ソードアート・オンライン~幻の両剣使い~ 【新説】
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救世主たち SAO事件後 ~とある記者の雑誌記事~
アイズという人物を語る上で欠かせないのは、彼に従い、彼を守り、彼を助けたギルドメンバー達。そうアイズが率いたギルド【The Savior】の仲間達である。
全員がβ版出身者で構成されたそのギルドは、『あの事件』までは名実ともに最高のギルドであった。
【雷神】・【蒼氷】・【太陽】・【月】・【鋼鉄】・【four piese】・【Creators】・【明敏】・【死神】・【猫魔女】・【鬼目】・【稲妻】・【炎帝】・【水姫】。
【four piese】・【Creators】はチームの名前であるため少々例外的だが、全員に二つ名がつくほど、彼らの知名度は高くその実力を知らぬ者はいなかった。しかもそのほとんどは、まだ20歳にも満たない少年少女ばかり。それに各々が個性が強く、アイズという圧倒的なカリスマ性を持った人物でなければ彼らを率いることはできなかっただろう。
アイズはいかにして彼らを仲間に引き入れていったのかは、彼とそれぞれの者達の秘密の思い出であり、あえてここで語ることはない。
だが、【雷神】と呼ばれたカタナ使いのことは、アイズを語る上で欠かすことはできない人物である。
β版内でも初期の頃にアイズの仲間になった【雷神】ことシュタインという人物は、現実では大学生になりたての青年であった。
高校では、そこそこ頭が良い方であったらしく推薦で大学に入学したらしい。性格は昔からよく喋り、よく遊ぶという周りから見て普通の男の子といった感じであった。
そんな彼は、高校生最後のお年玉でナーヴギアを買った。その流れでネットで盛り上がりつつあった『ソードアートオンライン』のβ版に応募してみたところ、運よく当たりゲームをプレイすることになったのだ。
彼がアイズと出会った時のことを語りたいのだが、生憎そこを彼は教えてくれなかった。だが、彼は間違いなくそこでアイズと出会い、仲間となったのだ。
シュタインは、数あるプレイヤー達の中でも結構上位のプレイヤーであったが、決して廃人プレイヤーと呼ばれる者達には及ばなかった。
実は、アイズはその廃人プレイヤーの中の1人であったらしいが、今となっては、その理由も世間に知られているところだ。
そのアイズとシュタインは、相棒のような関係だったと彼らを知る元プレイヤーは語る。今回は、そんな彼らの有名なエピソードを1つ書きたいと思う。
正式版ソードアートオンラインが始まって半年。アイズ率いる【The Savior】の面々やヒースクリフ率いる血盟騎士団(Knights of blood)の働きによって、30層近くまで進出できていた。
この頃はまだ、ユニークスキルという存在自体出てきておらず、みんなそれぞれの武器・装備で攻略に挑んでいた。
(後に、この時には既にアイズとヒースクリフの2人は、ユニークスキルを手に入れていたことがわかるが、それは後日。)
シュタインは、そんな時に珍しくアイズの方からクエストに行こうと誘われたと語ってくれた。
「シュタイン、もしよかったら、このクエストに一緒に行かないか?」
「珍しいな! お前からクエスト行こうなんて……おい、大丈夫か? 顔色悪いぞ」
「そうかな……別に大丈夫だけど。今日は曇りだから、そう見えるんじゃない?」
「ふーん、それならいいや。そのクエスト行ってみるか!」
「よし! そうと決まれば、さっさと行こう!」
その日、アイズはどこかおかしい気がした。普段自分の考えや気持ちを顔に一切出さないアイズが、一瞬だったが、感情を表に出していた。
でも、それは本当に一瞬のことで俺の見間違いなんだと思った。だからこそクエストに行ったんだが行かなければよかったと思ったのは、後にも先にもその時しかない。
あんな圧倒的なモノを見せられたら誰でもそうなるさ。
以上、その時のことをシュタインさんは私に語ってくれた。いわゆる感想のような物だ。今からその内容を書いて行こうと思う。
SAOには、層攻略だけではなくクエストというのが存在していた。それは何らかの要請、依頼によって発生し、それに成功するとお金がもらえたりアイテムがもらえたりするといったイベントだ。
SAOだけでなく、他のゲームでもよくあるイベントだが、SAOという世界においてクエストというのは、自分を強化するという点で非常に意味があり価値があった。
そのために攻略組と呼ばれるプレイヤー達は、よくクエストに参加しLVを上げ、アイテムを手に入れていたりしていた。
アイズがシュタインを誘ったクエストの内容だが、人に仇なすモンスターの討伐というものであった。こういった形式、内容のクエスト他のゲームなどでもよく見かけるもので、SAOの中でも珍しくなかった。
しかし、そういったクエストで得られるのは重要なアイテム等ではなく安いアイテムであったり、お金であったり、特に参加するまでもないクエストであることが多かった。
今回のクエストも例に漏れず、情報屋によると成功してもらえるアイテムは、回復のポーションと少々のお金といった報酬であった。
「まぁまぁ、たまにはこんなクエストもいいじゃないか」
「でも、効率悪くないか? まだ割のいいクエストぐらいあっただろ」
「……実はこのクエスト、割が良かったりするんだよね。情報屋からの話だから信憑性は高いと思うんだけど」
「まじか、情報屋からの……どういうこと? 説明してくれよ」
「わかった。なんと、このクエストには……」
そうアイズがシュタインを誘ったのは訳があった。このクエストには、特定のモンスターを退治するという目的のためにモンスターとのエンカウント率が上がるというのがあったからだ。
というのも、その指定モンスターが普段ならば出会う確率の低いモンスターであり、そのクエストを受けた場合、その確率が高くなり、そんな仕様のためか他のモンスターとのエンカウントも上がるというバグや設定ミスとしか思えない設定がされていた。
その情報は、情報屋が様々な情報を頼りに調べ上げたものであり、その情報料もそれなりの価格がなされていた。しかし、それもクエストで行かなければいけないダンジョンのみであり、他の層ではエンカウント率は上がらないといったものであったというのも付け加えておく。
つまり、現在の層で最も効率がよくLVがあげられるクエストであったのだ。
木々や草花で囲まれたそのダンジョンは、道なき道を歩くような所だった。森林系のダンジョンでそのようなマップは、よくあるもので似たようなダンジョンにいくつも行ったことがあった。
「はぁはぁ、ちょっと休憩しようぜ」
「うん、結構モンスター倒したから疲れたね」
「どのくらい倒したか数えてたか?」
「俺は、168体。シュタインは134体かな」
「お前、数えてたんだな。30体近く差があんのか……頑張らないとな」
アイズという人物は、記憶力や学習力というのも秀でていた。SAOという世界において効率よくプレイしていく上でこの能力は、非常に役に立っていたと言える。
このダンジョンに入ってから、約5時間経っていた。真上にあったはずの太陽を模したものが、右に傾き始めていた。
LV上げをするために、たくさんの回復ポーションや武器の予備、狩りに必要な消耗品を持ってきていたのだが、それも半分近く減っていた。
しかし、2人のLVは今の層よりも20近くも上のLVであり、効率がいいと言っても1LVも上がっていなかった。
「とりあえず、今日でLVを1upはしておきたいね。というわけで再開しようか……狩りを」
「ああ、そうしよう。それにしてもなんだその言い回し。笑えるわ~」
シュタインがそう言って笑うと、アイズも軽く微笑んだ。こういった軽口が叩けるほど、2人は仲が良かったらしい。
「にしても、ここは一体どこだ?」
「確かに奥に来すぎたようだね。でも、まぁ大丈夫でしょう。来た道を今から引き返せばちょうどいい具合になる」
「それも、そうだな」
2人は、休憩していた場所から引き返すことを決めた。情報屋からマップをオマケとしてもらっていたアイズは、それを見ながらダンジョンの外に向かった。
テレポート用のアイテムもあったのだが、それはいざという時にしか使えないほどの貴重なアイテムであったし、それにLVを上げたいという目的もあったため徒歩で戻るということを決めた。
しかし、これで無事に帰ることが出来たというのなら有名なエピソードになるわけもなく、この帰っていくときに問題が発生したのだ。
「おいおい、嘘だろ!? こりゃ一体どうなってるんだ! そっちはどうだ、アイズ!」
「こっちも似たような感じだね。ざっと4,50体はいるんじゃないかな。ゴホッ、ゴホッ!」
「おい、大丈夫か!? 咳なんかして!」
「なんでもないさ。さぁそんなことより、敵が来るようだ! 弱点はわかってるよね?」
「当たり前だ! 右胸の赤いとこだろ」
「そうそう、それじゃ戦闘開始だ」
アイズとシュタインは、背中合わせで迫りくるモンスター達と戦った。どこを見渡しても木や草花、その間から途切れることなくサルに良く似たモンスターの大群が湧いてくる。
怖かったよ、もちろん。幾度となく大量のモンスターと戦い、そのつど死の恐怖に襲われる。だけどそのたびにふとしたことで、心に安心感と絶対なる希望が生まれる。
そのふとしたことって言うのは、アイズという存在が近くにいると感じられたときに他ならなくて、こいつがいるから絶対に俺は死なないんだって思う。
そしたら、自然と体が軽くなるんだ。動きが嘘みたいに速くなる。剣速っていうのかな、あれがもう信じれないくらいに速くなるんだ。別にスキルも使ってないし、強化アイテムなんていうのもない。自分が自分じゃないように感じられた。
それが俺にとってのアイズという存在。相棒。そんなんじゃない、俺にとってあいつは神様みたいなもんなんだ。そりゃあんた、神様が近くにいたらそりゃ守るだろ。全然信仰心なんてものなくてもさ。
シュタインはアイズに対してこういう風に思っていた。もはやシュタインにとってアイズとは、神様であったらしい。さすがにこれを私に言ってくれたときは、本人も笑っていたが、私はどうだっただろうか。正直笑えていなかったと思う。
というのも私は、シュタインに会うまでに天才であり世紀の犯罪者である茅場晶彦がしでかした前代未聞の事件、それが『SAO事件』。これによりVRもののゲームが廃れると思っていたが、それどころかアイズとはまた違う英雄によって、廃れるどころかさらなる発展へと向かっていった。
『SAO事件』を追っていくにつれ、わかってくるのはゲーム内での壮絶な生活。弱肉強食の世界。常に死が隣にある恐怖。日本人は、かつて震災が起こった時に協力して生きていったが、本当のサバイバルになってしまったらそれさえもおかしくなってしまう。
だからこそ、人々は勇者や英雄に希望を抱く。ここでいう勇者や英雄は、アイズやシュタイン、【黒の剣士】といった人物だけではない。層攻略をした全員がそれに当てはまる。
何人もの命を吸い込み、消し去っていった『ソードアート・オンライン』。生き残れたのは、ただ運が良かったからという理由でしかないだろう。層攻略をするプレイヤーは、強くはあったが命のやりとりは、普通の生きているプレイヤーの何十倍もあったであろう。
それがわかっているから、私は決して笑うことが出来なかった。
剣が次々とモンスターを屠っていく。もはや動かしているのではなく、剣が勝手に動いているようだ。HPという概念がありながらも、全ての攻撃を弱点に当てるために一撃で死んでいった。
それでも、何度も何度も襲い掛かってくる。斬って、突いて、また斬って。その繰り返し。体力の衰えを感じるがそれでもがむしゃらに剣を振るう。HPも半分をきろうとしていた。
「シュタイン、危険だ。この状況でテレポートはきついから、休んでポーションを飲むんだ!」
「そんなことでき「やれ! 命令だ!」……ったく、死ぬなよ!」
シュタインは、戦闘が見える場所で尚且ついざとなったら駈けつけられる場所を探す。そうして見つけ出したのが、でかい岩と地面の間にある小さな隙間だった。
すぐにそこへ行き、ポーションを飲み干す。SAOでのポーションは、一瞬で回復するものでなく時間を掛けて回復していくアイテムであった。
そのときのアイズを、見たときの感想が最初のあれである。縦横無尽に動きながらも、その全ての動作に無駄がない。人間か……こいつはほんとに俺と同じ人間なのか?
そんなふうに思ってもおかしくない。心からそう思う。幾度もなく、アイズの戦闘を見てきたがそのたびに、踊っているのかと見まがうくらい、綺麗な戦い方をする。
そんなふうに見ているなか、気づけばHPは8割ほどに回復していた。見とれていた自分に恥じつつ、アイズの下へ駆け寄った。
「すまない、回復した。これで戦える」
「うん。頼むよ」
それからは、また2人でモンスターを蹂躙していった。終わった頃には2人ともLVが上がり、いつの間にかクエストの本来の対象であったモンスターも倒してしまっていたらしい。
だが、それだけでは終わらなかった。
モンスターが出現した。というものではなく、アイズが急に倒れたのだ。運がよかったのは、倒れたのがダンジョン脱出後のことであり、そこから依頼された町が近かったということである。
シュタインは、倒れたアイズを背負うと依頼完了を報告し、ギルド本部へと戻った。その場所は、アイズの家でもあったからだ。
【four piese】の1人に、医療の知識を持っているプレイヤーがいたため、調べたところ。風邪であった。だがSAOの中で風邪という症状は非常に恐ろしいことであった。
寝てれば治るなんて現実の世界ならばいうだろう。だが、ここは違う。肉体であり本体が病気になっているからこそ、VRの世界にいるアイズも異常が発生したのだ。
下手したら命を落とすかもしれなかった。
しかし、幸いにも一命を取り留め3日後には目を覚ました。話を聞くと、どうやら狩りに出かけるときから、少々きつかったらしく、シュタインの見たアイズの顔というのは間違っていなかったのだ。
それで、話は終わり。
なぜ、これだけの話が皆に知れ渡ったかというとアイズとシュタインのクエストに情報屋がつけていっていたらしい。そして、かなり湾曲し拡張し噂を広めた。
『アイズは、高熱でありながらも森いるモンスターを1000匹倒した。シュタインは、今にも崩れ落ちそうなアイズを庇いながら自身も1000匹を倒す活躍をした」
嘘だろうと皆が思ったが、事実アイズは3日間病に伏せ、シュタインは街に出かけなかった。だから他のギルドメンバーから事実を聞き出すしかなかったのだが、ギルドメンバーもそれがおおまかな事実であると知っているために合っていると応えた。
それに元ネタが、情報屋というとこも噂にさらに拍車をかけた。そういう訳で、この話がアイズとシュタインの関係を表した話として広まったのだった。
最後にシュタインは言った。
『アイズと出会えなかったら俺は間違いなく死んでいただろう。だけど、あいつと出会ったからこそ、命を懸けた戦いに挑むことになってしまった。そう考えると、出会いって面白いよな!」
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