八条学園怪異譚
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第十一話 池の怪その五
「こういうのも怖いけれど」
「濡れ女と磯女は双璧よね」
「海坊主もあるわね」
誰もが知っている日本の海の妖怪の定番だ。
「あと船幽霊も」
「海の妖怪の方が怖いかしら」
川の妖怪と比べてだ。
「何かね」
「そうね。海は怖いっていうけれど」
聖花も愛実のその言葉に頷く。
「海の妖怪の方がね」
「確かに怖いわね」
こうした話をしながら図鑑を読んで調べた。そのうえで二人は早速その日の夜に学園の池に向かった。この日も日下部が同行している。
彼は二人と共に池のほとりに向かいながらこう言った。
「私は海軍にいた」
「それで海上自衛隊にもおられましたよね」
「言うなら海の専門家ですよね」
「だから海の話はよく聞いている」
そうしたオカルト関連もだというのだ。
「実際海軍には幽霊の話が多い」
「具体的にはどんなお話ですか?」
「海軍の幽霊の話っていいますと」
「私がそこに行ったのは戦後からだが」
この前置きからの話だった。
「江田島にはそうした話が多い」
「江田島って確かカレーの」
愛実は江田島をそこから連想した。
「海軍カレーの」
「そこからか」
「だって食堂の娘ですから」
愛実はだからだと日下部に返した。
「最近カレーも勉強してまして」
「洋食のカレーか」
「はい、カレーも食堂の人気メニューでして」
インド本来のカレーとはまた違う。日本のカレーはイギリスから入りアレンジされた言うなら洋食という日本料理のメニューの一つなのだ。
「トンカツと同じだけ」
「勉強したのか」
「それで海軍のカレーも」
「確かにそうだが江田島はカレーではない」
そこは断るのだった。
「カレーはどちらかというと横須賀ですか」
「横須賀ですか」
「あの場所なんですね」
「実際に横須賀はそう宣伝している」
海軍の町でありそれでカレーも海軍のものなのでそれで宣伝しているのだ。尚横須賀ではコーヒーもそう宣伝している。
「そして肉じゃがもだ」
「それも横須賀ですか?」
「肉じゃがも」
「肉じゃがは舞鶴だ」
尚呉もそう主張してはいる。
「東郷平八郎元帥が舞鶴におられたからだ」
「そういえば東郷さんって肉じゃがでしたね」
「あそこにおられたんですね」
「だから舞鶴は肉じゃがだ」
日下部は二人にこのことを話す。
「しかし江田島はそういたものは特にない」
「カレーや肉じゃがの様なものもですか」
「ないんですか」
「あそこまでのものはない」
実際にそうだというのだ。
「それにあの場所はだ」
「江田島は?」
「どうなんですか?」
「思い出の場所ではあるが二度は行きたい場所ではない」
「って一体」
「何か刑務所みたいですね」
「本当に刑務所の様な場所だ」
これは兵学校の頃から言われている。島の中にあるのでアルカトラズ刑務所みたいだと冗談混じりに言う声もある。
「訓練も規律も尋常ではなく厳しい」
「海軍だからですね」
聖花はそうしたことが厳しい理由はすぐにわかった。
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