八条学園怪異譚
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第八話 屋上の騒ぎその七
「漂流した人が鬼と思われたんですか」
「妖怪って」
「そういうことだ。他には蝦夷、アイヌ系だったのではないかという説もある」
こうした説も実際にある。
「鬼といっても様々なのだ」
「前にお話してくれた様にですね」
「妖怪もいい妖怪と悪い妖怪がいるんでしたね」
「だから鬼もですか」
「いい鬼と悪い鬼がいるんですか」
「その通りだ。この連中は特にいい連中だ」
日下部は今度は二人を手で指し示して話す。
「安心していい」
「そうですか。それじゃあ」
「宜しくね」
二人は赤鬼にぺこりと頭を下げた。鬼は右手を挙げて鷹揚に応える。見ればその指はちゃんと五本あった。
日下部はその五本の指についても話す。
「人の指は五本あるな」
「はい、それもですか?」
「何かあるんですか?」
「前以て言っておくが障害を差別するつもりはない」
障害者の人はだというのだ。
「しかし五本あるな」
「その五本にもですか」
「何かあるんですか」
「人は三つの悪を二つの善で抑えていると言われている」
古くから言われていることだった。これは仏教の考えから出ているものだ。
「しかし鬼の指は普通は三本だ」
「あっ、三つの悪しかない」
「そうなんですか」
「それは悪い鬼だ」
「じゃあ指が五本ある鬼はですね」
「いい鬼なんですね」
「そうだ。いい鬼かそうでないかはそこでわかる」
指の数でだというのだ。
「よく見ればいい」
「ううん、そうなんですか」
「指次第ですか」
「僕もだよ」
指のことがわかった二人のところに今度は一つ目小僧が来た。そのうえで二人に自分の手の平を見せて話した。
「ほら、五本あるよね」
「ってことはいい妖怪なのね」
「一つ目小僧さんも」
「妖怪もそうなんだ。指が五本ある妖怪はいい妖怪なんだよ」
こうにこりと笑って二人に話すのだった。
「そういうことなんだ」
「妖怪ってそうなの」
「指の数でわかるのね」
「それを見れば」
「わかるの」
「おもしろいよね」
一つ目小僧はにこにことして二人に話す。顔の一番目立つところにある目も笑っているのがはっきり見える。
「そういうのって」
「そうよね。指の数でわかるって」
「何か」
「逆に言えば気をつけてね」
こうも言う一つ目小僧だった。
「若しもだよ。学校の中で三本指の妖怪に会ったら」
「気をつけないといけないのね」
「悪い妖怪だから」
「そう。その場合はね」
「四本指でもだぞ」
青鬼が飲んでいるその席から二人に顔を向けて言ってくる。絵の具を塗った様に見事な青で髪の毛と体毛は黒で大体赤鬼の色違いに見える。
その青鬼がこう二人に言ってきたのだ。
「悪い妖怪だからな」
「四本指でもなの」
「悪い妖怪なの」
「茨城童子だ」
青鬼は自分達の指を見た愛実と聖花に述べた。
「あの鬼は四本指だったのだ」
「茨城童子って確か」
聖花はその名前を聞いてすぐに言った。その羅生門に出ていた女に化ける鬼である。源頼光四天王の一人渡辺綱と因縁がある。
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