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八条学園怪異譚

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第八話 屋上の騒ぎその五


「あの妖怪って悪いんですか?」
「悪い妖怪なんですか?」
「悪気はないのだ」
 そうした意味で悪い妖怪ではないというのだ。その子泣き爺は。
「しかしそれでもだ」
「子泣き爺に何かあるんですか?」
「悪気がなくても」
「抱く」
 日下部は子供、それも赤子を抱く仕草をしてみせた。そうした意味で抱くというのだ。
「すると石の様に重くなり相当な力がないと押し潰されてしまう」
「ああ、それで死んじゃうんですね」
「向こうに悪気がなくても」
「相当な。力士並の力がなくてはな」
 それこそ尋常ではない力がなければだというのだ。
「押し潰されてしまうのだ」
「それってかなりやばいですよ」
「危ないじゃないですか」
「だから抱くな」
 子泣き爺は決してだというのだ。
「そうしたことはするな」
「そうですか。それはなんですね」
「気をつけないといけないんですね」
「他の妖怪達もいる」
 学園にいる妖怪達は他にもいるというのだ。子泣き爺だけではないというのだ。
「一反木綿や塗り壁、から傘や砂かけ婆とな」
「何かよく聞く妖怪ですね、どれも」
「どの妖怪も聞いたことありますよ」
「キジムナー達もその中にいる」
 そうだというのだ。
「妖怪達も学園の中にかなり多いのだ」
「そうなんですか。幽霊の人達も多くて」
「妖怪の人達も大勢いるんですね」
「それで十二時に工業科の屋上で、ですか」
「妖怪の人達が」
「宴会を開いているのだ」
 日下部は二人にあらためてこのことを話した。
「そうなのだ」
「そうなんですか。じゃあ今から行けば」
「その妖怪さん達に会えるんですね」
「私も何度か行った」
 その工業科の屋上で行なわれている宴会にだというのだ。
「面白い。そして気のいい連中だ」
「そしてその人達のところにですね」
「今から」
「行くのだな」
 日下部は二人に問うた。
「そうするか」
「はい、お願いします」
「やっぱり興味があります」
 二人は日下部にすぐに答えた。
「どうした人達がいるのか」
「お会いしたいです」
「わかった。では行こう」 
 日下部は二人の言葉に快諾で答えた。首を縦に振った。
 それからその屋上に案内する。するとそこには。
 人魂、青白く光り長い尾を持つそれが何体も空に漂いそして屋上の中央に車座になって多くの妖怪達が集まっていた。その妖怪達はというと。
 愛実も聖花も知っている妖怪達だった。それはというと。
「あっ、その子泣き爺がいるわ」
「砂かけ婆もね」
 見れば杯を手に胡坐をかいて座って笑顔で話している。
「それに一反木綿が空を飛んでいて」
「塗り壁もいるわね」
「から傘に一つ目小僧」
「猫又もいるわね」
 尻尾が二本の猫もいた。
「私達の知ってる妖怪多いわね」
「というかそうした妖怪ばっかりだし」
「キジムナーの人達もいるわよ」
「一緒に飲んで食べてるわね」
 二人がキジムナーのことを話すとそれと同時に当人達が二人に気付いてその小さな手を挙げて言ってきた。
「あっ、暫く振り」
「来たんだ」
 こうした陽気な返事だった。
「ここの噂聞いたんだね」
「それで来たんだね」
「うん、そうだけれど」
「貴方達もいるのね」
「そうだよ。こうして皆と親睦を深めているんだ」
「こうしてね」
 そうしていると笑顔で応えるキジムナー達だった。毛むくじゃらの顔でそこから目鼻と口だけが見えているので表情はよくわからない。
 だが目が笑っている。そこから表情がわかるのだ。 
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