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八条学園怪異譚

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第十六話 柴犬その九


「結構大変ですよね」
「大変という理由は何だ」
「だって白ですから」
 だから大変だというのだ。
「洗濯とか下着とか大変ですよね」
「そのことか」
 日下部もわかっている顔で返す。
「色のある下着だと透けるというのだな」
「はい、白ですから」
「その通りだ。白だと透ける」
「やっぱりそうですよね。ですから」
「褌は常に白だった」
 何気に日下部の下着の趣味もわかる言葉だった。
「透けるからな」
「夏はですか」
「そうだ」
「やっぱりそうなりますよね」
「海軍の褌は独特の形だったがな」
「褌も違ったんですか」
 愛実はそれを聞いて少しだけその首を捻った。実は愛実はこのことまでは考えていなかったのである。
 それで首を捻ってこう言うのだった。
「ううん、褌って一つじゃないんですね」
「そうだが」
「それがちょっと」
「六尺もあれば越中もある」
 褌の形も言われる。
「そして力士の褌もあるな」
「あれ洗わないんですよね」
「よく知ってるな」
「お話聞いてびっくりしましたから」
 それで知っているというのだ。奇麗好きで常に整理整頓も洗濯を忘れない愛実にとっては信じられないことだったのだ。
 だからこう言うのである。
「不潔ですよね」
「日干しはするがな」
「いえ、ちゃんと洗剤で洗わないと駄目ですよ」
 愛実は自分の考えを真剣な顔で述べる。
「下着は一日身に着けたら」
「絶対に洗うべきか」
「汚れますし衛生的にもよくないですから」
 だからだというのだ。
「そういうのは駄目ですよ。チロだって」
「その柴犬か」
「はい、ちゃんと一月に一回洗ってます」
「多いな、犬の入浴にしては」
「それ位しないと駄目じゃないですか」
 自分の飼い犬に対しても奇麗好きな愛実だった。
「さもないと蚤とかダニとか」
「虫か」
「つきますから」
「愛実ちゃん本当に奇麗好きなんですよ」
 聖花も横から日下部にこのことを話す。
「毎日お掃除もしますし」
「しかも食堂の娘だったな」
「それでお料理も好きですから」
「いい妻になれるな」 
 日下部はここまで聞いて愛実のその本質を褒めた。
「大和撫子になれる」
「いえ、それはもういないですから」
「大和撫子って」
 聖花だけでなく愛実もこの存在はUMAだとした。
「というか昔から日本の女の子って遊んでるんじゃ」
「戦前の一時期だけですよね、そんなおしとやかでそれでいてしっかりした人がいた時代なんて」
「そうかも知れないが素晴らしい存在だった」
 日下部は大和撫子には妙なこだわりを見せた。
「まさに日本の誇りだった」
「言葉も既に過去形ですし」
「今はいないですから」
「寒い時代になったものだ」 
 何かのロボットアニメみたいな言葉も出る。
「全く以てな」
「まあとにかくですね」
「ちょっといいですか?」
 二人はここでこう日下部に切り出した。 
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