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八条学園怪異譚

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第四話 ターニングポイントその十一


「怖いから」
「それでなの」
「どうするの?本当に」 
 聖花は愛実の目を見て彼女に問うた。
「行くの?水産科に」
「そうしようかしら」
「行くなら一緒に行きましょう」
「二人でなのね」
「そう、二人でね」
 それで行こうというのだ。
「一人では絶対に行けないから」
「私も。それは」
「だからね。そうしましょう」
「うん、それじゃあその時はね」
 二人で頷き合う。とりあえず行くことについては前向きな愛実、そして聖花だった。しかしだった。
 その前にだった。二人で学園全体、商業科のものではなくその図書館に入った。八条学園は巨大な学園なのでそうした総合図書館もあるのだ。
 その広い、明治の西洋風の建築様式の図書館に入りそこで学園の歴史や記録を二人で読み漁った。言うまでもなく水産科の記録を。
 だが、だった。ここで出て来たのは。
「ないわよね」
「そうね。海軍が施設として入っていたのは確かだけれど」
「自殺した人はいないわね」
 愛実はその記録を読みながら首を捻る。大きな机に聖花と向かい合って座っている。
 そのうえでだ。こう言ったのである。
「事故死とかも行方不明もね」
「一切ないわね」
「そうした話は一切ないし」
「ましてや敗戦の時も粛々としてたって」
「幽霊が出る様な話はないわね」
「ええ、全然ね」
 愛実はまた首を捻った。
「水産科だけじゃなくてね」
「他の科でもそうね」
「この学園に入ってたのは海軍さんだったのね」
「そうね。陸軍さんじゃなかったのね」
 その場所によって入った軍も違ったのだ。
「水産科以外の校舎も使ってたけれど」
「そうした話は一切ないし」
「だったら何で出て来るの?」
「どうしてかしら」
 二人で首を捻ることになった。そうして。
 その中で聖花はこう愛実に対して言った。
「けれど。出て来るならね」
「それなりの理由があるわよね」
「そう。だからね」
「用心はしないとね」
 二人で言う。そうしてだった。
 聖花がここでこう愛実に言った。
「あのね。まずは神社に行きましょう」
「神社?」
「そう、神社にね」
 そこに行こうというのだ。
「八条神社でお札とかお守り買って」
「それで幽霊を守るのね」
「あとお寺でお経もね」
 聖花は仏教のものについても言及した。
「それと木刀もね」
「木刀って?」
「あっ、矢の方がいいかしら」 
 聖花は自分で言ったところで己の言葉を訂正した。そうしてそのうえでこう愛実に対して言ったのである。
「破魔矢ね」
「ああ、あれね」
「そう。破魔矢でね」
 それで幽霊を退けるというのだ。
「とにかく念には念を入れてね」
「幽霊が襲い掛かってきてもいいように」
「そう。完全武装していきましょう」
「ええと、お札にお守りに」
 愛実は視線を上にやって考える顔になって聖花が言った幽霊への備えを口に出してそれで頭の中にインプットしていく。 
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