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髑髏天使

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第四十五話 新生その十二


「そこまでな」
「わかった。それではだ」
 牧村の前にサイドカーが来た。彼はすぐにそれに乗った。
 そのうえで進む。サイドカーは全速力だった。優に五百キロは超えている。しかしその前を歩いて進む男はというとであった。
 何とだ。歩いているのにだ。サイドカーから一定の距離を保ち続けていた。
 そしてそのうえでだ。ある場所に来た。そこは。
「ここか」
「戦いの場所には相応しいな」
 牧村に身体を向けなおしてきての言葉だった。
「そうだな」
「確かにな」
 牧村は己の右手を見た。そこにはだ。あの大阪城の見事な天守閣があった。朝になろうとしているその中にだ。青い瓦と勇壮な姿をだ。そこに見せていた。
 二人はその前で対峙する形になった。そこにだった。
 もう一人も来た。やはり彼だった。
 死神はだ。ゆっくりと前に進みながら言うのであった。
「今日は朝早くからか」
「そうだ」
 男は死神にも答えた。
「嫌か」
「私に時間は関係ない」
「神にはか」
「死にはだ」 
 死神は男を見据えて言い返した。
「時間なぞ関係ないのだ」
「命が絶える時は朝だろうが夜だろうが」
「そういうことだ。だからこそだ」
「それでだな」
「その通りだ。だからこそだ」
 それでだと言ってだった。死神も男の前に出て来た。
 そしてである。牧村もであった。男と対峙していた。
「はじめるのだな」
「この城のことは知っている」
 男は彼に答えずにまずは大阪城のその天守閣を見た。そのあまりにも大きな天守閣を見てである。そのうえで話をするのだった。
「一つの家がここで滅んでいるな」
「豊臣家のことか」
「家の名前はどうでもいい」
 男はそれにはこだわらなかった。どの家かまではどうでもいいというのだ。
 だが、だった。男はさらに話してきた。
「それはだ」
「ここで家が滅び人が滅んだことがか」
「それがいいのだ」
 そうだというのであった。
「つまりだ。人間の世界で言うとだ」
「墓標だな」
「その家の墓標だ。そしてだ」
「今度は俺達のか」
「これ以上はないまでの見事な墓標ではないか」
 こう二人に対して話した。
「違うか、それは」
「俺はここで死ぬつもりはない」
「私もだ」
 二人は男の今の言葉をすぐに打ち消した。
 そしてである。そのうえでさらに言い返すのだった。
「何なら貴様の墓標にしていいのだが」
「どうだ、それは」
「生憎だがそれはまだだ」
 男は二人の言葉に悠然として返した。
「私が貴様等と戦うのはだ」
「それはまだか」
「そう言うのだな」
「その時が来れば楽しむ」
「しかし楽しむのは今ではない」
「だからか」
「その時を楽しみにしている」
 二人に対してではなくだ。自分自身への言葉だった。
 そうしてだった。また話すのだった。
「では今の相手はだ」
「今度はどの妖魔だ」
「私達に倒されるのは」
「死神よ、強気だな」
 男は死神の言葉に反応を見せた。
「また随分と」
「いつもと変わらないつもりだが」
「貴様がそう思っているのならいいがな」
「それでも何か言いたそうだが」
「いや、ない」
 男は余裕を見せたまま話す。
「だが。妖魔は既に連れて来ている」
「それはか」
「いつも通りだな」
「そういうことだ。ではいいな」
 男の目が光った。その光は銀の本来の光ではなかった。 
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