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髑髏天使

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第二十九話 小男その十


「その魂を冥界に送り届けてみせる」
「わかった。それではだ」
 紳士はその言葉を受けて。己の周りを飛ぶその魔物に顔を向けて告げるのであった。
「存分に相手をするといい」
「畏まりました」
 魔物は紳士の言葉を受けて目で頷いてみせた。
「それでは。そうさせてもらいます」
「神の血はまた違う」
「人のそれとはまた」
「そうだ、違う」
 そしてこのことも言うのであった。
「それを楽しむといい」
「では御言葉に甘えまして」
「そうするといい。では私はだ」
 マントを翻る。それを見てまた問う死神だった。
「帰るのか」
「別の場所で見させてもらう」
 そうするというのである。
「ここはだ」
「そうか、ならそうするといい」
「それではだ。両者の健闘を祈る」
 最後にこう言って姿を消すのであった。
 死神と魔物だけになった。死神は今度はその魔物に対して言ってみせた。
「いいな」
「そうね。いいわ」
 顔は男である。しかし言葉遣いは女のそれであった。
「貴方でね」
「では私もだ」
「来てくれるのね」
「相手をしてやる」
 言いながらもう闘いの用意に入ろうとしていた。
 その右手を拳にしてそれを胸の前に持って行ってであった。そうして。
 その拳を胸の前に置く。するとそこから青白い光が放たれ彼の全身を包み込んだ。
 その中から闘いの姿になる。右手にはあの大鎌がある。
 それを右手に持ったまま一閃させ。そして言った。
「来い」
「いいわ」
 こうして二人の闘いがはじまった。
 まずはそのまま飛ぶ胃ぶらりんだった。その内臓が不気味に動く。
 しかも鼓動していた。蠕動にさえ見えるその動きが不気味さを余計に際立たせていた。
 魔物はさらに不気味な笑みを浮かべてである。死神に襲い掛かって来た。
 口には牙がある。それで。
「その血。貰うわ」
「私の血を所望か」
「私は吸血鬼よ。それは当然よ」
 まさに言うまでもないというのだった。
「そんなことはね」
「そうか。それではだ」
 牙が喉に来たその時だった。
 彼は姿を消した。残像だけが残る。
 だが残像は残像だ。魔物は空を噛むだけだった。
「あら、消えたのね」
「狙う場所がわかればどうということはない」
 まさにそうだというのである。
「貴様はその程度か」
「私が大したことはないというのかしら」
「まさかこれだけではあるまい」
 死神は姿を消したまま魔物にまた言ってみせた。
「これで終わりでは」
「勿論よ」 
 魔物はここでもまた女の言葉を男の声で返した。
「それはね」
「そうか。それではどうするのだ」
「見せてあげるわ」
 死神のその声に応えるとであった。身体が幾つにも分かれた。しかもであった。
「これは分身ではないわよ」
「実体か」
「そうよ。私は身体を幾つにも分けることができるのよ」
 それが可能だというのである。 
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