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八条学園怪異譚

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第十三話 理科室のマネキンその八


「迂闊ではあったがな」
「というか怪談の定番ですが」
「それを見てですか」
「その先生があれこれ言ったことに尾鰭がついてそうした話になった」
「じゃあ本当のところはですか」
「そうしたことは一切なくて」
「ただ夜にダンスをするだけだ」
 本当にそれだけだというのだ。
「安心していい」
「じゃあこれからその人達と」
「お会いするんですね」
「特に何もない」
 ただ模型が動いて踊るだけだというのだ。
「あの模型達も生まれて長い。意識を持って当然だしな」
「あっ、ものも意識を持つんでしたね」
 聖花も日下部に言われてこのことを思い出した。
「だから」
「その通りだ。ものも長い間あれば心を持つ」
 つまり魂が宿るというのだ。
「つくも神という」
「つくも神って妖怪になるんですか?」
「神とはいうがな」
 三人はその普通科の校舎に入った。日下部はその暗い校舎の中に入ってからそのうえで聖花に対して答えた。
「妖怪と言っていい」
「そうですか。妖怪ですか」
「そうだ、妖怪になる」
 こう言うのだった。
「西洋で言うと妖精だが」
「やっぱり妖怪と妖精って同じものなんですね」
「基本的にな。だから怖がることもない」
 少なくとも日下部はこう考えている。
「この学園の妖怪達は特にな」
「ですよね。結界のお陰で悪い妖怪は入って来ないですから」
「そのお陰で」
「だから模型達も悪い者達ではない」
「悪い魂が宿らない」
「そういうことですね」
「そうなる。こっちだ」
 日下部は前を指し示した。そこにだった。
 理科室があった。その前に彼等がもういた。
 廊下でブレイクダンスを巧みに踊っている。聖花はそれを見てまずはこう言った。
「上手よね」
「うん、駅前で踊ってる人よりも確かにね」
 愛実もこう返す。
「上手よね」
「というか音楽かかってないわよ」
「それでもあそこまで泳げるなんて」
「かなり器用っていうか」
「センスあるんじゃ」
「あれは準備体操だな」
 またここで言う日下部だった。
「彼等は本格的なダンスの前にああして軽く踊って準備体操をするのだ」
「そうなんですか、ああして」
「まずはなんですね」
「模型だから怪我をすることはないがな」
 準備体操は身体をほぐし温める為にある。生きている身体から必要でありそうでないならばどうかというのだ。
「それでもああしないと調子が出ないらしい」
「調子ってあるんですか、模型でも」
「それでも」
「そうらしい」 
 日下部は今は即答しなかった。
「それに演奏は後で来る」
「後でって」
「それって」
「あっ、日下部さんじゃない」
 ここで準備体操である演奏なしのダンスが終わった。背中を床に置いてくるくると動いたり足を前後に大きく開いて地に着いたりしたがそれを終わらせてだった。
 まずは人体標本の方が言ってきた。右半分は生身の人間のものだが左側は肉や皮膚がなく赤い中身が丸見えだ。
 その何処にでもある人体標本がこう言ってきたのだ。
「暫くぶり。どうしたの?」
「普通の娘達も一緒じゃない」
 今度は骸骨が言ってきた。どちらもコミカルな感じの喋り方だ。 
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