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八条学園怪異譚

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第十三話 理科室のマネキンその十三


「博士に聞けば詳しいことがわかるだろう」
「じゃあ明日聞いてみますね」
「あの博士に」
「しかしどうやらその鏡は普通の鏡だな」
「うん、間違いないね」
「本当に普通の鏡だよ」
 模型達も鏡に触れてみた。だが、だった。
 彼等が触れても鏡の中に入ることは出来ない、それで言うのだった。
「何でもないよ」
「確かにいい鏡だけれどね」
「泉ではないね」
「普通の鏡だね」
「そうだな。だがこれで一つわかった」
 日下部は彼も鏡に触れてみてから言う。姿は映らないがそれでも触れることはできた。
 しかしやはり鏡には映らない、それで言うのだった。
「普通科の校舎には他に怪しい場所はないからな」
「うん、この鏡だけだよ」
「これだけだよ」
 模型達もそのことは言う。
「だからね。これが泉じゃないとね」
「普通科には泉はないね」
「そうだな。では今日はこれで終わりだ」
 確かな声で言う日下部だった。
「では帰ろうか」
「何かわかったことってあまり」
「そうよね」
 愛実と聖花はお互いを見合って話をした。
「大したことがないっていうか」
「普通科には泉がないってだけでね」
「特にこれといって」
「ないけれど」
「そういうものだ。事実は少しずつわかるものだ」 
 日下部はこう二人に話す。
「だから特に項垂れることもない」
「ですか。それじゃあですね」
「また今度ですね」
「そうだ、では今日はどうする」
「そうですね。じゃあ今日は」
「これで、ってことで」 
 二人はここでも貌を見合わせて話した。
「お家に帰ってね」
「それでまた今度ってことで」
「遊んでいかないの?」
 人体模型が二人に問うてきた。
「そうしないの?」
「僕達と一緒にダンスとかしないの」
「ブレイクダンスとかできないから」
「私も」
 愛実も聖花もダンスは得意ではない。特に愛実はそうしたダンスが大の苦手なのだ、それでこう二人に言うのだった。
「だからね」
「申し出は有り難いけれど」
「見るだけでも?」
「それもしないのかな」
「見るのは」
「どうしたものかしら」
 二人はまた貌を見合わせた。
「踊ることはできないけれどね」
「見ることはできるし」
「それなら?」
「見させてもらう?」
「見るのなら構わないと思うが」9
 日下部も言う。
「それはどうだろうか」
「そうですね。それじゃあ」
「今日は」
 二人は日下部の言葉を受けた、そしてあらためて模型達に貌を向けて言う。
「お願い、それじゃあね」
「ブレイクダンス見せてね」
「実は日舞とかもできるけれどね」
「最近これに凝っててね」
「いや、アメリカのダンスもいいよね」
「プレスリーやマイケルもよかったけれど」
 模型達はアメリカ文化が好きだった。それで言うのだった。
「これもいいよね」
「そうそう」
「何か妖怪さん達も人間臭いっていうか」
「そうよね」
 聖花は愛実のその言葉に頷いた。
「趣味にやたらと凝って」
「おまけに流行に敏感でね」
 こうしたところが人間臭いというのだ。彼等は愛実達が思っている以上に人間臭かった。それもかなりである。
 それでこうも言う聖花だった。
「余計に親しみが出るっていうか」
「そうなったわよね」
 こうした話をするのだった。そして。
 二人はこの日は模型達のブレイクダンスを見た。そのダンスは本場のダンサー達と比べても全く遜色のないもので見応えのあるものだった。


第十三話   完


                         2012・10・23 
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