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戦国異伝

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第八十八話 割れた面頬その四


「今度こそ二度と立ち向かえぬ様にしなければいかんな」
「そうですな。そうしなければまた向かってきますな」
「ではこの戦で、ですか」
「徹底的に叩いておきますか」
「そうせねばいかん」
 敵ならば容赦しない、信長の考えも出ていた。
「だからこそじゃ。何としてもじゃ」
「倒しますか」
「それか出家させますか」
「そうする。よいな」
 こう話してだ。信長は攻めるのだった。そうしてだ。
 城の中は遂に青で埋め尽くされた。本丸にもそれは及んでいた。その中でだ。
 織田の兵達は必死にだ。あの面頬の男を探していた。
「何処じゃ!?あの男は何処じゃ」
「何処にいるのじゃ」
 本丸はほぼ完全に占拠された。だがそれでもだ。
 あの男の姿は見えない。本丸の何処も探してもだ。
 それは陣頭指揮を執る滝川も同じでだ。彼は自身の直率の忍達からだ。こう聞いた。
「まだ見つからぬか」
「はい、どうやら既に本丸は去っております」
「他の者達と共に」 
 そうなったとだ。彼等は滝川に述べる。
「となると残るはです」
「最後は」
「うむ、門は一つだけ残っておる」
 他の門はあらかた占拠し開けている。しかしだったのだ。
「その門の方に向かっておるな」
「ではその門の入り口に先回りしますか」
「そうしますか」
「そうする。その門の前を囲め」
 滝川は素早かった。実際にこう命じたのである。
 そのうえで青い兵達は城の囲みをさらに厳しくした。槍襖に鉄砲まで備えられる。だが。
 その門からだ。咄嗟にだった。
 馬達が一斉に出た。三好の兵達は馬に乗り囲みを突破しにかかったのだ。
「何と、馬か!」
「馬を出して来たか!」
 これは誰もが予想できなかった。それでだ。 
 織田の兵達の囲みは怯んだ。そしてその怯みを衝いてだ。
 彼等は何とか突破しようとする。面頬の男もそこにいた。
「とにかく抜けよ!このまま一旦川まで行け!」
「そしてそこで、ですか」
「舟で」
「そうじゃ。海に出てそこから河内か四国に下る」
 そうして逃げ延びるというのだ。
「よいな。そうするぞ」
「わかり申した。それでは」
「ここは何とか」
「人の足では速さも勢いも限られておる」
 男は馬上から言う。
「しかし馬ならばじゃ」
「そうですな。こうしてです」
「速さと勢いでいけまする」
「生き残れる者だけ生き残るのじゃ」
 最早誰もが生きて逃げ延びられる状況ではなかった。彼等は。
 目の前には槍と鉄砲がある。その囲みを抜けるのは容易ではない。
 だがそれでもだ。面頬の男は言うのだった。
「一人でもよい、逃げ延びじゃ」
「そうしてですか」
「もう一度だというのですか」
「織田と戦うのじゃ!」
 三好の為ではなかった。彼が今仕えている。
 織田と戦えというのだ。そしてさらにだった。
「そして織田信長、あの男をじゃ」
「討ち取れというのですか」
「そうせよと」
「うむ、そうせよ」
 あくまでだ。信長への執着を見せてもいた。
 それはかなり強くだ。面頬の奥のその目を血走らせてだった。
「よいな。必ずじゃ」
「では何としてもですか」
「ここは」
「生きよ、生きてあの男の首を取るのじゃ」
 あくまでこう言いだ。彼も逃げようとする。織田の囲みを突破しにかかりながらだ。 
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