八条学園怪異譚
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第二話 嫉妬その十四
「何もかも。お勉強だって運動だって顔だって」
「そういうのが?」
「うん。何も勝ってないから」
「その他のは?」
「他のはって」
「そう。愛実ちゃんの方がいいところもあるでしょ」
愛子はわかっていた。そして愛実と聖花を決して比較してはいなかった。二人は同じだと見ているのである。
だからだ。こう愛実に言えたのだ。
「自分と他人をね」
「聖花ちゃんを?」
「比べるのはよくないわよ」
「そうなの?」
「そうよ。人は人でね」
そしてだというのだ。
「自分は自分よ」
「自分は自分」
「お姉ちゃんいつも言ってるわよね」
優しい笑顔でだ。愛子は愛実に話す。
「このことは。さもないとね」
「よくないのよね」
「劣等感はいい方向にいけばいいけれど」
だが、だとだ。愛子は語るのだった。
妹に言いながらちゃぶ台に座る彼女にお茶を出した。一緒に出したのは栗饅頭、商店街の和菓子屋で買ったものだ。
それを出しながらだ。愛子は言うのだった。
「大抵は悪い方向にいくから」
「それでなのね」
「そう。気をつけてね」
こう言うのだった。自分も妹の向かい側に座りながら。
「よくない結果になるから」
「よくない結果っていうけれど」
「具体的にはわからないの?」
「性格が悪くなるって言われたけれど」
「そうよ。なるわよ」
こう言うのだった。
「心が歪んで。心が歪むとね」
「やることもよくなくなるとか?」
「そう。そうなるの」
こう語るのだった。
「意地悪とかいじめとか」
「いじめって。私はそんなことは」
「しないっていうのね」
「そんなこと出来る筈ないじゃない」
それはどうしてかとだ。愛実はいじけた様な顔で少し俯いて姉に対して答えた。
「だって。私は」
「いじめられる方だから?」
「いじめられてきたのに人をいじめられるの?そうなるの?」
「なるわ」
逆もあるとだ。姉ははっきりと答えた。
「いじめられっ子もね。場合によってはいじめっ子になるのよ」
「そうなの?」
「人と人の関係ってね。すぐに変わるわよ」
「そんな筈ないと思うけれど」
「なるわよ。だって」
「だって?」
「人って今日は元気でも明日いきなり死ぬってことがあるじゃない」
人は必ず死ぬ。これはこの世で数少ない絶対のことだった。
「事故とかでね」
「それは私もね」
「わかるわよね」
「うん。交通事故とかで」
「どんな関係も死ねばそれで終わりよ」
愛子はかなり極端な例を出して愛実に話す。
「死んだ人を忘れなくても。生きている人間同士の関係はね」
「それで終わりね。確かに」
「死んでも身体がなくなるだけで」
仏教的な考えもだ。愛子は述べた。
「心は残ってるけれどね」
「それでもよね」
「生きている。身体が残っている人間同士の関係はね」
そうした観点での言葉だった。
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