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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第七十話 ネリー=リバイラル

             第七十話 ネリー=リバイラル
勇はこの時深い闇の中にいた。目が覚めているのか眠っているのかすらもわからない。ただ深い闇の中にその身を置いていた。
不意に誰かの声が聞こえてきた。それは彼に向けられていた。
「勇」
彼の名を呼んでいた。
「勇」
その声は聞いたことがあった。彼がよく知っている声であった。
「姉・・・・・・さん・・・・・・?」
勇はその声に問うた。すると穏やかな返事が返ってきた。
「そうよ」
あの好戦的な声ではなかった。優しく、包み込む様な声だった。
「そんなところで寝ていたら風邪をひくわよ。お茶を入れたらいらっしゃい」
「うん」
彼は頷いた。だがやはり彼は闇の中にいた。
「早くいらっしゃい」
「わかったよ」
気がつくと彼は家の中にいた。かって家族で暮らしていた家の茶の間であった。欧風の部屋であった。
そこには皆いた。父も母も。そして彼に顔を向けていた。
「皆いるんだ」
「何を言っているんだ」
それを聞いて父研作は不思議そうな顔をした。
「それに驚いたような顔をして」
「ちょっとね」
勇はこう答えて誤魔化した。
「今まで寝ていたから」
「そうだったのか」
「風邪には気をつけてね」
今度は母翠が声をかけてきた。
「寒くなってきたから」
「うん」
「それじゃあこれを飲んで温まりなさい」
また姉が声をかけてきた。
「風邪をひかないようにね」
「うん」
そして彼は姉からそのお茶を受け取る。それを口にした。その時であった。
「つっ」
不意に目が覚めた。見れば周りは雪原であった。他には何も見えない。だがここで雪を踏む足音が聞こえてきた。
「!?」
「気がつきました?」
「君は」
後ろを振り向く。そこにはら一人の少女がいた。
黒い髪と目を持つ少女である。彼女は勇を優しげな顔で見詰めていた。
「ネリー」
彼女は名乗った。
「御覧の通り女です」
「そりゃそうでしょうけれど」
勇はその言葉に戸惑いながら応える。
「ここは一体」
「アラスカの辺境です」
彼女は答えた。
「アラスカ、そうだ」
勇はそれを聞いてハッとした。
「俺はここに偵察に来て。それで吹雪の中迷って」
「そして私が見つけました。もう少し遅ければ」
「危なかったのか」
「はい。けれどもう大丈夫です。ブレンも」
「俺のブレンは。何処なんだ」
「今私のブレンが側にいます。怪我をしていますが大丈夫です」
「!?君もブレンを」
「はい」
ネリーと名乗った少女はにこりと笑って頷いた。
「ふふ」
「!?何で笑うんだ?」
勇はネリーが笑ったのを見て首を傾げさせた。
「貴方ばかり話しているから」
「おっと」
勇はそれを言われてようやく気付いた。
「御免」
「いえ、いいけれど。私も楽しいし」
「楽しい。俺の言葉が」
「ええ。だって人とお話するのは久し振りだから。それでね」
「そうだったのか」
勇はそれを聞いて少し心が温かくなった。
「小屋へ入りましょう」
今度はネリーが声をかけてきた。
「もうすぐしたら吹雪が来るから」
「吹雪が」
「ええ。あそこに」
指差した。そこには小さな木の小屋があった。とても小さな小屋であった。
「そこに住んでいるんだね」
「はい」
彼女はまた答えた。
「一人で」
「そうよ。けれど気にすることはないわ」
彼女は言った。
「遠慮することはないから」
「有り難う」
「今は休むといいわ。貴方も貴方のブレンも疲れているから」
「俺のブレンも」
「ええ。だから今は休んで。そしてまた」
「うん」
勇はネリーに導かれ小屋の中に入っていく。ネリーはここで小屋の側に立っている二機のブレンのうちの黄金色の機体に声をかけた。
「お友達をお願いね」
「・・・・・・・・・」
そのブレンは答えなかった。ただ思わせぶりに光るだけであった。だがそれで充分であった。ネリーにはブレンが何を
言ったのかわかったからだ。二人は小屋に入った。
その頃タダナオとオザワはヒメと共にアラスカの上空を飛んでいた。そして勇を探していた。
「こりゃまずいな」
まずはオザワが言った。
「吹雪が出て来たぜ。どうするよ」
「これ位の吹雪ならどうってことはないだろう」
だがタダナオはそれを問題とはしなかった。
「レーダーもあるしな。それに俺のマシンも御前のマシンも全天候での戦闘が可能な筈だぜ」
「それはそうだけれどな」
「勇のユウ=ブレンもそうだったんだがな。どうしちまったんだ」
「きっと道に迷ったんだよ」
ヒメがここで言った。
「道に」
「うん、勇は子供だから」
ヒメは言う。
「だから道に迷ったんだよ。きっと今は親切な人のお世話になってるよ」
「だったらいいけれどな」
タダナオはそれを聞いて笑いながら言葉を返した。
「勇が無事ならそれにこしたことはないしな」
「そうだな。何処にいるやら」
「レーダーにブレンの反応はないか?」
「今のところはないな」
オザワはレーダーを見ながら返す。
「地上にも空中にも」
「レーダーの範囲を拡げるか」
「そうだな。最大にしてみるぞ」
「ああ」
やがてレーダーの範囲はアラスカ全体になった。するとヒメのものの他に二機程反応があった。
「おっ」
タダナオとオザワはそれを見て同時に声をあげた。
「見つかったぞ」
「うん、ここだね」
ヒメにもそれが何処かわかった。彼女のブレンもレーダーの範囲を拡げていたからだ。
「すぐに行こう」
「ああ、どうやら無事みたいだったな」
「うん」
こうして三人はレーダーの反応があった場所に向かった。するとそこには一軒の小屋があった。ネリーのあの小屋である。
「ここだ」
タダナオは吹雪の中下にかろうじて見える小屋を指差した。
「行くか」
「ああ」
三人は降り立った。そして吹雪の中苦労して進みながら小屋の扉を叩いた。
「はい」
すぐにネリーが出て来た。見れば中に勇もいた。
「勇、無事だったんだね」
「ヒメ」
勇はヒメの姿を認めて声をあげた。
「よかった、心配したんだよ」
「済まない、遭難してしまって」
「何だ、ヒメの言った通りだったな」
タダナオはそれを聞いて思わず笑ってしまった。
「言った通りって何だよ」
「いや、実はヒメはあんたが道に迷ったんじゃないかって言ってたんだ」
彼は笑ったまま勇にそう説明する。
「そしてそれが本当だったからな。ついおかしくてな」
「そんなにおかしいかな」
「ちょっとな。まあ無事で何よりだ」
「すぐにロンド=ベルに戻るか」
「待って下さい」
オザワがこう言ったところでネリーが声をかけてきた。
「今は止めて下さい」
「またどうして」
「外は吹雪ですし。それに彼もあのブレンも怪我をしていますから」
「怪我を」
「はい、ですから今は休ませて下さい」
「休むといってもな」
だがオザワはそれを聞いて困った顔をした。
「こちらの事情もあるし。どうする?」
「ユウ=ブレンはダメージを受けているんだな」
「はい」
ネリーはタダナオの問いに頷いた。
「少しですが」
「それじゃあどのみちこの吹雪の中じゃ無理だ。無理はしない方がいい」
タダナオはそれを聞いてこう述べた。
「今日はいい。一応連絡は入れておくがな」
「はい、それがいいと思います」
ネリーはそれを聞いて頷いた。
「今はここで休んで下さい。そして英気を養われるといいです」
「了解。それじゃあマシンに戻るか」
「いえ、小屋の中の方がいいかと。外は吹雪ですし」
「いや、しかし」
オザワはそれを聞いて躊躇いを禁じ得なかった。流石に女性がいる部屋で同室というのは抵抗があったからだ。
「私は構いませんから。寝袋もありますし」
「そうですか」
「そういうことなら」
「はい、どうぞ一泊していって下さい」
「わかりました」
こうしてタダナオ達はネリーの小屋に一泊することとなった。彼等はその間に本隊に勇の無事と居場所を伝えた。そして
この日は休んだのであった。
翌朝目が覚めると小屋の中にネリーはいなかった。勇達はそれに気付くとすぐに小屋の外に出た。
すると外に彼女がいた。ブレンに乗って凍てついた湖の上を滑っていたのであった。
「あれはネリーの・・・・・・」
勇はそれを見て呟いた。
「あのブレン、ああしたことが好きなんだ」
「何か不思議な光景だな」
タダナオがそれを見て言う。
「幻想的と言うか何と言うか」
「御前の口からそんな言葉が出るとはな」
「何言ってるんだ、俺はこうしたことは好きなんだぜ」
嫌味を言うオザワを軽くあしらって述べた。
「フィギュアとかもな。綺麗なのは好きなんだ」
「そうだったの」
「ヒメちゃんもやてみるといいぜ。あれはいいものだ」
「ふうん」
「あら」
ここでネリーが勇達に気付いた。
「起きてたの」
そして彼等の側にまで滑ってやって来た。ブレンから出て来て声をかける。
「やってみない?楽しいわよ」
「いや、俺はいいよ」
だが勇はそれを断った。
「俺がやったら。あいつが嫌がるから」
「そうなの」
「それに・・・・・・今ネリーが滑っているのを見ていたら何か穏やかな気持ちになってきた。それはあいつも同じだろうな」
「あの子も」
ネリーはユウ=ブレンに顔を向けた。
「そうなの」
「何か見ているだけでも楽しそうだからね。それだけで満足していると思うよ」
「だったらいいけれど」
ネリーは言葉を続けた。
「この子は遊びたがっていたから」
「遊びたがっていた」
「そうよ。だから私も滑ったのよ」
「そうなのか」
「ええ。私も嬉しいわ。この子が喜んでくれたから」
(遊び・・・・・・。喜び・・・・・・)
勇はここであることに気付いた。
(もしかしたらアンチボディが生まれてきた理由もそれなのかも知れない)
ふとそう思いはじめた。勇の考える顔にネリーは気付いた。
「ねえ」
そしてまた声をかけてきた。
「何?」
「いえ、何か考えているみたいだったから」
「ちょっとね」
勇はネリーに顔を戻して応えた。
「君が似ていると思ったから」
「似ている?誰にかしら」
「この娘に」
彼はこう言ってヒメを指差した。
「私に!?」
「ああ。何かブレンと話をしているみたいなところがそっくりだな、って思ってね」
「だって実際に話をしているから」
ネリーは答えた。
「そうなのか」
勇はまた考える顔になった。
「性格は全然違うけれど」
「当然だよ」
ヒメはそれを聞いて言った。
「全然違う人間なんだから」
「そうだけれど。雰囲気とかも似ているから」
「そうかもね」
ネリーは勇の言葉に頷いた。
「ブレンの心がわかるというのなら同じだから。けれどそれは貴方だって同じよ」
「俺も!?」
「ええ」
ネリーはにこりと笑って頷いた。
「貴方もブレンの心がわかる筈よ」
「まさか」
しかし勇はそれを否定した。
「俺はひねくれ者だから」
「それはないわ。だってあの子は貴方を守ってくれたから」
「俺を」
自分のブレンを見ながら言う。
「そうよ、あの子は貴方を守った。話ができないなんてないわ」
「そうかな」
そうよ。もっとはっきり言うとあの子の声が聞こえるようになってきた」
「声が」
「以前の貴方はもっと性格が違っていたんじゃないかしら」
「それは」
思い当たるところがないわけではなかった。
「そうかも知れない」
「勇は昔子供だったから」
ヒメが言った。
「強情だったんだから」
「それなのかも」
ネリーもそこに言及した。
「だから。あの子の声が聞こえなかったのよ。耳を塞いでいたから」
「耳を」
「けれどそれも変わったにょ。あの子と向き合うようになって」
「そうだったのか」
「ヒメさんでしたね」
「うん」
ネリーは今度はヒメに声を向けてきた。そしてヒメはそれに応えた。
「貴女は彼の大切な人なのね」
「大切な」
「いや、それは違うよ」
だが勇はそれも否定した。
「俺には・・・・・・。大切な人なんて」
「そう思い込もうとしているだけよ」
しかしネリーはそれも否定した。
「人は誰だって大切な人を持っているから」
そして言う。
「だから生きていけるのよ」
「そうかな」
「一人で生きていくのは辛いし、怖いわ」
彼女は語る。
「ブレンパワードみたいなオーガニック=マシンと言われる存在だってそうなのだから」
「そうなのかな」
「そうよ。だからこの子達は私達みたいな人を水先案内人として選ぶのよ」
(そうか・・・・・・)
勇はそれを聞いてまた気付いたように思えた。
(パイロットというものはそういうものなのかも知れないな)
ふとこう思った。
(だからあいつは)
自身のブレンを見る。何となくわかってきたような気になった。
「俺と一緒だったせいで痛い目に遭ってきたんだな」
「気付いたの?」
「ああ、何となくだけれど」
ネリーに応える。
「姉さんはできるだけグランチャーを傷つけないようにしていた」
自分の姉のことにも気付いた。
「姉さんはグランチャーの気持ちがわかっていたんだ」
「・・・・・・・・・」
ネリーはそれに対しては何も語らない。だが勇は言葉を続けた。
「ところでネリー」
「何かしら」
勇はネリーに声を戻してきた。彼女もそれに応える。
「君は大切な人ってさっき言ったね」
「ええ」
「君にもそういう人はいるんだろう?」
「そうよ」
ネリーはこの言葉にこくり、と頷いた。
「勿論いたわ。けれど・・・・・・お別れしてきたの」
「何故」
「こういう時代でしょう?だからこの子と一緒にいることを選んだの」
そう言いながら自身のブレンを撫でる。
「そうすることが正しいと思ったから」
「戦う為?」
「違うわ」
だがそれは否定した。
「この子と二人で暮らしていきたかったけれど。そういうわけにはいかなかったから」
「こうした時代だからな」
「ええ」
タダナオの言葉に答えた。
「私が生まれたのはこの時代に何かを成す為だろうし」
運命論を述べる。
「こんなこともあるかも・・・・・・。そう思っていたわ」
思いながら言う。その声はさらに澄んできたように思えた。
「リバイバルを見たから?」
ヒメがそんな彼女に問う。
「それはそう」
「ネリー・・・・・・」
勇達はそれを聞いてネリーの心に触れたような気持ちになった。その時だった。
不意にユウ=ブレンが動きはじめた。だがネリーがそれを制止した。
「まだ駄目よ、動いちゃ」
彼女は言う。
「もう少し。傷を癒して」
「・・・・・・・・・」
その声が聞こえたのであろうか。ユウ=ブレンは動きを止めた。ネリーはそれを見て微笑んだ。
「そうよ、いい子」
そして勇に対して言う。
「ブレンに好かれているのね」
「そうだね」
今のことでそれがわかった。
「あいつは・・・・・・俺のことが好きなんだ」
「ええ」
ネリーはその言葉に頷いた。
「そして私のブレンも貴方のことが好きみたい」
「俺のことを」
「そうよ。貴方・・・・・・ブレンに好かれるのね」
「そうなのかな」
そう言われても今一つまだ確信が持てなかった。
「それは嬉しいけれど」
まだ戸惑いがあった
「けれどネリーはすぐだったんだろう?凄いよ」
「私は普通よ」
しかし彼女は首を横に振る。
「何の力もない女よ」
「いや、それは」
「いえ、本当のことよ。ただ・・・・・・ブレンと出会えただけ」
「そうなんだ」
「そうよ。それだけ」
「後悔しているの?」
ネリーの言葉の中に悲しみを読み取った。だからこう問うた。
「いえ、違うわ」
だが彼女はそれも否定する。
「逆よ、後悔なんか」
彼女は言う。
「私は可哀想だと思ってるの」
「ブレンが?」
「ええ。精一杯遊んであげられないから。この子が望んでいるように」
「そうなの」
「私はこの子の持っているものを全部引き出すことはできないの。残念だけれど」
そうした意味での悲しさであった。
「でも勇」
そして勇に顔を向けてきた。
「貴方ならできるかも知れないわ」
「ネリー・・・・・・」
「この子のリバイバルに立ち会った時に私は命がなくなる筈だったの。けれど元気になったわ。けれど・・・・・・」
「とてもそんな感じには見えないけれど」
オザワが彼女に言う。
「細胞を蝕む病気は一杯あるわ」
「そうか」
これ以上は聞けなかった。
「それに・・・・・・私がこの子に出会えたのは偶然じゃないから」
「偶然じゃない」
「最期に一人だけじゃないっていう神様の采配だから」
「そうなんだ」
「家族の人には知らせてないの?」
ヒメが彼女に尋ねる。
「そのこと」
「家族には黙って出て来たの」
これがネリーの返答であった。
「悲しませることになるから・・・・・・。それなら目の前にいない方がいいから」
「そうなの」
「なあネリーさん」
オザワが声をかけようとする。
「貴方の言いたいことはわかっています」
ネリーは彼に応えた。
「けれど、最期は一人ではありませんから」
「一人じゃない」
「はい。ですからいいです、私は」
「そうですか」
「ネリー」
また勇が声をかけてきた。
「俺達はここにいるべきじゃないよな」
「勇さん」
「ここから出て。別の場所に行かなくちゃいけないんだよな」
「はい」
ネリーはその言葉に頷いた。
「貴方達は大きな運命の中にいる・・・・・・。それはわかっていたわ」
「それじゃあ」
「今の動きは地球やオルファン・・・・・・そして大いなる存在の意思に大きな影響を与えているから」
(大いなる意思!?)
四人は心の中でそれに反応した。
(それは一体)
「ネリー」
それが気になった勇がまず声をかけてきた。
「はい」
「それは・・・・・・オルファンとは別の存在なのかい?」
「詳しいことは私にもわからないわ」
彼女はゆっくりと首を振って言う。
「けれど・・・・・・何かが目覚めようとしているのはわかるわ。この星に眠っていた何かが」
「この地球に」
「オルファンとは別に」
彼等にはそれが何かわからなかった。また一つ大きな謎が生まれたことだけしかわからなかった。
そして静寂の世界は終わった。突如として何者かの気配が感じられたのだ。タダナオがそれにまず反応する。
「敵か!?」
「何処に」
オザワがそれに続く。二人は辺りを見回した。
「あれだ!」
タダナオが指差す。そこには見慣れたシルエットがあった。
「あれは」
「勇!ブレンに乗って!」
「ネリー!」
ネリーが叫んでいた。
「時が来たから」
「わかった、それじゃあ!」
勇はそれに従った。すぐにブレンに向かう。
「私も!」
ヒメも続いた。そしてタダナオとオザワも。彼等はすぐにそれぞれのマシンに向かった。
「まさかグランチャーか?」
勇はブレンに乗って呟いた。
「ジョナサンなのか」
「フハハ・・・・・・フハハ・・・・・・」
得体の知れない笑い声が聞こえてきた。
「ヒャハハハハハハハハハ!」
「その笑い声、ジョナサンか!」
「そうだ、俺だあ!」
ジョナサンの声が返ってきた。
「久し振りだな、勇!」
「生きていたのか!」
「今の御前と同じようにな!やれよ、バロンズゥ!」
「バロンズゥ!?」
勇はその聞きなれない固有名詞にふと戸惑った。そしてそこに隙を作ってしまった。
「ヒャハハハハハハハハハ!」
ジョナサンはそこを見逃さなかった。一瞬で間合いを詰め謎の光を放ってきた。
「うわっ!」
突然の攻撃であった。さしもの勇もかわしきれなかった。その光をまともに受けてしまった。
「勇!」
ネリーがそれを見てまた叫んだ。
「ジョナサン、貴様!」
だが勇は無事だった。ジョナサンに対して激昂した言葉を返す。
「折角の再会だ!再会を祝して歓迎してやっているんだ!」
ジョナサンの叫びには狂気が感じられていた。
「孤独であるより楽しいぞ!」
「まだ言うのか!」
「何度でも言ってやる!オーガニック=エナジーが作ってくれた再会だ!共に祝おう!」
「クッ!」
ジョナサンはまた攻撃を仕掛けてきた。勇はそれを何とかかわして自身のブレンに対して言う。
「ブレン、逃げろ!相手に出来るもんじゃない!逃げろ!」
「ヒャハハハハハハハ!」
ジョナサンは勇のその声を聞いてさらに哂う。
「勇のブレンが泣いているなァ!勇!」
勇に対してもさらに言う。
「貴様が泣くのを見られるとはなあ!人生も捨てたモンじゃない!」
「舐めるなあっ!」
だが勇は泣いてはいなかった。まだ心では負けてはいなかった。
「どんな状態でも!」
「伊佐未ファミリーにはそろそろ消えてもらう!その血祭りの手始めだ!覚悟してもらうぜえっ!」
「くうっ!」
「いけない!」
ジョナサンはさらに攻撃を仕掛ける。ヒメ達はようやくそれぞれのマシンに乗り込んだばかりでまだ間に合いそうにもない。ネリーはそれを見て動いた。
自身のブレンに飛び乗る。そして勇とジョナサンの間に入ってきた。
「なっ、勇の援軍か」
ジョナサンは彼女とそのブレンの姿を認めて動きを止めた。
「貴方達の邪気がこの森を・・・・・・」
ネリーはジョナサンをキッと見据えて言う。
「バイタル=ネットが作る結界を汚しています!」
「何を偉そうに!」
だがジョナサンはまた激昂して叫ぶ。
「ここは俺とバロンズゥが造る結界だぞ!」
「またバロンズゥ」
「やはり」
ネリーはバロンズゥという単語に反応した。
「バロン=マクシミリアン」
「バロン=マクシミリアン」
「勇、あっちに人が!」
そこでようやくブレンに乗り込んだヒメが小屋の側の岩場を指差す。そこは高くなっていた。
「人!?」
「やはりここにいたのね」
ネリーもその岩場に顔を向けていた。そしてそこにいる仮面とマントを身に着けた謎の人物がいた。
「バロン=マクシミリアン!」
ネリーはその人物を見据えて叫ぶ。だがバロンは一言も発しなかった。
「・・・・・・・・・」
「グランチャー=バロンズゥをけしかけることは罪を犯すことです」
「・・・・・・・・・」
だがそれでもバロンは言葉を発しない。
「バロンズゥを退けさせなければ私のブレンも爆発するかも知れません」
だがネリーはそんなバロンに対して話し続ける。
「それでは私も罪を犯し。あなたも罰を受けることになりマス。それでもいいのですか?」
「罪を犯し罰を受ける・・・・・・どういうことだ」
勇はその言葉に何かの謎を見ていた。
「そんなことは関係ない!」
しかしそれは破られた。またジョナサンが叫んだのであった。
「誰かは知らないが勇と一緒に潰してやる!」
ネリーに向かってきた。
「そして貴様の罪と罰もチャラにしてやるよ!」
「お止めなさい、バロンズゥを操る人!」
だがネリーは臆してはいなかった。ジョナサンに対して叫ぶ。
「貴方は自分が思っている程の力はないのです」
「何だと!?」
「バロンズゥ、お帰りなさい、貴方のプレートに!」
「!?」
ここでジョナサンのバロンズゥの動きが止まった。
「どうした、俺のバロンズゥ」
ジョナサンは動きを止めた自分のバロンズゥに対して言う。
「何をビビッている、相手はたった一人のブレンだぞ」
「・・・・・・・・・」
バロンはその様子を見ていた。やはり一言も発しない。
「ネリー、俺のことはいい!」
隙が出来たのを見て勇が叫んだ。
「早く逃げるんだ!」
「馬鹿なことは言わないで」
だがネリーはそれを拒否した。
「ジョナサンという奴は普通じゃないんだ!」
「ユウ=ブレンを見れば」
ネリーはそれでも彼に対して言う。
「守らなければならないのは・・・・・・私とネリー=ブレンです」
(ユウ=ブレン)
勇はそれを聞いて自身のブレンに対して心で語り掛けた。
(甘えられるのか!?この厚意に)
ネリーはその間に勇の側に来た。そしてここで何かが聞こえてきた。
「!?」
「ネリーとか!」
ジョナサンはまたネリーに声をかけてきた。
「ユウ=ブレンを放して戦ってみろ!」
「嫌です!貴方達こそこの森から出るのです!」
ネリーはそんなジョナサンに対して強い気を向けていた。
「まだ言うのか!」
「ユウ=ブレン!」
勇は今度は声に出した。
「助けられず、助けられただけで」
ブレンに対して言う。
「そして落ちていく。いいのか、そんな運命で!」
「・・・・・・・・・」
「!?また」
勇の心に何かが聞こえてきた。
「何、生まれた時にオルファンに連れて行かれて辛かっただと」
「・・・・・・・・・」
ユウ=ブレンは言葉には出さない。勇の心に直接語りかけていたのである。
「それをオルファンから連れ出してくれて嬉しかった」
「・・・・・・・・・」
「太陽が見られて太陽がある宇宙を想像できて」
「宇宙の中のこの星・・・・・・。人間が地球と呼んでいる星のことがわかって嬉しかった」
「・・・・・・・・・」
「そういう中で生きてこられたのが喜びだ。けれど今何も出来ないのが・・・・・・」
「わかっているのなら何とかしろ!」
勇はここで叫んだ。
「クッ!」
しかしここで動いたのはジョナサンだった。彼は攻撃を仕掛けずにバロンの側に向かった。そしてバロンに対して言った。
「バロン=マクシミリアン」
あの傲慢さは何処にもなかった。謙虚な様子でバロンに言う。
「お借りしたバロンズゥの力、存分に使わせて頂きます」
「ジョナサン」
バロンはそんな彼に言った。
「油断はするな。手負いの人間は何をするかわからない」
「心得ております。それでは」
「うむ」
「そこで私の狩りをお楽しみ下さい」
彼は完全に従者となっていた。彼は今バロンの僕となっていたのだ。そしてその僕がまた勇のところに向かった。
「させん!」
「ここは僕達が!」
だがその前にタダナオとオザワが立ちはだかる。
「貴様等なぞ!」
だがジョナサンはそれを無視しようとする。彼等の間をすり抜けてでも勇に向かおうとする。だがその前にまたもう一機姿を現わした。それはヒメ=ブレンではなかった。ヒメはタダナオ達と共にいた。
「なっ!?」
「グッドタイミングってとこかしら」
レミーの声だった。
「ゴーショーグン!」
「来てくれたのか」
「今度もケン太の予言が的中したみたいだな」
ゴーショーグンのコクピットから真吾の軽い声が聞こえてくる。
「こりゃ将来は占い師で食っていけそうだね」
「ううん、僕はただ友達から居場所を教えてもらっただけだから」
だがケン太はキリーに対してこう答えた。
「その友達ってのがよくわかんないんだけれどね」
レミーがそれを聞いて呟く。
「ま、結果オーライってことで。ケン太のおかげで宝探しは終わったし」
キリーがここで言う。
「それじゃあ鬼退治といきますか」
「了解」
「最近見せ場が多くて何よりだね」
「糞っ、忌々しい!」
ジョナサンはゴーショーグンを前にして顔を歪ませる。
「どうしてここに!」
「正義の味方ってのはピンチに現われるものさ」
「それも颯爽とね」
「今回もドンピシャだったわけね」
「ふざけやがって!」
「バロン!」
ジョナサンが行く手を防がれている間にネリーはまたバロンに問うた。
「あなたは何を考えているの!?」
「答える必要はない」
だがバロンはそれに対して答えようとはしなかった。
「あなたはあのグランチャーを邪悪に使うことを考えているだけ!あの青年を利用してどうするつもりなの!?」
「黙れ!」
だがネリーに対してジョナサンが怒声を浴びせた。
「くっ!」
「俺は俺の戦い方をバロンに示し!」
彼は言う。
「そのうえでオルファンに凱旋する!勇を討った後で貴様の話を聞いてやる!」
「貴方は何もわかっていない!」
ネリーはそんなジョナサンに対しても言った。
「貴方は他人に自らの怨念をぶつけようと考えているバロンとそのグランチャーに操られているだけです!」
「五月蝿い!バロンを悪く言うことは許さん!」
しかしジョナサンは聞こうとはしない。
「バロン=マクシミリアンは俺を理解してくれた!」
彼はまた言った。
「そのバロンの前で無様な姿を晒すわけにはいかないんだ!」
「ジョナサン!?ネリーを」
「勇!」
だが彼は勇に向かっていた。
「あっ、しまった!」
「真吾、何やってんのよ!」
ジョナサンはゴーショーグンの間をすり抜けていた。そして勇に向かう。
「トドメは一気に受けた方が楽だぜ!」
「ブレン!」
勇はそれを受けてユウ=ブレンに対して叫ぶ。
「撃てなければいい!」
彼も覚悟を決めていた。
「もういい!よくやった!好きにしろ!」
叫ぶ。
「付き合う!」
ジョナサンのバロンズゥが迫る。だがそこでユウ=ブレンの足下にブレートが出現した。
「なっ!?」
ジョナサンはそれを見て飛び退いた。
「リバイバルのブレード!?」
「オーガニック=エナジーの波動がこの様に現われる!?」
それまで殆ど口を開かなかったバロンも思わず口にしていた。
「ネリー!覚悟はついた!」
勇はそれを見てネリーに対して言う。
「ネリーだけでも逃げてくれ!」
「私達だって覚悟はできているわ!」
「何だって!?」
「私達の覚悟は貴方を守ること!」
「俺を」
「ええ。貴方が来てくれたことでようやくわかったの」
ネリーは言った。
「貴方ならブレン達を強く育ててくれる。私の分も生かしてくれるってわかったから」
「俺が」
「そうよ」
「くっ、何を話している!」
ジョナサンはまた向かおうとしていた。時間はなかった。
「カーテンの向こうで何をやっている!」
「リバイバル!?」
勇は咄嗟に言った。
「もう一度リバイバルする!?」
「この子は完全じゃないの!もう一度リバイバルが必要なの!」
ネリーはそれに応えた。
「ネリー!」
「ジョナサン」
焦るジョナサンに対してバロンが声をかける。
「バロンズゥの手に私を乗せよ」
落ち着いた様子で言う。
「このリバイバルが私が怖れているものならば私はオルファンに行かなければならない」
「その前に!」
だがジョナサンはそれを聞こうとはしなかった。
「狙撃してやる!」
「未熟者の言うことは聞かない!」
だがバロンは頭に血が昇っている彼を一喝した。それでジョナサンの頭を冷やした。
「急げ、ジョナサン!」
「バロン!」
「リバイバルが終わった時、あのブレードがチャクラの矢になって襲って来たらどうするつもりなのだ」
「そ、それがオーガニックなるものだとしたら」
ジョナサンも従うしかなかった。彼はまたバロンの下へ来た。そしてバロンを乗せて何処かへと姿を消してしまった。
「行ったか」
「ああ」
オザワがタダナオに応える。
「ジョナサンの奴、生きていたか」
「まあ予想はしていたがな」
「あいつも気になるがあのバロン=マクシミリアンだけどな」
「あいつか!?」
「何者だ!?ありゃ」
タダナオは首を傾げさせていた。
「いきなり出て来やがったが。妙な奴だな」
「そもそも男か女かもわからねえな」
「声からして男だろ」
「そうかね」
「俺はそう思うけれどな。どうだろうな」
「私は女の人だと思うよ」
「ヒメちゃん」
二人はヒメの言葉に顔を向けた。
「何かお母さんみたいな感じがしたから」
「お母さん!?」
「それはちょっと違うんじゃ」
「ううん、そんな感触だった。それに」
「それに!?」
「何か知っている人に感じが似ていた。誰かまではわからないけれど」
「そうなんだ」
「じゃあ。誰なんだ?ありゃ。ミリアルドさんでもないし」
「おいおい、ミリアルドさんはもうこっちにいるぜ」
「だからだよ」
「おい、三人共」
ここで真吾が彼等に声をかけてきた。
「!?真吾さん」
「連中のこともいいが勇のことも目を向けないか」
「おっと」
「それでネリーさん・・・・・・ん!?」
ここで彼等は異変を見た。
「な・・・・・・」
真吾達もそれを見て絶句した。
「な・・・・・・何がはじまるの!?」
レミーにもいつもの調子はなかった。
「二つのブレンが・・・・・・」
ケン太も言う。見ればユウ=ブレンとネリー=ブレンが合わさろうとしていたのだ。
「一つになる。そんなことが・・・・・・」
「ネリー」
勇はその異変の中でネリーを呼んでいた。
「何処だ、何処へ行ったんだ」
「ここよ、勇」
彼女は心の中で勇に語り掛けていた。
「私わかったのよ」
「わかった!?何を」
「この子がここを出たがらなかったのは貴方の様な人を待っていたのよ」
「俺を」
「そう。命を与えられた者の可能性を探す為に」
「誰が与えた可能性なんだい、それは」
「それは貴方が探して」
彼女は言った。
「私にはもう探せないから。けれどそれはこの子が探してくれるわ」
「ブレンが」
「そう。この子の力で勇の大切な人達も守ってくれればいいから」
「ネリー=キム、君は」
「勇、忘れないで」
最後が来ようとしていた。ネリーはこれまで以上に優しい声で彼に語り掛ける。
「私は孤独ではなかったわ。・・・・・・最後に貴方に出会えたし。それじゃあ」
ゆっくりと目を閉じた。
「有り難う・・・・・・」
「ネリー・・・・・・」
ネリー=ブレンはリバイバルした。そしてネリーは完全に消えてしまった。
「ネリーさん・・・・・・」
ヒメはポツリと呟いた。
「あれがあの人の運命だったんだ」
泣きそうになるヒメに対してタダナオが言う。
「悲しいけれど・・・・・・それだけだ」
「それだけ」
「言い方が悪かったか、済まない」
彼は自分の言葉を訂正した。
「あの人は死んだんじゃない。中に入ったんだ」
「中に入った」
「そうさ、見てみるんだ」
前を指差した。
「あの勇のブレンを。あれが何よりの証拠さ。あの人がいることの」
そこにあるユウ=ブレンはそれまでとは形が違っていた。青い色は変わってはいなかったがそのシルエットはネリー=
ブレンのものと合わさったものになっていたのだ。
「泣くなよ」
勇はその生まれ変わった自分のブレンに対して言った。
「俺のブレンは雄々しかったんだぞ。そのビットだって取り込んだんだ。だから」
そして言う。
「もう泣くんじゃない」
「・・・・・・・・・」
ブレンはそれ以上何も言わなかった。ただ泣くのを止めた。丁度そこで仲間達がやって来た。全ては終わったのであった。
勇は一旦ブレンから降りた。そして小屋の側まで行く。
「ネリーさんの方身を埋めるつもり?」
側にやって来たヒメが問う。
「ああ」
勇はそれに頷いた。
「俺もブレンも何時までも泣いているわけにはいかないからな」
そう言いながら穴を掘る。
「ブレスレット一つの記憶より」
ネリーが着けていたブレスレットを見詰めながら言う。
「俺達の中に染み込んだネリー=キムの思い出を大切にしたいからな。一杯あるだろ?」
ここでネリー=ブレンを振り返る。ユウ=ブレンと合わさったネリー=ブレンを。
「・・・・・・・・・」
「御前の中にはネリーも、俺のブレンもいるんだからな」
「この子の中にネリーさんがいるんだ」
「そうさ、俺達はずっと一緒だ」
勇はまた言った。
「ずっとな。これからも」
「ネリーさんはいい人なんだね」
「ああ」
ここでヒメは過去形を使わなかった。
「人を愛していたんだ」
「そうだろうな。だからバロンを恐れていた」
「バロンを」
「ネリーはバロンとジョナサンがオルファンに入ることを恐れていた」
「あの人達を?」
「そうさ。けれど俺達は今一つの記憶を封印しよう」
彼はブレスレットを埋め終えて言った。
「これからの戦いの為に」
「うん」
二人はネリーと共に戦艦に戻った。彼等もまた生まれ変わったのであった。
「よかった、無事で」
勇を皆が出迎えた。その中にはイルイもいた。
「心配したんだぞ」
「済まない、皆」
勇は申し訳なさそうに頭を下げた。
「心配をかけてしまった」
「いや、それはいいさ」
「御前が無事だったんだからな」
彼等は口々に言う。
「皆・・・・・・」
「それよりもそっちは色々あったみたいだな」
「ああ」
勇はこくり、と頷いた。
「何かとな。けれどもう平気だ」
「そうか」
「それは何よりだ。御前のいない間にオルファンでも動きがあったしな」
「オルファンでも」
「ああ」
ラッセが答えた。
「完全に海面から離れた」
「そうなのか」
「長く続く戦乱に耐えられなくなってきたようだ」
「事態は悪化しているんだな」
「何、それでも希望は残っているさ」
落ち込もうとする一同に対して真吾が言った。
「よく言うだろ、人間に残る最後の友達は」
「希望だって言いたいのね」
「そういうこと。わかってるな、レミーは」
「あら、ギリシア神話はレディーの嗜みよ」
レミーは笑って返した。これがギリシア神話のパンドラの箱の話であるのはもう言うまでもないことであろう。
「今回はケン太が希望になったわけだな」
「そうね」
レミーはキリーの言葉に頷いた。
「何か俺達より凄いな」
「私達って所詮ロボットに乗るだけだからね」
「正義の味方の正体見たり、枯葉柳」
「それはそうとケン太は何処に行ったんだ?」
勇が問う。
「あっ、そういえば」
レミーも気付いた。
「何処に行ったのかしら、あの子」
「お父さんに会っているよ」
「お父さん!?」
皆真吾のその言葉に眉を顰めさせた。
「真吾、悪い冗談はよしてくれ」
「真田博士はもう」
「何でもあらかじめファザーに自分の意識を移動させていたらしい」
「ファザーに」
「じゃあサバラスさんもこっちに来ているのか」
「ああ。それで話をしている。まあ大体宙の親父さんと一緒だな」
「親父とか」
宙はそれを聞いて少し複雑な顔を作った。
「まあそういうことさ。心配はいらないよ」
「了解」
真吾の言葉通りケン太は父と話をしていた。OVAやサバラスも一緒である。
「真田博士」
サバラスはファザーの中にいる真田博士に問うていた。
「それではケン太の友達と私達の使命は深い関係にあるのですか」
「そうだ」
そして博士はそれに頷いた。
「ケン太の成長とビムラー覚醒のきっかけとなる」
「ビムラーの覚醒?」
ケン太はそれを聞いて目を少し丸くさせた。
「ビムラーって瞬間移動を可能にするエネルギーのことだよね」
「うむ」
父は息子の言葉に頷いた。
「それと僕にどんな関係が」
「いいかケン太、よく聞くんだ」
博士は言った。
「御前と御前の仲間達にはこれからも多くの試練が待ち受けている」
「試練が」
「そうだ、それに打ち勝った時人類は新たなステップを踏むことになるだろう」
彼は言う。
「覚醒したビムラーや、御前の友人達と共に」
「え・・・・・・!?」
ケン太はそれを聞いてキョトンとした。
「それはどういう意味なんですか?」
OVAにもわからなかった。そして問うた。
「外宇宙に進出したとはいえ人類はまだ未熟な存在だ」
「はい」
サバラスはそれに頷いた。それを否定するつもりはなかった。
「本当の意味で巣立ちをするには守護者の下から離れなければならない」
「守護者!?」
それを聞いたケン太達の顔が疑念に支配された。
「博士、それは」
「どういうことなの、父さん」
彼等はそれぞれ問うた。
「ビムラーって、守護者って何のことなの?」
「今は今のままでいい」
だが博士はそれに答えなかった。
「いずれわかることだ。そしてその時こそ」
「その時こそ」
「人類の新たな旅のはじまりとなるのだ」
「父さん!」
「ケン太、暫しのお別れだ」
博士は息子に対して微笑んでこう言った。
「また会おう」
そして姿を消した。後はケン太が幾ら読んでも姿を現わさなかった。
「ケン太」
サバラスはそんな彼に優しい言葉をかけた。
「博士は再びファザーの中で眠りにつかれた。呼び掛けるのはよそう」
「うん・・・・・・」
サバラスは彼が納得したのを確かめてから言った。
「君は博士の言葉通り旅を続けなければならない」
「旅を」
「そうだ。全ての答えを見つける為にだ。わかったな」
「そうですよ、ケン太君」
OVAも言った。
「OVA」
「ケン太君の旅はまだ終わりじゃないんですから」
「そうだな」
「わかったよ」
ケン太は二人の言葉に頷いた。
「僕は自分で答えを見つけ出すよ」
強い声で言った。
「それがこの旅の目的なんだから」
「そうだな。では私も行こう」
サバラスは立ち上がった。
「自分自身の旅に。また会おう」
「うん」
サバラスも発った。彼等は別れそれぞれの旅に向かった。ロンド=ベルの、そしてケン太の旅はまだ続くのであった。

第七十話完
2006・1・27  
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