八条学園怪異譚
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第四話 ターニングポイントその十
「出来る筈ないから。というかひいお爺ちゃん達は戦闘民族じゃないから」
「そこまで強いっていうのね」
「そう。確かに日本軍は強かったらしいけれど」
だがそれでもだというのだ。
「そこまではね」
「強くなかったのね」
「人間の強さじゃないから」
日本刀での百人斬りに柔道での百万人殺戮もだ。そこまでいくと流石に人間の能力を凌駕してしまっている。
「無理よ」
「無理なのね」
「そう。とにかく二人ならね」
そこからだ。聖花はまた愛実に話した。
「一人でいるよりずっといいじゃない」
「そうね。聖花ちゃんが一緒なら」
愛実にとってはこのことが何よりも有り難かった。無意識のうちにそう思ったのだ。
「大丈夫よね」
「私もね。一人だとね」
「怖いの?」
「ううん。幽霊の存在は信じていても」
それでもだとだ。聖花はここでこんなことも話した。
「身体がなくなっても。それでも心は残ってるのよ」
「それだけ強い念があるってことよね」
「そういう人って怖いでしょ」
「確かに。言われてみると」
「怖いのはね。幽霊とかじゃなくて」
「心?」
「そう、心だと思うの」
人間のだ。それだというのだ。
「それが怖いのよ。怨念とか憎悪とかね」
「ううん。そういえば私も最近お姉ちゃん達に言われてるけれど」
「どんなこと?」
「妬んだりしたら駄目だって」
嫉妬、その感情についていつも言われているということをだ。愛実は今聖花に話した。
「そうした感情もよね」
「源氏物語でもあったわね」
「それ授業で出てた?」
「教科書でも参考書でも出てなかったわ」
「そうなの」
「源氏物語は物凄く長いお話だから」
その長さはかなりのものだ。源氏物語は五十三帖あり登場人物も多い。大長編小説でもある作品なのだ。
「その六条の后の場面はね」
「うん、私その登場人物はじめて聞いたわ」
ここにも源氏物語の登場人物の多さが出ている。源氏が関係を持った女性だけでもかなりの数に及ぶ。
「それでその八条、じゃなかった六条のお后さんが?」
「相手を嫉妬、憎んで生霊となって出て来るのよ」
「生きてる人でもそうなるのね」
「そう。それでそれは死んでる人も同じよ」
「じゃあ水産科の兵隊さんは」
どうして出て来るのかをだ。愛実はここで考えた。
それからだ。こう聖花に言ったのである。
「何か物凄い恨みとか持って死んだのかしら」
「そうじゃないの?誰かに殺されたとか」
「えっ、殺人!?」
人殺しと聞いて余計にだった。愛実はその顔を青くさせた。そのうえでこう聖花に対して言葉を返したのだった。
「学校の中で!?」
「起こるわよ。それも生徒のことじゃないから」
「軍隊のことだから」
「昔の。今の自衛隊もあるでしょうけれど」
聖花はこの話題については顔を曇らせて述べた。
「いじめってあるからね」
「いじめられて自殺とか?」
「昔の軍でもあったらしいからね。上官の部下へのいじめが」
階級社会故に起こることだ。階級は軍の形成に必要であるがそれを悪用する形でそうしたことをする輩もいるのだ。
「あったみたいだから。それもかなり」
「多かったのね」
「いじめってね」
聖花はこのうえなく苦々しい顔になり言った。
「嫌よね。本当に」
「うん。それは」
いじめられたことがあるだけに余計にだった。愛実もその話題については顔を強張らせてこう返した。
「私も。絶対に」
「それを苦にして死んだ人か」
若しくはだと。聖花はさらに言う。
「敗戦で自害した人か」
「あっ、そういう人も多かったわよね」
「そう。どちらにしてもね」
「そういう恨みとかを飲んで死んだ人かも知れないのね」
「そうした人のところに一人で行くのはね」
どうかとだ。聖花は愛実にあらためて述べた。
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