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髑髏天使

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第二十九話 小男その九


「僕は虹蛇っていうんだ」
「虹蛇か」
「それが僕の名前だよ」
「名前と顔は今覚えた」
 牧村はこう彼に告げた。
「今ここでな」
「記憶力いいんだ」
「そう思っておくといい」
 素っ気無い返答は相変わらずである。
「言うのはそれだけだ」
「そうなの」
「そしてだ」
 告げたうえでさらに言ってみせるのだった。
「俺と闘うのは貴様か」
「それでいいかな」
「俺は誰であろうが相手は拒まない」
 真に実力がある者の言葉を。今ここで言ってみせたのあった。
「それだけだ」
「そう。じゃあ決まりだね」
「来い」
 彼から告げた言葉である。
「貴様の魔物を出すのだ」
「それじゃあ」
 彼と魔物の闘いがはじまろうとしていた。
 そして死神は。紳士と対していた。二人はもう睨み合っていた。
「貴様と対するのもだ」
「久し振りだな」
「容赦するつもりはない」
 こう彼に返した。
「貴様自身が相手でもな」
「闘うのも面白い」
 紳士は死神のその言葉にこう返した。
「それもだ。だが」
「今は違うのだな」
「既に魔物を呼んでいる」
「そうか」
「その者と闘ってもらう」
 これが彼の言葉だった。
「嫌なら私が闘おう」
「相手がいるのならいい」
 死神は魔物でいいとした。
「貴様の魂は今は預けておく」
「そうするのか」
「では。その魔物を出すのだ」
 あらためて彼に告げた。
「早くだ。出すのだ」
「焦る必要はない」
 それはないと返す。
「特にだ。焦ることはない」
「どの道闘うことになるからだな」
「そういうことだ。それではだ」
「はい、ヴァンパイア様」
 紳士の言葉に応えてだ。その真名を呼んでみせる声が聞こえてきた。
 これこそがであった。魔物の証であった。魔物は自分達の主をその真の名前で呼ぶ。今そう呼んだことがその証なのである。そうであるのだ。
 そして今。首だけの魔物が姿を現した。だがその首から下には人間の内臓がそのまま付いている、その姿で己の耳を使って飛んで来たのである。
 死神はその彼の姿を見て。すぐにその名前を察した。
「胃ぶらりんだな」
「その通りだ」
 紳士が彼の言葉に答えた。
「やはり知っていたか」
「夜の中を飛び人の血を吸う魔物」
 それだというのである。
「貴様の眷属だな」
「姿こそ違うがその通りだ」
「そうだったな。吸血鬼だ」
「この者が貴様の相手だ」
 紳士はまた彼に対して告げてみせた。
「それでいいな」
「私もまた同じだ」
 構えは取っていないが既に目は構えを取っていた。そのうえでの言葉である。
「相手をするとなればだ」
「誰でもいいのだな」
「全力で斬る」
 一言であった。 
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