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戦国異伝

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第八十八話 割れた面頬その五


 三好の兵達は騎馬隊の衝撃力を使って突破にかかる。そして気迫もかなりのものだった。
 そしてその気迫を受けてだ。織田の兵達は動きを止めた。そこにだ。
 彼等は一気に進む。それを見てだった。
 丁度織田の軍勢の指揮を執っていた滝川がこう命じた。
「あの者達の正面には立つな!」
「正面にはですか」
「そこにはですか」
「そうじゃ、正面に立てば踏み潰されるわ」
 だからだというのだ。
「ここは横から狙うのじゃ」
「では一旦やり過ごしてですか」
「そのうえで左右からですか」
「鉄砲を撃ち槍で突け」
 まさにそうしろというのだ。
「よいな、そうせよ」
「わかりました、それでは」
「今は」
 足軽達も彼の言葉を聞きだ。そうしてだった。
 彼等が海が割れる様に三好の軍勢の正面を開けた。それを見て三好の兵達は血色立った。そのうえで喜びの色でこう叫んだのだった。
「よし、今じゃ!」
「敵陣を突破するぞ!」
「今から!」  
 こう叫んでだ。彼等は。
 その空いた正面を突き進む。そうして逃げようとする。
 だがその彼等の横にだ。滝川は攻めさせたのだった。
「撃て!」
「撃て!」
 まずは鉄砲が放たれる。そして槍が突き出される。それを受けてだ。
 三好の兵達が次々と倒れる。それに加えて。
 槍も突き出される。槍を受け、足を取られまた多くの兵達が倒れる。だがそれでもだ。
 面頬の男は尚もだ。声を枯らして命じていた。
「進め!」
「は、はい!」
「川まで!」
「そこに行けば舟がある!それで落ちよ!」
 あくまでだ。こう命じるのだった。
「よいな。ここは生きるのじゃ!」
「わかりました、何としても!」
「ここは!」
 三好の兵達は彼の言葉を受け何とか逃げ延びようとする。確かに多くの者が倒れたがそれでもだった。彼等は逃げようとしていた。
 だが滝川は見逃さなかった。男を。それでだった。
 周りにだ。こう命じた。
「あの男を狙うのじゃ」
「鉄砲ですか」
「それで狙えと」
「頭を狙え」
 馬で駆けている男の、その頭をだというのだ。
「兜を被っておるがそれでもじゃ」
「そうですな。これだけ近いとなると」
「鉄砲なら」
「では狙え」
 強い声でだ。滝川は再び命じた。
「よいな。そうせよ」
「はい、わかりました」
「それでは」
 こうしてだ。一人の足軽が男を鉄砲で狙い撃った。弾は馬上の男の頭に向かう。
 だがそれた。僅かだがやや速かった。それでだ。
 男の面頬の額の横を掠めた。その掠めた具合が悪かったのか。
 面頬が割れた。そしてそこから出て来たのは。
「あの男は」
「そうですな。あれは」
「まさしく」
「斉藤龍興じゃ」
 彼だとだ。滝川は目を瞠りながら答えた。
「間違いない、あの男じゃ」
「まさかここまで逃げ延びておったとは」
「考えも寄りませんでした」
 足軽達はそうだった。しかしだ。
 滝川は唸りながらもそれでもだ。こう言ったのだった。
「いや、わしはある程度じゃがな」
「それでもですか」
「察しておられたのですか」
「殿は確信しておられた」
 信長はだ。そうだったというのだ。 
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