八条学園怪異譚
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第十話 大学の博士その十二
「ないんじゃないの?」
「そうよね。どうやってここに来たのかわからないって」
「記憶喪失でもない限り有り得ないけれど」
「妖怪ってそういうものですよ」
今二人に言ってきたのはろく子だった。今も首を伸ばして頭が二人の前にあるが二人もいい加減慣れてきている。
「気付いたらいるものなんですよ」
「そうなんですか?気付いたらいるんですか」
「その場所に」
「そうです。気付いたらです」
また言うろく子だった。
「その辺りはイギリスとかの妖精と同じですかね」
「そういえば日本の妖怪と西洋の妖精って」
愛実はろく子の言葉からこのことを思い出した。
「同じ様なもので」
「風の又三郎っていますけれど」
宮沢賢治が自身の童話に書いた不思議な少年だ。妖精めいた存在であろうか。
「あれとピーターパンってどうですか?」
「あっ、何かそういえば」
「そうよね」
愛実も聖花も言われて気付いた。
「似てるわよね」
「何処かね」
「似てるんですよ。風の又三郎は風の三郎という妖怪か何かがモデルになってそこから生まれたらしいですけれど」
そうした話にもなっているのだ。
「まあこの学園には来ていませんから」
「というか風の又三郎もいるんですか」
「この世界に」
「そうですよ。多分イギリスにもピーターパンがいますから」
こちらもいるというのだ。
「妖怪とか妖精って人がイメージしてもそこから生まれるものですよ」
「妖怪は色々な経緯で生まれていくのじゃよ」
博士もそのことを言う。
「そしてその行き来もじゃ」
「気付いたら、ですか」
「いたりするんですか」
「左様。そこが人間とは違う」
博士は人間と妖怪、妖精の違いも言う。
「だから中から出て来てもじゃ」
「妖怪さん達は自分ではわからないんですね」
「どうして出入りしたかは」
二人は何となくだが博士の言葉に頷きかけてきた。
そのうえで今度は彼のことを思い出して言った。
「そういえば日下部さんもよね」
「そうよね」
彼のことも話すことになった。
「気付いたらこっちにいたみたいで」
「死んでからね」
「一応思い出のこの学園に来たいって念じられたみたいだけれど」
「一瞬で来たみたいね」
「あっ、日下部さんね」
「あの人だね」
妖怪達も彼の名前を聞いて言ってきた。
「あの人はここに来てまだ新しいけれどね」
「三年前だからね」
「身体がなくなってすぐにこっちに来たよ」
「一瞬でね」
「幽霊って移動一瞬でできるから」
「来ようって思えば」
「こんな話があります」
またここでろく子が二人に話す。
「大阪のあるお寺に幽霊の足跡がありますが」
「幽霊は足を出したり消したりできるのじゃ」
博士は二人に幽霊は足がないという定説が実際はそうとも言ないことを話した。丸山応挙以前は幽霊には常に足があった。
「実はな」
「そうだったんですか」
「幽霊の足って」
「それでなんですが」
ろく子が再び言う。
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