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八条学園怪異譚

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第一話 湧き出てきたものその十五


「そうしてるから」
「じゃあ今度ね」
「今度って。また何かあるの?」
「私もそのお散歩行っていい?」
 聖花は微笑んで愛実にこの願いを告げた。
「そうしていいかしら」
「聖花ちゃんもって」
「うん。そうしていいかしら」
「別にいいわ」
 構わないとだ。愛実は聖花にややぶしつけに言葉を返した。
「聖花ちゃんが来たいっていうのならね」
「うん。それじゃあね」
「チロ、聖花ちゃんも好きみたいだし」
「人懐っこい子よね」
「それでも変な人が来たらすぐに吠えてくれるのよ」
「あっ、そうなの」
「そう。だから凄く頼りになるのよ」
 こう聖花に話していく。
「ずっと一緒にいたいわ。可愛くて優しくて頼りになるから」
「犬っていいわよね」
「犬は絶対に裏切らないから」
 遠くを見てだ。そのうえでの言葉だった。
「人はそうでなくても」
「私も。そんな」
 愛実の遠くを見ている中に悲しいものを見せている横顔を見てだ。聖花はすぐに言った。
「愛実ちゃん裏切ったりしないよ」
「絶対に?」
「そんなことしたことある?」
 切実な顔になってだ。聖花は自分に顔を向けてきた愛実に問うた。
「ないと思うけれど」
「そうね。確かにね」
「そうよね。なかったわよね」
「じゃあ。信じるから」
 何とかだ。愛実は言った。しかしだ。
 聖花からは顔を逸らしていた。そのうえでの言葉だった。
「聖花ちゃん。信じるから」
「有り難う。じゃあ勉強頑張ってね」
「受かるから、絶対に」
 聖花から顔をやや逸らしながらの言葉だった。そう言ってだ。
 愛実は聖花に言葉を返した。そうしたのである。
 二人は受験、八条高校商業科の受験に向かった。その前の日だ。
 愛実は夕食のじだいにおかずを見てそのうえで両親に問うた。普段より豪勢なおかずを見て。
「トンカツに」
「ああ、ステーキだ」
「輸入肉だけれどね」
 それだとだ。同じテーブルにいる両親が笑顔で答えてきた。
「明日受験だろ、だからな」
「このメニューにしたのよ」
「ステーキにトンカツだから」
 だからだ。言葉はどうなるかというと。
「テキに勝つ、なのね」
「ああ、この場合の敵はテストだ」
「勝ってきてね」
「うん。私勝つよ」
 微笑んでだ。愛実は両親に応えた。そしてその彼女にだ。
 姉の愛子も声をかけてきた。優しい穏やかな顔で。
「頑張ってね、明日」
「有り難う、お姉ちゃん」
「愛実ちゃん一生懸命勉強してたから絶対に受かるわよ」
「だといいけれどね」
「模擬の結果はAだったのよね」
「うん」
 姉には微笑みで応えることができた。大好きな姉には。
「そうなの。けれどね」
「後は自信持ってね。それでね」
「それで?」
「試験に飲まれないようにして」
 こうも言ったのである。妹に対して。
「そうしてね」
「飲まれないようにって」
「だから。テストは実力だけじゃないのよ」
「心もってこと?」
「そう。心もしっかりしないとね」
 さもなければだというのだ。
「充分にできないから」
「あがったり焦ったり。戸惑ったりしたら」
「そう、駄目だからね」
「だから試験に飲まれるなっていうのね」
「そう。気をつけてね」
「だからテキにカツなのね」
 即ちだ。敵に勝つ、というのだ。
「そういうことなのね」
「この場合は自分自身よ」
 愛子は微笑んで妹にこうも話す。 
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