戦国異伝
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第八十八話 割れた面頬その十一
「己の足で立ち覇道を歩んでおられた」
「しかしそこにですか」
「あの男が来ると急に弱まってしまわれた」
そしてだというのだ。
「自身の弟殿を讒言で殺しじゃ」
「その讒言もですか」
「言うまでもないことじゃな」
松永がやったというのだ。その讒言も。
「そしてその結果じゃ」
「あの御仁はですか」
「そういうことじゃ」
「だからだというのですか」
「あの男は一刻も早く除くべきじゃ」
荒木もだった。この考えだった。
「わしも殿に申し上げるわ」
「久助殿も筒井殿もそう仰っていますな」
「他にもおるであろう」
「おそらく殆どの方が」
「当然じゃ。あ奴の危うさは天下の誰もが知っておるわ」
まさにそうだというのだ。荒木は断言した。
「殿は操られぬがそれでもじゃ」
「取り除くべきですか」
「うむ、そう思う」
荒木は真剣だった。その顔での言葉だ。
「そもそもあの男の出自は知っておるか」
「いえ」
荒木の今の言葉にだ。羽柴はすぐに首を横に振って答えた。
「それがし、聞いたことがありませぬ」
「わしもじゃ」
「荒木殿もですか」
「あの男は何者なのじゃ」
本気でだ。荒木はこのことを謎に思っていた。
「怪しいことこのうえないわ」
「出自がわからぬうえにあの資質ですな」
「どうしてもわからぬ。どういった者じゃ」
首を傾げさせてさえいた。今は。
「全く以てじゃ」
「だからこそですか」
「わしはあの男は除かねばならんと思っておる」
「ふうむ。それがしはそこまでは」
思っていないというのだ。羽柴は。
「それがしが見たところ松永殿は」
「いや、あ奴は危険じゃぞ」
「危険ですがそれでもです」
「除くことはないというのか」
「除くよりもまずは見るべきでは」
「あの男をか?」
「はい、そう思いますが」
羽柴はまずは松永をどういった者か見極めるべきだというのだ。どうしても今は彼を除くべきではないというのだ。だが彼のこうした考えは。
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