、インデックスは俺が守る。」

それを聞いた麻生は、少しだけため息を吐いて説明を始めた。

「とりあえず、記憶について簡単に説明してやろう。
 人間の脳の中は色々記憶する為にいくつかの引き出しがあるんだ。
 言葉や知識を司る「意味記憶」、運動の慣れなどを司る「手続記憶」、思い出を司る「エピソード記憶」、といった感じに色々役割が決められている。
 インデックスが覚えた一〇万三〇〇〇冊はこの「意味記憶」に記憶されているはずだ。
 どんなに知識など覚えても「エピソード記憶」を圧迫する事はない。
 そもそも人間は一四〇年分を記憶する事が可能だ。」

「それじゃああいつらは・・・・」

「教会側から騙されていたんだろう。
 インデックスに首輪をつける事であの二人は反逆の可能性を潰していたんだ。」

上条の息が詰まるのが電話越しの麻生まで伝わるが、上条は次の瞬間には少しだけだが笑っていた。
先ほどまで絶望だった状況にようやく希望の光が見えてきたのだ。

「さて、俺の説明はここまでだ。
 インデックスは何かしらの魔術で脳を圧迫されているはずだ。
 その魔術の発信源をお前の右手で潰せ。」

「分かった。
 麻生、本当に助かった。」

「礼を言うならインデックスを助けてからにしてくれ。」

麻生は少しだけ笑みを浮かべながら言った。

「さて、見させてもらうか。
 幻想を殺す事しかできないお前の右手が人一人を救くえるのかどうか。
 まぁ、何かあったらフォローくらいしてやるよ。」

そう言って麻生は通話をきると服を着替えて小萌のアパートに向かう。
本人は気づいていないだろうが、その口元は少しだけ笑みを浮かべていた。
なぜ、笑みを浮かべていたのかその理由は誰にも分からない。










「行け、能力者!!」

上条に向かってインデックスの「竜王の吐息」(ドラゴン・ブレス)をステイルの「魔女狩りの王」(イノケンティウス)が上条を守るように両手を広げて真正面から盾になる。
インデックスの脳を圧迫している魔術はインデックスの口の中にあった。
それを上条の右手が触れるとインデックスの両目は真紅の魔方陣が浮かび、上条当麻を侵入者だと決め破壊するとインデックスは言った。
その騒ぎにステイルと神裂がやってきて、インデックスが魔術を使っている事に驚いていた.
上条は騙されていた事などを説明すると、ステイルと神裂はインデックスを救えるのならと協力してくれている。
「竜王の吐息」(ドラゴン・ブレス)をステイルの「魔女狩りの王」(イノケンティウス)が防いでいる内に一気に近づきインデックスを救う、そう考えた時だった。

「ダメです!!上!!」

神裂の叫びに上条は足を止めず上を見上げるとそこには何枚もの光の羽がゆっくりと舞い降りていた。
上条は魔術の事は何も知らないがあれに触れてしまえば大変なことになることぐらい分かった。
インデックスはもうすぐ手を伸ばせば顔の前にある魔方陣に触れられる、だがあの光の羽は危険だ。
上条の右手ならあの光の羽を破壊することが出来るがそれでは時間がかかりすぎる。
その間にインデックスは「魔女狩りの王」(イノケンティウス)の対策魔術を施したのかみるみる「魔女狩りの王」(イノケンティウス)の再生速度が落ちていく。
このまま時間をかければインデックスの体制が立て直される恐れがあり、さらに「魔女狩りの王」(イノケンティウス)がそれまで保たない。
だが、そんな事上条からすれば答えは決まっていた。
この右手は自分を守る為に振っているのではない。
たった一人の女の子を助ける為に魔術師と戦っていたんだから。

(この物語(せかい)神様(アンタ)奇跡(システム)の通りに動いてるってんなら、まずはその幻想をぶち殺す!!)

上条は右手を振り下ろしその先にある亀裂を生み出す魔方陣に触れようとした。
だがその右手よりも早く上条の頭に一枚の光の羽が舞い降りた。
金槌で頭を殴られたように全身の指先一本に至るまでたった一撃で全ての力を失った。

(ちくしょう・・・おれは・・・だれもすく・・・え・・・)

そして上条は床に倒れかけ同時に「魔女狩りの王」(イノケンティウス)の盾が破壊され「竜王の吐息」(ドラゴン・ブレス)が上条に襲いかかる。

「能力者!!!」

ステイルがそう叫んだ時だった。

「いや、お前はこの子を救ったよ。」

ステイルと神裂の間から「竜王の吐息」(ドラゴン・ブレス)に向かって、何かが飛んでいきそれがぶつかる。
それは何の変哲もない十字架だった。

「十字架を元に集まれ四大の元素よ。
 汝ならはあらゆる物から守る盾となれ。」

ステイルと神裂は聞き覚えのある声が、後ろから聞こえたと思い後ろを振り向くと麻生恭介が立っていた。
十字架の先端には赤、青、緑、茶色の魔力の塊が集まるとそれを基点に魔方陣が描かれ「竜王の吐息」(ドラゴン・ブレス)を防いでいる。
そして麻生は二人の間を抜けて上条の側に行く。

「お前はこの子を救ったよ、お前が俺に電話しなければ此処には来なかった。
 出来れば当麻(・・)の手で助けてほしかったが、後処理くらい俺がやってやるよ。」

既に眠るように気絶している上条に言い聞かせる。

「「書庫」内の一〇万三〇〇〇冊により、障壁の魔術の術式を逆算・・・失敗。
 それに一番近い魔術を検索・・・成功。
 障壁に対して最も有効な魔術の組み込みが完了しました。
 これより、新たに現れた侵入者を破壊します。」

先ほどまで防いでいた障壁が突然亀裂が走る。
麻生は右手を障壁に向け亀裂を復元していくが、それよりも早く亀裂が走っていく。

「君はどうして此処に・・・・」

「当麻がこの子を救えるかどうか興味があったから来てみたが、こんな事になっているとはな。
 さて、魔術師。」

「竜王の吐息」(ドラゴン・ブレス)の勢いが右手まで来ているのか麻生の右手がどんどん傷ついていくが、それを気にせず二人に話しかける。

「俺は上条のフォローするつもりだったんだが、具体的に何をすればいいか分からない。
 インデックスを殺せばいいのか?
 それともこのまま放置すればいいのか?
 俺はどうすればいいか分からない。
 だからお前達が決めろ(・・・・・・・)
 彼女をどうして欲しいんだ?
お前達の思いを言葉にして言ってみろ。」

麻生の問いかけにステイルと神裂は一瞬、黙り込むが声を出したのは神裂だった。

「彼女を・・・助けてください。」

その言葉にステイルも続く。

「もし君が彼女を救えるのなら頼む。
 もう僕では彼女を救う事が出来ない・・・だから・・・」

「お前は一つ勘違いしている。」

予想外の麻生の返事に二人は唖然とする。

「インデックスは上条と出会った時から既に救われているんだよ。」

その言葉と同時に障壁が破壊され「竜王の吐息」(ドラゴン・ブレス)が麻生に襲いかかる。
だが、麻生は「竜王の吐息」(ドラゴン・ブレス)の周りの空間に干渉して、壁ではなく歪める事で「竜王の吐息」(ドラゴン・ブレス)の軌道を斜め上に逸らす。
「竜王の吐息」(ドラゴン・ブレス)ほどの魔術となると常に麻生が空間の歪みに干渉して、復元し続けなければならないが麻生にはインデックスがどう対応するか分かっていた。

「警告、「(セント)ジョージの聖域」の軌道の修正・・・失敗。
 これより術式を変え、新たな迎撃魔術を組み上げます。」

すると、「竜王の吐息」(ドラゴン・ブレス)は消滅する。
麻生はあのインデックスはあらゆる事に完璧に対処してくると考え、もし修正不可能だったらすぐに新しい魔術を組み上げると考えた。
あのまま「竜王の吐息」(ドラゴン・ブレス)を続けられていたら、麻生は常に空間の歪みの復元をしなければならなかったので、そのまま能力使用時間が終わり麻生の敗北は確定していた。
だが、「竜王の吐息」(ドラゴン・ブレス)を何とか退けたがこのまま時間をかけるのはまずい、と麻生は思う。

(あいつの魔道書の中には星について書かれた魔道書があるかもしれない。
 そう考えると俺の能力が星の力だと分かれば俺は負ける(・・・・・)

だから、麻生は新しい術式を組み上げる前に勝負をつけると、考えインデックスに近づくが一歩踏み出した瞬間、麻生の足元に魔方陣が突然現れる。

(これは重力を操り俺の動きを制限させる魔術か・・・だが。)

その魔術は麻生自身に干渉してくると同じ事。
その拘束を無力化にして前に進むが、既にインデックスは迎撃魔術を組み上げている。
インデックスの周りに光の球体が何個も浮かんでいた。
麻生は足を止めて、赤い槍を具現化させ身体を強化させる。
槍の名前は破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)
この槍で触れた時、あらゆる魔力的効果を打ち消す槍である。
そして光の球体が次々と麻生に向かって放たれるが、麻生は破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を巧みに動かしその球体を次々と打ち消していく。
そして、一瞬の隙をついて麻生は何かをインデックスに向かって投げる。
それは宝石だった。

光れ(フラッシュ)

それに応えるかのように宝石は輝きインデックスの視覚を一時的に封じる。

「警告、視覚に影響、これより術式を組み換え索敵魔術と聖域の防壁を展開。」

インデックスは周囲に索敵魔術を広げ敵の居場所を確認する。
だが、確認できたのは三人だけだった(・・・・・・・)
そして、防壁を破壊されると同時にインデックスに何かが刺さる。

「警、こく・・・・「首輪」致命的な、破壊・・・・再生、不可・・・消・・・」

インデックスの全ての声が消える。
ステイルと神裂は先ほどの光で目を奪われていたが、それが治ると麻生の手には先ほどの槍と刀身がギザギザに曲がっている短剣を持っていて、足元にはインデックスが気絶していた。
麻生が持っていた短剣は破戒すべき全ての苻(ルールブレイカー)
あらゆる魔術による生成物を初期化する短剣である。
索敵魔術に反応したのはステイルと神裂と上条だけだった。
麻生は自分に結界を張る事で自分の存在を隠し、索敵結界を潜り抜けた。
聖域は破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)で破壊して、最後に破戒すべき全ての苻(ルールブレイカー)で首輪を破壊したのだ。
ステイルと神裂はインデックスに駆け寄り、インデックスが無事である事を確認するとホッ、と胸を撫で下ろした。
麻生はある医者に電話をして救急車を呼ぶのだった。








朝になり麻生は右手にリンゴを一つだけ持ちながら病院の中にいた。
そして、ある病室に向かって歩いていると聞き覚えのある絶叫が聞こえ、その病室からインデックスが傍から見ても分かるくらい怒った足取りで出ていく。
インデックスと入れ替わるように麻生は病室に入るとそこにはカエル顔の医者と上条がいて、上条は一瞬驚くがすぐに表情を変え話しかける。

「よ、よう、・・・えっと。」

「無理に馴れ馴れしく話さなくてもいい。
 どうせ、何も覚えていないだろう。」

上条は自分が記憶消失である事を、なぜこの男が知っているのか分からず驚いている。
上条はあの光の羽を頭に直撃したせいで、脳細胞が破壊され記憶を失ってしまったのだ。
麻生はそこの先生に教えて貰ったと話す。

「そうだったのか。
 それで名前は?
 俺とどういった関係?」

「名前は麻生恭介、高校もクラスも一緒で学生寮も隣の部屋だ。
 ただそれだけの関係だ。」

麻生はリンゴの皮をナイフ(どこから出てきたのか上条には分からない)で剥きながら答える。

「それじゃあ俺と友達なのか。」

その言葉を聞いてピタッと麻生の手の動きが止まる。

「なぜそんな答えに辿りつく。」

「だってクラスも一緒で部屋も隣なんだろう?
 それでわざわざ見舞いに来てくれるって事は友達じゃあないのか?」

「これはお前が記憶を本当に失っているのか確かめに来ただけだ。
 リンゴはそのついでだ。
 お前の為じゃない、自分の為に来ただけだ。」

麻生の答えを聞いて上条は少しだけ考えて言った。

「お前ってもしかしてツンデレなのか?」

それを言った瞬間、麻生はものすごい目つきをして上条を睨む。
そして、中途半端に皮を剥いたリンゴを上条の口の中に強引に押し込みそのまま病室を出ていく。
上条は思った、こいつは一生デレる事はないツンデレだと。
麻生は来るんじゃなかったと後悔しながら病院を出る。
すると、前にはステイルと神裂が立っていたが麻生は特に声をかける事無く、二人の間を通り抜けていく。

「君はいったい何者なんだい?」

ステイルが振り返って改めて麻生に聞く。
インデックスの聖域を破壊したのといい、首輪を破壊したのといい、麻生は普通の人間には思えない。
だからこそ、ステイルは麻生に問いただしたのだろう。
麻生は振り返り少しだけ笑みを浮かべて言った。

「何てことない通りすがりの一般人Aだ。」 
 

 
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。 
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