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戦国異伝

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第九十話 堺衆その五


「してじゃ」
「私でしょうか」
「うむ。御主があの噂に聞く」
「噂のことは知りませぬ」
 そのことについてはだ。男はこう返した。
「私は人の噂話は耳に入れない様にしていますので」
「そうなのか」
「聞くべきものは聞くつもりです」
 低い言葉だった。しかもだ。  
 そこにあるものは重厚だ。その重厚な声で言うのだった。
「ですが。この耳に入れてはならぬものは」
「聞かぬ様にしておるのか」
「はい、そうしています」
「ふむ。便利な耳じゃのう」
 羽柴は男のその耳を見ながら述べた。
「そうした耳か」
「そうなる様に務めています」
「わかった。ではじゃ」
「はい、今度は噂ではありませんか」
「御主の名前は千利休じゃったな」
「はい」
 あらためて尋ねてきた羽柴にだ。男は小さく頷いて答えた。
「それが私の名前です」
「そう、御主がのう」
「それがしの名前をご存知ということは」
「まあ話を聞いてくれ」
 砕けた調子でだ。羽柴は男に告げた。
「御主が茶道を築こうとしておるのじゃな」
「それを目指しております」
「そうか。それでなのじゃが」
 利休のその知性があるがその真意は見せない目を見ながらだ。羽柴はまた言った。
「御主、今井殿に津田殿もじゃが」
「はい、何でしょうか」
「どういった御用件でしょうか」
「殿に会ってみるか」 
 信長にだ。そうしてはどうかというのだ。
「それはどうじゃ」
「信長公とですか」
「会うのですか」
「百聞は一見にしかずじゃ」
 だからだというのだ。
「どうじゃ。殿の御前に」
「どうしたものか」
「それは」
 しかしだ。そう言われてもだった。
 二人は顔を見合わせてそれぞれ微妙な顔になりだ。こう言うのだった。
「わし等二人だけでもよいが」
「しかしそれでもじゃな」
「うむ、ここはじゃ」
「やはりな」
 二人で頷き合いだ。そのうえでだ。
 利休に二人同時に顔を向けてだ。彼に対して問うた。
「利休殿はどう思われる」
「やはり我等二人で行くべきか」
「そのうえで信長公と会う」
「そうすべきであろうか」
「そうですな」
 利休は二人の問いにまずは一旦目を閉じてだ。それからだった。
 再び目を開いてからだ。二人にこう言った。
「お二人でもいいと思いますが」
「それでもか」
「やはり二人だけで行くよりはか」
「私も御供して宜しいでしょうか」
 利休は自分から言った。信長の前に行きたいとだ。
 そのうえでだ。二人に対してさらに言ったのだった。
「三人で」
「そうか。利休殿も来られるか」
「それならば心強い」
 二人もだ。利休が共に来ると聞いてだ。すぐに安心し納得した顔になってだ。それでそのうえでだ。羽柴達に顔を戻してこう言ったのだった。
「では。宜しければ」
「我等三人で」
「うむ、ではな」
 羽柴もだ。満足している顔で応える。 
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