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戦国異伝

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第九十話 堺衆その四


「返事は今すぐでなくともいいですが」
「いえ、尾張のことも美濃のことも既に聞いております」
「栄えていることは」
「しかしそうしたことがあってですか」
「栄えているとは」
「三好ではそうしたことはせぬか」
 羽柴はあえて怪訝そうに言ってみせた。
「町の港や道を整えたり街並みをよくすることは」
「堺はあくまで堺ということで」
「銭を出すこともしませぬ」
「ふむ。では税を貰うだけか」
 これが三好のやり方だった。松永もそうしていたのだ。
 その松永は今は何も語らない。しかしだった。
 羽柴は今井、津田と話してだ。彼の流れに引き込んでいくのだった。
「織田家ではそれは安くじゃ」
「しかも街を整えて下さいますか」
「そうして頂けるのですな」
「そうじゃ。他にも望みがあれば何なりと申してみよ」
 羽柴は信長の名代として二人を流れに乗せていく。
「殿は聞いて下さるぞ」
「では、ですか」
「この堺に兵を進めることも」
「せぬぞ。御主等が素直にこちらに降ればな」
 それでもういいというのだ。これは実際に信長の考えでもある。
「三好についたことも咎めぬしじゃ」
「三好様もおそらくは」
 ここでだ。これまで黙っていた男が言ってきた。とはいってもヨハネスではない。
 今ここにいる者の中で最も大柄だった。背が高いだけでなく身体つきもしっかりとしている。大きさでは柴田程はあるかも知れない。それだけの大きさだった。
 服は黒い禅僧の服だ。頭にあるそれもだ。
 顔はしっかりとしており逞しい。武芸者にすら見える。
 その彼がだ。こう言ってきたのだ。
「最早堺には来れぬでしょう」
「そうなると言われるのか」
「貴殿もまた」
「はい。四国を維持するのが精一杯です」
 続け様の敗北でだ。そうなったというのだ。
「それに兵を無理をして進めるにしても」
「まあ。あれじゃな」
 男の今の言葉にはだ。羽柴が目を少し上にやって述べた。
「都に向かおうとするじゃろうな」
「はい。ですから」
「この堺には来ぬな」
「都に向かおうとしても上手くはいかぬでしょう」
「そうじゃな。三好は堺には来れぬ」
 羽柴は今井と津田に言ってみせた。男と話すふりをして。
「それに堺に来ても織田家が守ってみせよう」
「では我等は」
「織田家についてもよいと」
「三好のことは気にすることはない」
 羽柴は二人にまた言った。
「我等が責を以て守りにあたる故にな」
「では。我々は織田家に従いましょう」
「堺は」
 ここでだった。二人はこう羽柴達に述べた。
「我等は堺の町衆の代表として来ておりました」
「そして決を委ねられていましたが」
「信長様がそこまで考えておられるのなら」
「我等も喜んで従いましょう」
「そうか。そうしてくれるか」
「ではこれより我等はです」
「織田家と共にあります」
 今井と津田は羽柴に頭を下げた。こうしてだ。
 堺は織田家に従うことになった。遂に河内も織田家の手に落ちたその時だった。だが話はこれで終わりではなくだ。羽柴はその茶人を見て言ったのだった。 
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