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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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ALO編
  七十三話 兄、弟、妹(リョウ、カズ、スグ)

 ネトゲで遊んでいたらその遊び相手が妹だった。

 これだけ聞けば、正直なところ、唯の笑い話だろう。兄は、兄達は妹に何故ネトゲ等やっているのかと聞き、妹は顔を真っ赤にするとか、そんなシーンが容易に思い浮かぶ。
しかしキリトが現実世界の桐ケ谷和人と同一人物であると知ったリーファ……桐ケ谷直葉の反応は、照れ笑いでも羞恥から来る赤面でも無く……驚愕と戦慄、そして……

「……酷いよ……あんまりだよ、こんなの……」
 瞳から落ちた、透明な雫だった。

────

「おいおい、なんなんだよ……っと」
 言いながら涼人はナーヴギアを頭から取り外し、両足を振り上げて反動で起き上がる。
直ぐに扉を開け、直葉の部屋へ……

「やめて!開けないで!!」
「っと!?」
 突然隣の部屋から叫び声が聞こえ、涼人は出しかけた体を部屋の中に引っ込めた。部屋の中に居ても、戸惑ったような和人の声が聞こえる。

「どうしたんだよスグ……そりゃ、俺も驚いたけどさ……ナーヴギアをまた使った事怒ってるなら、謝るよ。でも、どうしても必要だったんだよ……」
 少し直葉が何か言ったようだったが、良く聞こえなかった。しかしすぐにドタドタと音を立て、扉を音を立てて引き開ける。あれが押し扉なら、扉の前に居た和人が吹っ飛ぶ勢いだ。部屋の外に出たおかげで、ようやく直葉の声が聞こえる。

「あたし……あたし、自分の気持ち裏切ってたの……お兄ちゃんが好きだって……そう思って、でも、諦めて、忘れて、キリト君の事好きになろうとしてたの……!なのに……それなのに……!!」
『オイオイオイオイオイオイオイオイ……!?』
 行き成りの直葉の爆弾発言ラッシュに、涼人は心底驚く。
なんと言った、直葉は何と言った?和人が好き?しかし和人と直葉はあくまでも兄妹だ。正確には違うが……その事を直葉は知らないはず……

「好き……って……だって、俺達……」
「知ってるの……」
「え……」
「あたしももう、知ってるんだよ……」
 丁度、それを言おうとした和人に、直葉がささやくように返した。直ぐにそれが、怒鳴り声に変わる。

『おいおい……』
「あたしとお兄ちゃんが、ホントの兄弟じゃない事……りょう兄ちゃんと同じ従兄同士だって、あたしはもう二年も前から知ってるの!」
『…………』
 話されていたのか……と、涼人は自分の不注意を小さく反省する。うぬぼれるつもりはないが、自分はそれなりに観察眼の鋭い方だと自負している。もっと自分が直葉の事をしっかり見ていれば、彼女が何か様子がおかしい事に気づけたのではなかろうか。
確信は無い。しかし……自信はある。まぁ、今更言っても後の祭りだが……
直葉の鳴き声交じりの訴えるような声が続く。

「お兄ちゃんが剣道やめてあたしを遠ざけるようになったのは、ずっとずっと前からそれを知ってて……あたしが本当の妹じゃないって知ってたからでしょ!?なら……ならなんで今更こんなに優しくするのよ!!」
 最早止まる気配はない。否……彼女自身、止まれないのだろう。こうなってしまうと、最早体や口を動かすのは理性では無く感情と衝動だからだ。

「あたし……お兄ちゃん達がSAOから戻って来てくれて嬉しかったし、お兄ちゃんが小さい頃に戻ったみたいに仲良くしてくれたことも、凄く嬉しかった……あたしの事、やっとちゃんと見てくれたんだって思えたんだよ……でも!」
 最早直葉の言葉は止まらない感情の波に押しつぶされる悲痛な物にしか聞こえなかった。しかし止めようにも、今しゃしゃり出たところで、何か出来るとも思えない。

「でも……こんな事になるなら冷たくされたままの方が良かったよ……そうしたら、お兄ちゃんが好きだって気づくことも無かったし、アスナさんの事知って悲しくなることも無かった……お兄ちゃんの代わりにキリト君の事好きになる事も、無かったのに!!」
 そこまで言って、直葉の言葉は途切れた。
和人が小さく……呟くように言う。

「ごめんな……」
「……もう、放っておいて」
 それで、会話は終わりだった。
バタン!と言うドアを閉める荒い音が響き、廊下に静寂が戻る。そのタイミングになってやっと、涼人は廊下の外へと出た。直葉の部屋のドアに、もたれかかるように力無く座り込んだ和人が首だけ回して此方を見る。

「リョウ兄……」
「……とりあえず、下行ってなんか飲むか?」
 少し溜息気味に言った涼人の発言に、和人は若干驚いたようで、同時に少し迷ったようだったが、やがて小さく、首を縦に振った。

────

「さて……」
「…………」
 一階に降りた二人。取り合えず和人は食堂のテーブルに座り、キッチンに引っ込んだ涼人がココアを二人分机に置くと、黙り込む。
先に口を開いたのは、和人だった。

「その……取り合えず、ごめん。さっきは勝手にイラついて、キレたりして……」
「んにゃ。そりゃ俺も責任有りだ。ちっとお前の焦りに無頓着だったな。わりい……ま、その件は手打ちにしようぜ今は……」
 もっと重要な事が出来ちまった。と言って、涼人は二階の直葉の部屋が合ろう方向を仰ぎ見る。

「スグにゃ、悪かったな……気づいてやれなんだ」
「いや、兄貴は悪くないさ。俺の方が、気づいてあげなきゃいけなかったんだ……」
「お前が好き……か。二年出かけてる内に、すっかり成長してやがったんだな……」
「…………」
 和人は考えていた。
直葉は自分が本当の妹ではないから和人が直葉を遠ざけていたと言った。
はっきり言ってしまえば、それはおおむね正しい。しかしだからと言って明確な意思の元にそれを行ったかと言えばそうでもない。何故な和人が自分が桐ケ谷家の本当の子供ではない事に、個性登録の住基ネットの戸籍に抹消記録が有る事からに気づいたのは、ほんの十歳の頃だったのだ。どちらかと言えば、直葉を遠ざけて居たのは何となくと言う部分と、もう一つの要素が大きい。

 あの頃からSAOにかけての和人は、人に対するときの距離感と言うのが、何故だか良く分からなくなってしまったのだ。
特に外的なショックが有った故では無い。和人の今の両親は和人がそれに気づいても特に態度を変えることなく和人の事を慈しみ、愛してくれたし、それ以外の要素も和人の周囲で何かが変わったかと言えば、全く無きも変わりはしなかったからだ。

 変わったとしたら、それは和人自身の方だ。
あの頃の和人は、人と相対した時必ず小さな、それでいてとても強い疑問を、胸の内に抱くようになった。それは、「この人は一体誰なんだろう?」と言う、一つの疑問。たとえ家族や親類、どんなに長く付き合った相手であっても、それはわきあがった。この人は本当は誰なのだ?自分は果たしてこの人の事を本当に知っているのか?と。
 その疑問は、和人の中で他人との間に一つの見えない壁を作った。意図せずして、否、あるいは意図的に、和人は人と折に触れて接するようになってしまったのだ。

 それは、和人がネットゲームに向かう一つの理由であるとも言えた。なぜなら和人にとっては、その環境がとても居心地が良かったのだ。
画面に見える仲間や友人は、あくまでもそこにいるだけのキャラクター。偽りの姿が外面で、異なる内面が居ること自体が当然の、身代わり(アバター)なのだから。
だからこそこの少年は、小学校高学年の頃からネットゲームにはまり出し、やがて幽閉させることになるあの世界へと向かったのだ。

 しかし、そんな彼を現実《リアル》の中でぶち破った人間もまた、彼には居た。
桐ケ谷涼人だ。和人が小六の夏に桐ケ谷家に住む事になった涼人は、暇さえあれば和人や直葉を構っていた。
まぁと言うのも、本人曰く唯の暇つぶしらしいのだが。
しかしいずれにせよそれによって、本来兄妹間の仲は余り良くなかった直葉、和人それぞれと、涼人はある程度以上に仲を深めていた。

 そんな涼人が来てから丁度二年。SAOに突入するその歳の夏。和人が中学二年生の頃だったか。
急に、涼人が、こんなことを言いだしたのだ。

『おいカズ、アキバ行こうぜ』
『……なんだって?』
『アキバだアキバ。ほれ、行こうぜ……』
『ちょ、え?なんで行き成り……』
『お前の自作。あれいい加減旧式だろうが、改造しようぜ。ちっとハードの方に興味が出てきた。解説プリーズ』
『え、せ、セーブするから待ってくれ!』
 とまぁこんな感じで、時折和人は涼人に無理矢理連れ出された。
 和人は、六歳のころには母親の部屋のジャンク品から自作のマシンを組んで遊んでいたから、既にハードに関しては結構な知識が有ったのだ。ちなみにその時の金は、涼人が貯めていた金と、和人の貯金をそれぞれ半分ほど使い、高性能には少し届かぬものの、それなりに良い物だった。
ただそれ以上に良く覚えているのは、そのマシンを組んでいた時の楽しさだった。
 不思議な感覚だった。普段人と接している時は必ずと言っていいほど感じていたあの感覚が涼人相手だと殆どない。兄のような……否、あるいは兄その物と言っても過言ではないその青年と話し、共に遊ぶ時間は、ネットゲーム以上に、和人にとっては居心地が良かった。それはあるいは、涼人と言う人間が、全くの裏表なく、和人に接していたおかげもあるのかも知れない。

 しかしその事を和人が気づくのはSAOに入ってからの事だ。
いや、あるいはSAOと言う特殊な環境下に入ったからこそ。と言えるだろうか。和人自身が、気付いたのだ。そもそも他人の裏表を疑うこと自体に、全く意味が無い事に。

 本質的にはネットゲームであるSAOだが、その世界は殆どリアルと変わりがなかった。何故ならば、SAOの世界は脳に五感の情報として送り込まれた感覚を、自分の脳が眼前にある者だと認識しているだけの世界だったからだ。
脳の五感が認識しているだけで、しかもログアウト不可の世界。その言葉に現実世界と一体どんな違いが有るのかと和人が自身に問うた時、残った答えは何も変わらないと言う単純明快な解答だけだった。

 だからこそ、和人は悟ったのだ。ネットゲームの世界でした事が結果的に自分の起こした事である事に間違いないがゆえに、その裏に居る人間にもそれによって起きる精神的、あるいはVRならば肉体的な反動が返ってくるように、現実世界の人間の裏表を疑う事にもまた意味はなく、唯出来るのは眼前の人を信じ、受け入れる事だけなのだと。

「俺……さ」
「ん?」
 俯きながら小さく切り出した和人の言葉に、涼人は耳を傾ける。

「SAOに行く前、人との接し方が良くわかんなかった……でも、あっちに行ったら生まれて初めて心の底からスグや……親父や母さんに会いたくなって……そのうち、いろんな経験して、人との接し方も自分でも分かるくらい変わってた……」
「あぁ」
 和人の独白を、涼人は唯黙って聞く。

「この前目が覚めて、スグの顔を久しぶりに見たときさ……俺、本当に嬉しかったんだ。だから、この数カ月の間、スグとは接したいように接してきたつもりだった」
「…………」
「でも、それだけじゃ足りなかったんだよな……兄貴の言う通りさ、スグも、二年間の間にちゃんと変わってたんだ。俺、それにちゃんと気づいてやれなかった。うぬぼれかもしれないけど……多分、スグがALO始めたのも、俺の事スグなりに知ろうとしてくれてたんじゃないかって……そう思うんだ」
「かもな。彼奴、ネトゲどころか普通のゲームもあんまやる奴じゃなかったし……」
「うん……スグはスグなりに、俺と必死に向き合ってくれようとしてたのに、俺はスグの方を向こうともしなくて……リーファとしても、彼奴は俺達の事助けてくれてたのに……俺、アスナの事で頭いっぱいになっちゃって、リーファともスグとも、ちゃんと正面から向き合ってなかったんだよな……」
 そこまで言って、和人はすっ……と黙った。その瞳には決意の光が見て取れ、涼人はそれを見てにやりと笑う。

「へぇ、そうかそうか……」
「ん……?」
 和人は、いぶかしげに眉をひそめるが涼人は笑い顔を崩さない。

「何だよ。どうするかなんざ、何も言わなくてもお前の中で結論出てるじゃねぇか?」
「ん……まぁ、な。言葉で足りなきゃ……手を伸ばせ」
「手が弾かれたら剣を抜け。ってなぁ、あっちじゃ鉄則だったからな」
 続けられた涼人の言葉に勇気づけられたのか、和人は二ヤッと笑う。それをみてニヤリと返すと、涼人は先に立ちあがり、言った。

「んじゃまぁ、俺は伝言役に回るとしますか……」
「え……」
「いくら伝える事が決まろうが、スグがやる前に逃げちまったら意味ねぇだろ?ま、ちょいと用事有るってだけつたえてくらぁ」
「あぁ……頼む」
 和人のその言葉と同時に、涼人はもう一つ、マグカップを食器棚から取り出した。

────

「スグ、入っていいか?」
 答えは無い。が、待っていると時間を喰うだけなので、あまり良いことではないと分かりつつも、涼人はゆっくりドアを開け、部屋の中へと踏み込む。
部屋のベットの上には、スグが背中を丸め、まるで何かに怯えるように肩を震わせていた。

「……スグ」
 有る程度はやさしめに声を掛けたつもりだったのだが、それだけで直葉はビクッと肩を震わせる。家の従妹はこんなに臆病な少女だっただろうか……?

「取り合えず……此処にココア置いとく。身体が冷えてるならあったかい内に飲め。後伝言だ。キリトがアルンの北側のテラスで待ってるとよ。それとな……」
 涼人は続ける。続く言葉で、きっと彼女なら結論を出せると信じて……

「どう転んでも、お前と俺達は同じ家に住んでる家族で、兄妹だ。お前の気持ちにとっちゃ邪魔だったのかも知んねぇけどよ……その事、よく考えてくれよ、な?」
「邪魔だなんて……!」
 そのまま立ち去ろうとした涼人に、後ろから声がかかった。

「……そんな風に、思った事、ない……」
「……あのな、スグ、お前のお蔭だ」
 それは泣きはらし、かすれたようなほんの小さな声だったが、涼人の耳には確かに届き、だから、答えられた。

「え……?」
「和人の家の事も、俺の親の事も、世辞にも運が良かったとは言えねぇけど、俺も彼奴も幸運な事にお前と従兄で、だからお前の兄貴になれた。ならせてもらえた。これでもな、感謝してんだぜ?」
 涼人は語る。互いに両親を失った二人を兄として、引き合わせてくれた大切な妹に、慈しむように笑いながら。

「俺にとっちゃ、お前は大事な妹分だ、泣かしたままになんぞしときたかねぇ。彼奴も、多分同じ気持ちだ。メンタルなら、SAO《あっち》で散々鍛えられた。多少きつい言葉も受け止めてやれる。だから……」
「…………」
「言いてぇ事があるなら、正面切ってはっきり言ってこい。伝えてぇなら……どんな形でも伝えようとしてみろ。そいつを受け止めるのが俺ら……今回は、キリトの仕事で、それでお前がスッキリすんなら……俺たちにとっちゃ、安い買い物だ」
「……うん」
 ニッと笑って、軽口調子に放たれた言葉だったがそれでも、直葉は布団の中で一つ。コクリとうなずいた。

────

「さてさて……んじゃまぁどんな感じか見に行くとしますかね……」
 それから少ししてからALOに入ったリョウは、周囲を見渡す。と、ドーム前広場の端にあるベンチの近くに、見覚えのある後ろ姿が見えた。

「ん?よぉ、レコンじゃねぇか!?何してんだ?」
「え?あ、リョウさん!」
 振り向いた黄緑色の髪の少年は、リョウを見て驚いたように口を開けている。

「いや、なんかリーファちゃんに会ったんですけど……此処で待ってろー。って言ってあっちに飛んで行っちゃって」
「へぇ…………なんだ、追いかけねぇの?」
「いやぁ、リーファちゃんが付いてきたら殴るって……」
 後ろ手に頭を掻きながらあはは。と言って笑うレコンに、リョウは何となく悪戯心を刺激される。

「んなもん、見えねぇあれ使えば良いだろ?アルンの北のテラスに居るから、見て来いよ」
「え、で、でもその……」
「まぁまぁ。俺が擁護してやるからよ。上手くいきゃ、すげぇデュエルが見れるかもしんねぇぞ?」
「え、で、デュエルですか?」
 疑問そうに首をかしげるレコンに向かって、リョウはにやりと笑って頷く。

「あぁ。かなりハイレベルな奴だ。多分な。俺少し遅れてから行くからよ、レコン見て来いよ」
「じ、じゃあ……」
 何となくいまだに腰が引けていたが、レコンはそれ以上何もいわずに、北のテラスへと飛び去って行った。
その後少しだけ用事を済ませて、リョウも北テラスに向かった。

────

 それはまるで二つの流星のぶつかり合いだった。
空中を流れるように行き交う緑と灰の光は、一度ぶつかるとギィンッ!と言う金属質な音を立てて跳ね返るように離れ、また別の軌道を描いてぶつかる。唯それの繰返しであるはずなのにもかかわらず、レコンには、それが途方も無く美しく見えた。

 憧れた。眼前で起きているその戦いは、決してうだつの上がらないゲーマーがただ剣を振り回すだけのチャンバラごっこでは無かった。剣と剣がぶつかり合い、相手の剣を避け、即座に反撃。それすらも回避する。
美しく、常に躍動感と緊迫感に満ちたそれはまるで一つの芸術作品。一瞬も気を抜く事など許されない……妖精と剣の輪舞(ロンド)……

「凄い……」
 これまでプレイしてきた、どんなゲームよりも心躍る戦いが、其処にはあった。
ゲームを始めた頃から今まで、ずっと憧れた勇者の……剣士の世界が、其処には有る。元々、リーファ/直葉には、憧れに近い形で恋愛感情を持った。それが今、敬意へと変わりつつあるのを、レコンは自覚する。
 まだ、彼女に自分はちっとも釣り合えない。元々、どこかでは分かっていた。それでも告白を強行出来た事は正直自分を誉めても良いと思うくらい勇気が必要だった。しかし、それは本当に勇気だったか?自分は所詮一生彼女と釣り合う事など出来ないと、諦め、開き直っただけでは無いのか?
そう思った時、レコンの中に、初めて味わう衝動が湧き上がった。

 ……嫌だ。
 もっと……もっと彼女の居る世界へと近づきたい……もっと……自分にも、あんな戦いが出来たら……

「よっ、どうだ?」
「あ……リョウさん……」
 後ろにリョウが居た。先頭に夢中なあの二人には最早気付かれる事は無いだろうと思いホロウ・ボディは解除していたのだ。
リョウはレコンと目があった瞬間、その瞳を少しだけ驚いたように見開く。

「へぇ……なんか影響でも受けちまったか?」
「え、い、いやその……リーファちゃんも、キリトさんも、ホント凄くて……だから、ちょっと、その……」
「はは……ま、励めよ少年」
「は、はい……」
 その後も食い入るように二人の戦いを見つめていたレコンを、リョウはニヤリと笑いながら一瞥し、二人の戦いに目を戻す。
互いの思いをぶつけあうように続いた二人の戦いは、やがて二人が同時に剣を離し、互いの斬撃を受けようとして抱き合うようにぶつかったところで、幕を閉じた。

「ったく……剣、回収しといてやるか……」
「あははは……そうですね」
 それを見て居た二人の男が、ため息交じりに小さく呟いた事など、戦っていた二人は知る由も無い。

 
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