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万華鏡

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第十話 五月その六


「甘いものを食べた後は特にね」
「歯を磨かないと駄目よね」
「さもないと虫歯になるわよ」
 里香とほぼ同じことだった。
「虫歯になったら嫌でしょ」
「なったことがないのが自慢だし」
「じゃあ磨くといいわ」
「いつも通りに?」
「琴乃ちゃん歯がいいから」
 それでだというのだ。
「健康なんだし」
「本当に歯って健康の源なのね」
「そうよ。後はね」
「後は?」
「風邪をひかないこと」
 このことも言うのだった。
「それも気をつけてるでしょ」
「そういえば中学から風邪ひいてないわね」
「風邪は万病の元だから」
「余計によね」
「そうよ。虫歯と風邪に気をつける」
「それね」
「虫歯になったらパイロットになれないわよ」 
 母は琴乃にこんなことまで言う。
「一本もあったらね」
「治療すればいいでしょ、そんなの」
「ところがそうはいかないの」
 パイロットになるからにはだというのだ。
「治療していても空中で爆発するらしいから」
「爆発するの?」
「そう。治療しててもね」
「何か怖いわね」
「だからパイロットになるにはね」
 虫歯は治療済みであっても一本もあってはならないというのだ。
「琴乃ちゃんもパイロットになりたいならね」
「いや、私パイロットになるつもりないから」
「ないの」
「そういうのには興味ないから」
 だからだと母に実際に興味なさげな様子で答える。
「特にね」
「そうなの。面白くないわね」
「パイロット自衛隊に入らないと駄目よね」
「航空大学に行く方法もあるけれど」
「特にね。そういうことには本当に興味がないから」
 琴乃の口調は変わらない。
「どうしてもね」
「そうなのね」
「そう。本当にどうでもいいわ」
「何か面白くないわね」
「誰だって興味のあるものとないものがあるじゃない」
「じゃあ琴乃ちゃんは将来何になりたいの?」
「前に言わなかった?」
 琴乃は母の今の言葉にこう返した。
「学校の先生だけれど。体育のね」
「そういえば前に言ってたわよね」
「うん。私体育の授業はいつも成績がいいから」
「そうね。合ってると思うわ」
 娘の運動神経、そして性格を見ての言葉だ。琴乃は確かに運動神経がよくしかも優しく面倒見のいい性格なので体育教師には向いていた。
「琴乃ちゃん向きよ」
「でしょ?だからね」
「先生自体に向いてるわ」
 微笑んでこう娘に言う。
「実際にね。ただね」
「ただって?」
「今琴乃ちゃん軽音楽部だけれど」
「それがどうかしたの?」
「体育の先生とは少し離れるわね」
「ランニングとかいつもしてるけれど」
「それでもよ。体育系じゃないから」
 軽音楽部は文化系だ。確かにランニングや筋力トレーニングにも熱心だがそれでも体育会系ではないのだ。
 それで母もこう彼女に言うのだ。 
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