八条学園怪異譚
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第七話 魚の目その十三
「あの強いお酒よね」
「あっ、知ってるんだ」
「泡盛のこと知ってるんだ」
「うちのお店は扱っていないけれど」
食堂でもお酒は出て来るが日本酒やビールだ。沖縄以外の場所で泡盛が出て来ることはあまりないと言っていい。
「それでも近所の酒屋さんにはあるから」
「それで飲んだことある?」
「泡盛あるかな」
「あのお酒は」
「結構好きよ」
しかも飲んだこともあった。
「美味しいわよね」
「そうなんだ。それじゃあね」
「早速ね」
「気持ちは有り難いけれど」
それでもだとだ。愛実は残念な顔になってキジムナー達に返した。
「これからお家に帰らないと駄目だから」
「それでなんだ」
「遊べないんだ」
「うん、悪いけれど」
こう彼等に答える。
「今日はね」
「そうなんだ。残念だね」
「遊べないんだ」
「お家に帰って御飯食べて犬の散歩に行って」
チロのことだ。
「お風呂も入らないといけないですし」
「私もちょっと」
聖花も彼女の事情をキジムナー達に話す。
「やっぱりお風呂に入って」
「それだなんだね」
「君の事情があるんだね」
「そうなの。お勉強もしないといけないし。それに」
さらにあった。聖花が早く帰らなくてはならない事情は。
「朝早いし」
「パン屋さんだからね」
「そうなのよ。パン屋さんとお豆腐屋さんは朝が早いから」
言ってきた愛実にも応える。
「だからどうしてもね」
「夜は早いうちに寝ないとね」
「明日の予習と復習もあるし」
優等生らしく勉強も忘れない聖花だった。
「だからね」
「そうよね。私も予習しないといけないし」
愛実も愛実で勉強を忘れない。それなりの成績の理由はこうした努力の介あってのことなのである。何もしなくてどうにかならない。
「だから」
「もうね」
「ふむ。学生の本分は学問だ」
ここで日下部も言う。
「それを忘れていてはだ」
「そうですよね。何にもならないですから」
「本末転倒ですから」
根が真面目な二人は日下部に対してもこう言う。実際に真面目な顔になり。
「だからもう帰ります」
「やることありますから」
「そうだな。そうあるべきだ」
日下部は二人のその考えをよしとした。そのうえでキジムナー達に顔を向けて彼等に対してはこう言ったのだった。
「では今日のところはな」
「うん、わかったよ」
「それじゃあね」
キジムナー達もこう返す。
「また機会があればね」
「その時にってことでね」
「そうしよう。ではだ」
日下部はあらためて友人達に言う。
「私が同席していいか」
「いいよ。けれど日下部さん食べれないけれど」
「しかも飲めないけれど」
実体がない。その必要がないがそれと共に物理的にも無理なのだ。
「それでもいいかな」
「僕達が飲み食いするの見て何とも思わない?」
「食欲がないからそうならない」
日下部は幽霊として言った。
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