八条学園怪異譚
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第一話 湧き出てきたものその十四
「高校はね」
「それで大学は八条大学の法学部よね」
「そう考えてるけれど」
「八条大学の中で法学部っていったら」
その学部はだ。どうかというのだ。
「医学部と並んでトップよね」
「何かそうみたいね」
「私も八条大学に行きたいけれど」
愛実はその口を波にさせていた。聖花へのどうしようもない劣等感と自分を卑下する気持ちが彼女の口をそうさせてしまっていた。
それでだ。こう言ったのである。
「法学部なんてとても」
「じゃあどの学部にするの?」
「そんなの考えられる筈ないじゃない」
その波にさせた劣等感が出た顔でだ。愛実はまた言った。
「私聖花ちゃん程頭がよくないし」
「だから愛実ちゃんもそんな」
「さっきも言ったじゃない。慰めなんていいから」
聖花にそのつもりがなくともだ。愛実はこう捉えて言い返した。
「私はそんなのいいから」
「私もそんなつもりは」
「ないっていうの?」
「うん。ないから」
こう愛実に返す。やはり戸惑ったまま。
「安心してね。それで気分を悪くしないでね」
「だといいけれど」
またこう言う愛実だった。だが口はそのままだ。
そしてその口でだ。今度はこんなことを言った。
「とにかく。私大学なんてまだ先だから」
「そうなの」
「確かに八条大学には入りたいけれど学部なんて考えられもしないから」
「まずは目の前の高校なのね」
「私、愛実ちゃんと違って頭悪いから」
まただ。愛実は自分を卑下して言った。
「大学なんてまだ」
「はっきりとは?」
「考えられる筈ないじゃない」
こう言うのである。
「そんなのとても」
「けれどね。勉強していったらね」
「大学に行けるっていうの?」
「愛実ちゃんも頭悪くないじゃない」
聖花から見てもだった。しかし聖花は今の自分の言葉が上から目線の言葉に捉えられかねないということは気付いていなかった。
そして気付かないままだ。こう言ったのである。
「だから。今からね」
「いいわね。そう言えるなんて」
すねた感じの顔になってだ。愛実はこう聖花に言い返した。
「余裕があるからそう言えるのよ」
「余裕って」
「私、とにかく聖花ちゃんみたいに頭がよくないから」
またこう言うのだった。
「そんなこと絶対に」
「愛実ちゃん・・・・・・」
「そういうことだから。後ね」
「後って?」
「私にはお店もあるから」
店の話もだ。愛実は言ってきた。
「お姉ちゃん多分お店出るから私が継がないといけないし」
「そうなったの?」
「多分ね。まだはっきりしないけれど」
「じゃあチロちゃんのお散歩とかも?」
「毎日私がやってるわ」
愛実の表情が少しだが穏やかになった。そのうえでの言葉だった。
「朝も夕方もね」
「そうしてるの」
「お店があってお姉ちゃんがいてくれてチロもいてね」
それでだというのだ。
「私ほっとできるから」
「チロちゃんっていい子よね」
「いい子よ、本当にね」
その通りだとだ。愛実はその少しだけ穏やかになった顔で聖花に述べた。
「はじめてお家に来た時から大好きなのよ」
「そうなのね」
「そう。一緒にいられるだけで嬉しいの」
「愛実ちゃん元々犬好きだしね」
「ええ、大好きよ」
次第にだった。愛実の顔が穏やかなものになってきている。その顔で聖花に話す。
「その犬の中でもチロは特別だから」
「朝も夕方もお散歩してるのね」
「そうよ。雨が降ってもね」
それでもそのチロとの散歩をしているというのだ。
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